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がーるずとーく Ⅱ

 千葉県の田舎にある千葉県立北総高等学校通称北高。


 その敷地の端にポツンと建つ古い木造校舎の一室では、この部屋を部室として占拠している関係者たちが男子部員がひけらかす人間としての器の小ささを実感しながらとりとめのない会話を楽しんでいた。


 それはまったく中身のないものである。


 しかし、彼女たちのことをよく知るすべての北高関係者は口を揃えてこう言う。


「部活動がおしゃべりをしているだけ?結構なことではないか。彼女たちがお菓子を食べて雑談しているだけで済むなら我々にとってこれほど幸せなことはない」


 教師たちが畏怖する彼女たちが属する組織。


 その組織こそ、悪名高き創作料理研究会であり、それを統べるのが、小野寺麻里奈なのである。


 さて、今日の彼女たちの会話はこれである。


 それはエセ文学少女の進言どおり備品の強硬搬入をおこなわれた数日後にことであった。


 恵理子は職員会議、まみがクラス代表として妙に名前が長いなんとか会議で部室にやってくるのが遅くなることを知った春香は、すぐさまぼんやりと座っていた恭平を拳で眠らせ、密談にふさわしい場をつくり上げる。


 そして、それを渡した。


「まりん、頼まれていた例のブツだ。ほい」


 カメラが趣味である自称お嬢様が、そう言って麻里奈に手渡したものは、この部に所属するある部員が写る三枚の写真だった。


 だが……。


「何だ、その軽蔑するような眼差しは。言っておくが、私はまりんとヒロリンの注文通りに写真を弄っただけだぞ」


「記憶にございません」


「私も知らんな。それから念のために言っておくが、この写真のおかげでお嫁にいけなくなったから責任を取ってくださいとまみたんに言われたら、もらい受ける役は春香だからな」


「そうですね。PL法があるこの時代ではこの写真を弄ったハルピがすべての責任を取ることが世の理に沿った正しい方法というものです」


 ふたりは大急ぎで春香に罪を擦り付けるが、そうは問屋が卸さないところが、馬場春香がふたりとともに「悪の三巨頭」と呼ばれる所以であろう。


「ふたりの言い分は殺人事件で罪を問われるのはそれを使用した者ではなく使われた凶器だと言っているようなものだぞ。だいたい、たとえ相手がまみたんであっても、私はまりんと違って女子を好きになるなどという変わった性癖は持ち合わせていないので引き取りは謹んでお断りするぞ」


「私にだってそのようなおかしな性癖はない」


「そうか?私にはとてもそうは思えないが。ところで、まみたんの写真を撮るときにたまたま恵理子先生がいて、自分も撮ってくれとうるさかったので仕方なく写真を撮った。しかも、あのおばさんは自分の年齢とモデルとしてのクオリティをまったく無視して誰でもコロッとなるような見合い写真をなどと無理難題を言いおったので、リクエストどおりに加工してやった。なかなか面白いものができあがったから、ついでだからそれも進呈してやってもいいぞ?もっとも、かなりの優れものに仕上がっているので、恐ろしいものを見る覚悟と勇気がなければオススメはできないがどうする?この勝負を受けるか、受けないか」


「ほ~言うではないか。いいだろう、その勝負受けてやる。いただこう」


「とりあえず見せてもらいましょうか。そのハルピの傑作とやらの出来栄えを」


「よろしい。では、とりあえず御開陳」


 そして、ふたりは後悔する。


 盛大に。


「わぁ~。本当におそろしいものを見てしまった。こんなものを持っていたら夜トイレに行かれなくなりそうだから返却してもいいか?」


「そうはいかない」


「それにしてもすごいものが現れました」


「うむ。確かに見てはいけないものベストテンに入りそうではあるが、我ながら渾身の力作ではあるとは思っている」


「でも、さすがに先生にうちの学校の制服はないよ。これは我が校の制服に対する冒とく以外のなにものでもない」


「まったくそのとおりです。それにしてもおばさんということを差し引いてもこれだけセーラー服が似合わない人もいませんね。しかも、このスカートの短さ。さらに言えば、この不気味な笑顔はなんでしょうか?」


「やはりキモいか」


「さすがにこれは、『おばさん教師の若作り陳列罪』で訴えられることはあっても、お見合いに有効とは思えないぞ。それで、先生はこれを見て何と言ったのだ?」


「感想も何もこんなものを見せられるわけがない。もちろん加工前の写真をくれてやった」


「そうだな。それがいい。間違って先生がお見合い写真などとこれを世間にばら撒いたら、それこそ大惨事だ。そうなれば先生だけでなく我が創作料理研究会の名前にも傷がつく」


「まったくです」


「だが、せっかくつくったのだ。有効活用してくれ」


「そう言われてもこれを活用できる場所など思いつかん。……そうだ。校長たちにこれを渡してみるか。もしかしたら、まみたんのものよりこっちのほうが爺さんどもには評判はいいかもしれない。……と、とにかく私はこの呪われた写真を早く手放したいのだ。わかるだろう?私の気持ち」

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