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小野寺麻里奈は全校男子の敵である  作者: 田丸 彬禰
第三章 ザ・ファイナル・ピース
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創作料理研究会の携帯電話事情 Ⅰ

 ……創作料理研究会唯一の男子部員である橘恭平が籍を置く一年F組の教室。


「おい、恭平。おまえに重大任務を与える」


「別に与えられてなくていいが、とりあえず聞いてやる。何だ」


「松本まみの携帯電話の番号とメールアドレスを教えろ」


「やっぱりそれか。何度も言っているが本当に知らん」


「こいつ、重要情報を独占しようとしているぞ。情報公開が常識であるこの時代に生きている者の言葉とは思えない発言だ」


「それを言うなら、個人情報保護という言葉もある」


「生意気な」


「拷問にかけよう」


「恭平。ゲロするか、それとも公開処刑になりたいか。選択はふたつにひとつだ」


「ゲロするも何も、俺は本当に知らん。というか、教えてくれない。ほら」


 恭平はそう言ってガラケーとも呼ばれる古い携帯電話にあるアドレス帳を開陳した。


「……ん。たしかにない」


「本当だ」


 とりあえず、無実の罪による公開処刑は免れたものの、友人たちからの評価は数段階下がり、彼の存在意義は更に十段階ほど下がった。


 そして、こうなる。


「まったく使えないヤツだな。罰として今からA組に行って聞き出してこい」


「聞いてくるだけなら自分たちで本人に聞けばいいだろう。もちろん、わかったら俺にも教えてくれ」


 それは彼の心の叫びでもあったのだが、物事が恭平の希望どおりにはならないことは有史以来の鉄則であり、案の定すべては彼の幼年時代から続くお決まりのコースへと粛々と進む。


「それができるなら、バカなおまえになど頼むはずがないだろう」


「そうだ。松本まみにはあの小野寺麻里奈がもれなくついてくる」


「だから?」


「だから?も何もないだろう。おまえだって俺たちがあの小野寺麻里奈にどれだけ恥をかかされたかを知っているだろう」


「いや、知らない。麻里奈案件で知っているのは自分自身の悲しい過去ぐらいだ」


「嘘をつけ」


「本当に知らん」


 話が進まないので、自分にとって都合のよいこと以外は脳に届かないありがたすぎるフィルターが備わっているために本当に何も知らない恭平に成り代わって説明をすれば、彼の同級生たちの最初の悲劇は入学式直後だった。


 式典で新入生代表としてあいさつした麻里奈の美しい外見と「天使の声」または「悪魔の囁き」とも評されるあの声に引き寄せられ麻里奈のもとに押し寄せた男子生徒は全員めでたく討ち死にした。


 しかも、ただの討ち死にではない。


 多くの女生徒がいる中でこれでもかと思われるくらいの罵詈雑言を投げつけられて周りにいた女子全員に嘲笑されながら追い払われたのだ。


 当然そうなってしまえば、その後の失地回復など望むべくもない。


 だが、彼らの悲劇はこれで終わらない。


 続いて、この学校で一番かわいい女子高校生である松本まみを入部させるための多くのクラブが参加しておこなわれた熾烈な勧誘合戦も空しく、まみは「創作料理研究会」なる無名の組織に入部したことが発覚した。


 さっそく自分たちもその「創作料理研究会」に入部しようとした彼らを待ち受けていたのがまたしても麻里奈だった。


 結果はいうまでもない。


「……わかったか?」


「ああ。とりあえず」


「ところが、聞くところによれば、おまえはあの小野寺麻里奈の腰巾着を始めたそうではないか。最低の人間であるおまえが小野寺麻里奈にどのような恥ずかしい手段を使って取り入ったのかは想像できるが、とりあえず今回は褒めてやる。理由はわかるな」


「いや、まったくわからん」


「腰巾着であるおまえなら、小野寺麻里奈の近くに行っても何も起きない。わかったらおまえの唯一の存在意義を示すために即出発だ」


「いやいやいや、おまえたちの話は色々な部分が大きく間違っているぞ。それに、麻里奈がしなくても、それ以上に凶暴な……」


「とにかく行って来い。今すぐに」



 

 ……それからしばらく経った廊下の一角。


「恭平には少しだけ悪いことをしたな」


「そうだな。心の中で詫びておくか」


「そうしよう」


 それが戦果確認のため一年A組をこっそり覗いていたF組男子たちの感想だった。


 彼らがそこで見たもの。


 それは麻里奈だけでなく、エセ文学少女と自称お嬢様も加わっての三方包囲「口撃」を受けた挙句、春香による「ご褒美」と称する厳しいお仕置きをされて多数の女子生徒の前で涙ぐむ哀れな男子高校生の姿だった。

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