北高教師上村恵理子の災難
「先生、私の兄である小野寺徹とデートしたくない?」
千葉県立北総高等学校の教師上村恵理子二十四歳。
この女性教師のおもしろすぎる転落人生は入学式から十日ほど経ったある日、彼女のもとにやってきた麻里奈のこのひとことから始まる。
それまでの彼女は公私両面で評判がよく、その外見のかわいらしさもあって生徒だけでなく教師たちからも人気があり、心の中で彼女を将来のお嫁さん候補の最上位に挙げていた同僚も少なからず存在していた。
だが、麻里奈がデートの条件として挙げた創作料理研究会の顧問就任を恵理子が承諾してからわずか半月後。
彼女を見る男性教師たちの目はすっかり冷たいものになっていた。
そして、それと時を同じくするように職員室内に広まった彼女の称号がこれである。
「強欲守銭奴教師」
諸般の事情により、この時点ではすでにそれそのものを否定することが困難になっていた恵理子はこれはすべて諸悪の根源小野寺麻里奈が原因であり自分はあくまで被害者のひとりであると主張した。
だが、この「強欲守銭奴教師」という称号を最初に使用した某クラブの部員たちは恵理子が涙ながらに訴えたその言葉のすべてを真っ向から否定した。
彼女たちは語る。
「だいたい、先生の性格が変わったのは春香さんの通帳を見た後からです。それまではまったく普通でした。ですから、直接的な原因はまりんさんではありません」
「いやいや恵理子先生のあれは、性格が変わったのではなく、化けの皮が剝がれた結果だよ」
「そうですね。私たちは入部してからも性格が変わっていないのですから、恵理子先生だけが性格が変わったという主張には無理があります」
「まあ、橘の変態性が入部してから千パーセント増したという例外はあるが」
「おい、それは違うぞ。それを言うならおまえの狂暴性こそ○%×$☆♭♯▲!※……」
「あなたたちは私を何だと思っているのよ?」
「強欲守銭奴教師」
「ケチで欲深なセコいおばさん」
「拝金主義者」
「小銭大好き恵理子ちゃん」
「え~と、先生は本当にお金が大好きです」
「それ全部違うから」
……双方の意見はどこまでも相反していた。
……だが、そのどちらが本当に正しい主張をしていたのかは、その人物のこのあとの言動によって徐々に、いや清々しいくらいにあっさりとあきらかになる。




