Round Table
とりあえずは部員というか部員候補の五人が揃ったところで最初の打合せをおこなうことになったのだが、まだ届け出を提出しておらず学校からクラブとしての認可を受けているわけではないので正式にはまだ同好会ですらなく、当然部室など割り当てられていない創作料理研究会の部員たちが向かったのは彼女たちがよく立ち寄る駅前にある春香の父親が所有するビルの二階にあるハンバーガーショップ「ネフェルネフェル」だった。
これは少し先のことになるのだが、この「ネフェルネフェル 渡海駅前店」は、創作料理研究会関係者が頻繁に利用している店であることがわかると、あっという間にあの宗教の信者たちの聖地となる。
やがて、この店はその宗教団体の関係者が使い始めた「サテライト」という愛称で呼ばれることのほうが多くなり、またチェーン店であるにもかかわらず多くのローカル・ルールが存在し創作料理研究会部長の名前を冠したこの店のみのオリジナルメニューが多数用意されるなど独自の発展を遂げていくことになる。
そして、その席を巡って頻発した巡礼者同士によるトラブルを防ぐために急遽設けられたローカル・ルールのひとつによって創作料理研究会関係者以外は食事ができない場所となり、「ホーリー・オブ・ホーリーズ」と呼ばれる特別なシートとして聖地巡礼でやってきた信者たちが行列してでもそこに座る自分たちの記念写真を撮りたい席こそ、この日麻里奈たちが偶然確保しのちに彼女たちの定席となる店の中央にある六人グループが使用できる円型テーブル席である。
「じゃあ、始めるからね。最初に役割を決めないといけないよね。まず部長は私で……」
「ん?まりんさんが部長をやるのですか?」
「そうだよ」
それぞれが注文したものを持って席に着くとさっそく打ち合わせが始まったのだが、コーラをズルズルと大きな音を立ててストローで吸い上げると、誰からも推薦をされないうちから自分を部長と決めて話を進めようとする麻里奈に対して博子が意外そうな表情でそう訊ねたのだが、それにはそれなりの理由がある。
麻里奈のこれまでの行動はすべて「自分が好きな時に好きなことだけをやる」という行動規範に基づいたものであり、その麻里奈がどう考えても彼女にとっては面倒なことの部類に入る部長職などというものを自ら進んでやるなど麻里奈の人柄をよく知る博子にとっては信じられないことだったのだが、麻里奈には麻里奈の事情があった。
それが何かといえば、「食べる料理を自分が決める」というこのクラブで活動をおこなっていくうえでの彼女の最重要事項の存在である。
そのためには渋々だが部長をやらざるを得ず、誰かが間違って部長に立候補しようものならいつものアレを発動させてでも部長職をつかみ取るつもりでもいたのだが、この創作料理研究会そのものが麻里奈のよからぬ目的完遂のためだけにつくられたようなものであり、そのようなクラブがひとたび活動を開始すればトラブル続出は目に見えておりトラブルが起こるたびに関係各所に謝罪に行かねばならない百害あって一利なしの見本のようなこのポンコツクラブの部長職などをわざわざ引き受けたいと思う物好きな者などいるはずもなく、誰もそれに対して異議を申し立てることはなかった。
「次は副部長だね。やりたい人は……」
今度はお洒落でもなければかわいくもない黒縁メガネをかけた地味顔の女子高校生が「ハイハイ」と、この店で一番安く「諭吉さんどころか漱石さんだって私の財布にやってくるのは年数回だけです」などと自分の貧乏を自慢する彼女がこの店で購入できるただ一つのハンバーガーである大きな胸に反比例するような小さな百円ハンバーガーを力強く握りしめて立候補をすると、これも簡単に了承されて創作料理研究会が誇る「悪のツートップ」の正式結成が無事完了した。
「次は料理係。名誉ある創作料理研究会の料理係はまみたんとヒロリンだよ」
「わかりました。一生懸命がんばります。よろしくお願いします」
「料理係。あ~なんと甘美な響きでしょうか。まさに料理上手な私にふさわしい称号です」
麻里奈曰く名誉があるその料理係とやらに、まみとともに任命され博子はうれしそうに両手を上げて元気に返事をした。
「ようやく私の時代がやってきました。これからは古い概念を打ち砕く時代の先を行く彩り豊かなおいしい料理をたくさんつくりますから、楽しみにしていてください」
アイデア満載の料理作りができることに喜びを爆発させ、自分の抱負を大いに語る博子であったが、実は彼女の料理には決して知られてはいけない恐ろしい秘密が隠されていた。
時が来ればそれはあきらかになるのだが、その秘密を知る唯一の人物である麻里奈は念願が叶い自己陶酔に浸る博子の言葉を聞き流しながら、自分のすぐ近くに座るある人物に目をやった。
もちろん彼女は知っていた。
それが始まればこの人物の身に何が起こるかを。
「……さて、最後は恭平だけど……」
「おう」
部活動中には試食と簡単な手伝いをするだけでよいというお墨付きを部長の麻里奈から得ていた恭平は、この時すでに大船に乗った気でいたわけなのだが、麻里奈に乗せられたその船というのは大船どころかとんでもない泥舟だったことが創作料理研究会の本格的な活動開始とともに判明する。
だが、その時にはもうその泥舟は岸から遠く離れているため恭平には溺れる以外の選択肢は残されておらず、一方恭平をその泥舟に乗せた張本人は豪華な大船に乗って彼が溺れる様子を鑑賞し笑い転げるという恭平にとっては不愉快極まりないことが起こるのだが、その悲惨な出来事が起こるのはもう少し先のことである。
「恭平はヒロリンがつくった料理の試食をやってね」
ということで、これがその泥舟の正体となる。
もちろん、これがどういうことを意味するのか、まして、これによってこれまで以上の大いなる災いが自分の身に降りかかることになるなど、この時点ではわかるはずもないのだが別の理由により恭平が異議を唱える。
「ちょっと待て。おい、麻里奈。それは話が違うだろう」
麻里奈からは創作料理研究会に入部すれば憧れのまみの手作りお菓子を毎日食べられると聞かされており、自分のこのクラブにおける一番の仕事と言われていた試食でもまみがつくった料理を食べるものと思い込んでいた恭平がここで異議を唱えるのは当然のことなのだが、それとともに、実はこれがこれから続々と自分のもとにやってくる災難を回避できる最後のチャンスでもあった。
だが、このような事態が起こることを始まる前からわかっていた麻里奈はその対策のために嫌がる恭平を無理やり自分の右隣に座らせていた。
そして、それは起こった。
「……恭平さん、これは私があなたのために一生懸命考えた完ぺきな作戦よ。あなたがまみさんではなくライバルである博子のつくったものばかり食べて『おいしい』と言ってごらんなさい。きっとまみさんは焼きもちを焼くわ。そして、まみさんはあなたにこう言うの。『橘さん、私がつくったものも食べてください』と……」
麻里奈がここぞという時にだけに使う大人の女性が少年を誘惑するようないつもよりやや低音の甘美な声はごく自然に恭平の退路を断ち、ローレライ伝説のように彼女が用意した泥舟へと恭平を優しくいざなう。
そして……。
「……どう?」
「なるほど。さすが麻里奈だ。気がつかなかったが、まったくそのとおりだ。よし、わかった」
麻里奈が耳元で囁いた甘い幻想に導かれ、行ってはいけない世界への記念すべき第一歩を踏みだすことを決めたその男子高校生は勢いよく立ち上がると胸を張ってこう宣言した。
「俺はヒロリンの試食係をやる。いや、ヒロリンがつくった料理の試食は俺ひとりにやらせてくれ」
それはこの男子高校生が一度乗ったら降りることができない泥舟に自ら乗船すると表明した瞬間であった。
「さすが恭平。わかった。恭平がそこまで言うのなら恭平はヒロリンの料理専属試食係だよ。ヒロリンもそういうことだから恭平に特別おいしい料理をつくってあげてね」
「わかりました。では恭平君。私のおいしい料理を独り占めできることを感謝してください」
「おう」
「ということで、ヒロリン専属試食係に決まった恭平に拍手~」
泥舟に乗るただひとりの客を買って出た愚かな勇者に対して、麻里奈はまさに邪神が勇者をあくどい罠に嵌めたときに見せるような邪悪な笑みを浮かべながらわざとらしく大きな音を立てて盛大な拍手を送ると、なにやら文字がタップリと書かれた紙を取り出した。
「じゃあ、これが契約書。主な内容はまみたんとヒロリンが料理係。私と春香がまみたんの専属試食係。そして、恭平がヒロリンの専属試食係と雑用係」
「ん?」
「あれ?」
……肝心の恭平が気づかなかったのでほかの三人もあえてそれを指摘することはなかったのだが、その契約書にはなぜか先ほど決まったはずの恭平の係がすでに書かれていた。
それが何を意味するのかはさておき、わずか五人の弱小同好会の役割分担に契約書の作成とはずいぶん大仰なことだと春香やまみは半ばあきれ気味にサインをしたのだが、ここでの例外である恭平は親切で優しい幼なじみが用意してくれた憧れのまみと過ごす楽しい部活動、さらにそこから続くまみとの恋愛成就までの明るい未来を想像し、麻里奈に心の底から感謝をしながら嬉しそうにサインをした。
それが実は自らの死刑執行許可書に等しいものだということも知らずに。
「それから顧問だけど……」
北高の規則ではクラブは必ず顧問の教師を置かなければならないことになっているのだが、それは部だけでなく同好会にも当てはまる。
もちろん、同好会が専任の顧問を置くことは稀で、たいていの同好会の顧問は名ばかりであり、そういう事情からか複数の同好会の顧問を掛け持ちする教師は北高ではそう珍しいことではなく、なかには生徒の懇願を断り切れずに八つの同好会の顧問を引き受けてしまった強者教師もいたりするのだが、さすがに活動内容もよくわからないこのクラブの顧問を引き受けてくれる奇特な人物をこの短期間に見つけてくるのは困難に思えた。
だが、こういうことだけは手際がよい麻里奈はいつものようにいつどこでどのようにやってきたのかはまったくわからないものの、すでにそれは決着していた。
「料理研の上村恵理子先生にお願いしてあるから」
創作料理研究会の顧問を引き受けたというその奇特な人物である料理研究会の顧問上村恵理子という女性教師は、生徒たちだけなく男性同僚たちからも人気がある温厚で童顔の美人であった。
「ということは、料理研と掛け持ちということですか?その上村先生は」
着席時に博子と春香を押しのけてすばやく麻里奈の左隣の席を確保してうれしそうに座ってからはいつも以上に幸福感満載のすてきな笑顔を振りまいていた創作料理研究会唯一の常識人であるが実は本物の麻里奈ラブであるまみがそっと訊ねると、チョイチョイと人差し指を軽く横に振りながら麻里奈は悪巧みが成功したときにだけ見せる黒い笑みを浮かべながら答えた。
「違うよ。うちの専属。料理研から引き抜いた」
「えっ」
ひとりを除く全員がほぼ同じ反応を示した。
当然である。
その上村先生とやらが程度の差はあるものの所属している自分たちでさえもそう思っているこの怪しげなクラブの顧問を引き受けただけでも十分驚きだというのに、由緒正しき料理研究会の顧問を辞めてまで活動内容も定かではない創作料理研究会の専属顧問になるとはいかなる了見なのか。
「……それはすごいですね」
誰がどうすごいのかはそれぞれ違うようであるが、とりあえずは思わずその言葉を口に出してしまったまみだけでなく、ほかのふたりも同じような感想を持っていたわけなのだが、どうやってそれが実現したのかという肝心の部分を訊ねることについては諸事情により三人が躊躇するなか、麻里奈よりはほんの少しだけ常識はありそうな黒縁メガネをかけた地味顔のエセ文学少女ヒロリンこと立花博子がわざとらしい小さな咳払いの後に、遠慮のかけらもなく思ったことを堂々と口にした。
「それで、今回は上村先生のどのような弱みを握って脅したのですか?」
麻里奈とつきあいが長く、麻里奈がこれまでおこなってきた数多くの悪事に深く関わってきた彼女であればこのような結論に辿りつくのは当然といえるだろう。
だが、どうやら今回は違ったらしい。
あくまで麻里奈基準ではあるが。
「失礼なことを言うヒロリンだね。脅してなんかいないよ。上村先生は兄貴と高校が一緒らしかったので、『うちの専属顧問をやったら、兄である小野寺徹とデートさせてあげる。その後についても、創作料理研究会に対する貢献具合によってはゴールインまで妹として全面協力するよ』と言ったら、『どうか顧問をやらせてください』と土下座して泣いて頼まれたから、しかたなく上村先生にお願いすることにしただけだよ」
「ブハァ~」
ここで博子が飲んでいたコーラを盛大に吹き出すというちょっとしたアクシデントが発生した。
「どうしたの?ヒロリン」
「吹き出すほど面白い話でもなかったよ。むしろコーラを吹きかけられた橘のぶざまな顔のほうがずっと面白いかった」
「俺は全然面白くない。ヒロリンよ、俺に何か恨みでもあるのか。言っておくが、悪の手先であるおまえは俺に恨まれることを山ほどしているが、名門北高男子の鑑である善良な俺はおまえに恨みを買うようなことは一度たりともしていないからな」
「恭平君の今の発言には大いに異議を唱えたいのですが、とりあえず今回はすいません。それにしても、麻里奈さんのその言葉を信じて顧問になってくださった上村先生には本当に申しわけないと思っています」
この時、この場にいるほぼ全員が博子のその言葉は麻里奈のペテンの被害者を憐れんだものと素直に受け取ったのだが、なぜか唯一の例外である麻里奈だけは他の三人とは違いちょっとしたいたずらに成功した子供のような笑みを浮かべていた。
もちろん、それは麻里奈が博子が口にした言葉の本当の意味を正確に理解していたからなのであるが、麻里奈以外の残りの部員がそれを理解するのはこれから約二か月後となる六月に起こるある事件の時まで待たなければならない。
さて、話を元に戻すと、その上村先生とやらが顧問をやらせてくださいと土下座して泣いて頼んだ事実などこの世のどこにも存在しないのはいつものことであるのだが、それ以外にも麻里奈がその情報をどうやって入手したのか、また七歳年上の兄小野寺徹には上村先生とデートをすることについての了解を本当に取っているのかなど数々の疑問と疑惑は残るものの、それはそれとして、これとほぼ同じ内容のペテン話がごく最近麻里奈の周辺であったのだが、そのもうひとつのペテン話の被害者は愚かにもそれにはまったく気がつかず、それどころか恥ずかしげもなく思ったことを堂々と口にした。
「それにしても、たしかに徹さんは麻里奈と違って見た目だけでなく中身も男も憧れる本当にカッコいい人ではあるけれども、それでも男に釣られてホイホイ麻里奈がつくった怪しげなクラブの顧問を引き受けるとは間違いなくアホだな。その上村という教師は」
あまりにも恥ずかしすぎる恭平のこの言葉にいち早く反応したのは、先ほど自らがテーブルにまき散らしたコーラを拭いていた博子だった。
「それは言えますね。まったく恭平君の言う通りです。こんな恥ずかしい罠に引っかかる人がこの世にまだいたなんて信じられません」
彼女に続くのが、恭平がこの怪しげなクラブに迷い込むきっかけとなったあの写真を撮影し、さらにモデルであるまみの了承を得ないままいかがわしさ満載のものに弄った張本人、いわば麻里奈のペテンの片棒を担いだ人物である。
「まったくだ。こんな恥ずかしいペテンに引っかかる愚かなヤツは破廉恥罪で今すぐに死刑すべきだとは思わないか、橘」
ふたりとも恭平の言葉に賛意を示しているようにも聞こえるのだが、あきらかに同じペテンにかかった恭平のことを皮肉ることが主目的であり、麻里奈も博子や春香と同様の意見だったのだが、「恭平、あんたはそれ以上だけどね」という心の声を口どころか表情のどこにも出すことはなくニッコリと笑っただけで済ませ、この日の会議は終了し解散となった。
その後、いつも一緒に帰る博子が用事があると言ってさっさと帰ってしまったために麻里奈は二軒隣に住む恭平と帰ることになった。
道すがら何やら話し合うふたりは遠目には美男美女のカップルが帰り道で愛を語らっているかのようにもみえたのだが、実際におこなわれていたのは小心者で疑い深い恭平が自らにとっての最重要案件について麻里奈に執拗に確認しているという、ロマンチックな雰囲気など微塵も感じさせない無粋きわまりないものだった。
もっとも、そのすべての責任を恭平に押し付けるというのは酷というものであり、もし彼に弁明の機会があれば「これは麻里奈の約束不履行のおかげでひどい目に遭った数多くの苦い経験に基づいておこなっているやむをえないことであり、特に今回は学校どころか地域で一番かわいいという評判である全校男子のアイドル松本まみとのデートがかかっているのだから、自分が念には念を入れるのは当然のことである」という公平にみれば正しいといえる主張をしたに違いない。
さて、その会話だがちょうど佳境に入っていた。
「……俺がおまえとヒロリンがつくったそのなんとか研究会で仕事をしたら、松本とのデートのセッティングを間違いなくしろよ。今度は誤魔化されないからな」
「なんとかじゃなくて創作料理研究会。自分が三年間お世話になるクラブの名前くらいちゃんと覚えなさいよ。とにかく、ヒロリンがつくった創作料理をあんたが毎回完食して『おいしい』と言ってくれればちゃんとまみたんとデートさせてあげるから、まずは試食の仕事をがんばりなさい」
「約束だぞ」
「あんたこそ約束したことをちゃんと守れるの?なんといっても、あんたは幼稚園どころか小学校に入ってからだって、毎日のように泣きながら私の後に隠れて女の子に守ってもらっていた過去を持つ世界で一番恥ずかしいヘタレ男だからまた泣きながらこそこそ逃げていきそうだよね。言っておくけども、もし今回約束を破ったらあんたが毎回お漏らししながら私のところまで逃げてきた恥ずかしい過去を北高どころか南校にも熨斗付きで宣伝してあげるからね」
幼稚園だけでなく小学校に入ってからもよくいじめられ、当時たとえ上級生の男子相手の喧嘩でも兄の徹や博子とともに五歳から習っていた護身術を駆使して圧倒的勝利を重ねていた麻里奈に毎日のように助けてもらっており、「まりんのスカートの中に隠れる最弱男子」、「お漏らし恭平」などと、女子にまでバカにされていた触れられたくない幼年時代の黒歴史を麻里奈に公道上で披露され、その場にふたりしかいなかったにもかかわらず掻きたくもない汗をタップリと掻いた恭平は言わなくてもいいことをつい口走ってしまう。
「失礼なことを言うな。現在の俺はおまえと違って約束したことは必ず履行する信用がおける男だ。心配するな。たとえヒロリンがどんなまずい料理をつくろうとも三年間毎回あっという間に完食して大きな声で美味しいと十回でも二十回でも言ってやる。もし俺がこの約束を守れなかったりクラブから逃げ出したりしたら毎日全裸で家と学校を往復してやる。その代わりおまえも約束を破ったら全裸で学校に行かせるからな。今俺が言ったことをよく覚えておけ」
「わかった。その言葉よく覚えておくわ。いや、こういう大事なことは書面で残した方がいいよね」
「いいだろう。これで逃げられないぞ」
「そうだね。まったくそのとおり」
この後にふたりはこの日二件目の契約を結ぶことになるのだが、これから起こることを考えれば、恭平にとってこれこそ本当にやってはいけなかった悪魔との契約だったと言えるだろう。
彼自身も「自分のこれまでの人生の中で最悪の出来事があれだった。あれさえなければ、俺は正当な評価を受け立派な北高男子として卒業式を迎えられたに違いない」と、強い後悔の気持ちを滲ませた言葉を高校卒業間際に残している。
なお、ふたりが結んだこの契約は高校卒業後も効力を持ち続け、最終的にはこれから九年後ふたりが新たな契約を結ぶまで続くことになるのだが、ふたりの力関係そのものは新契約締結後も今とまったく変わらなかったのは言うまでもないことである。
サブタイトルは、よく聴いていたROUND TABLE からの拝借です。
ROUND TABLE featuring Nino と言ったほうがわかりやすいのかもしれませんが、without Ninoもいい曲がたくさんあります。




