The Dark Side of The Moon 2
あの日から少しだけ時間が進んだある日。
博子が住むアパートに隣接する広大な敷地に建つ千葉の田舎には不似合いなレンガ造りの洋館の二階、カーテンを閉め切ったその部屋ではひとりの少女を中心してこのような会話が交わされていた。
「……お嬢様、報告は以上でございます」
「ありがとうございます」
「決まりですね。さっそく対処に出かけますか」
「出かけましょう。出かけましょう。強盗に見せかけて全員刺殺というのはどうでしょう?」
「いや、撲殺だ」
「私もこの前のダニ教師追放工作程度では仕事をした気がしませんでした。全員の処理を私にお任せください」
「……皆さん何やら非常に張り切っていますが、そもそもあなたたちの仕事とは私の身辺警護ではないのですか?」
「そ、そのとおりです」
「申しわけありませんでした」
男たちを一言で黙らせた彼らにお嬢様と呼ばれた少女は考える。
……しかし、彼らの言うとおり立花家の人間という私の立場上、やられたからには報復はたしかに必要です。
……さらに言えば、私とまりんさんを襲撃した五人の男はすでにこの世の住人ではない。彼らと連絡が取れなくなった依頼者は不審に思うのは当然だ。万が一逃亡でもされたらやっかいです。
……私が直接指揮すれば完璧なものが出来上がるでしょうが、私は高校に行かなければならない。なにより「汚れ仕事」に手を染めることを禁止されている。
……さて、どうする?
「首謀者が判明した以上報復をおこなうのは当然です」
「お嬢様のおっしゃるとおりです」
「では、直ちに準備を……」
「ですが、私は家族全員を生きたまま火葬にする程度では腹の虫が収まりません」
「ということは、お嬢様はそれ以上のことをお望みですか。もしかして、いつぞやのように硫酸を飲まさせるのでしょうか?」
「あれはひどかった。しかし、できもしないこととはいえ、お嬢様を害しようなどと愚かなことを考えたわけですから、その程度のことは当然の報いというものです」
「自業自得ですな」
「まったくです」
「違います」
「それでは、アレでしょうか?」
「アレですか……生きていることを後悔しながら死んでいくという」
「いいでしょう。では、さっそく準備を」
「アレが何を示すのか私にはさっぱりわかりませんが、とりあえず違います。どうやったらそのように次から次へと残酷なことが思い浮かぶのですか?」
「では、どのような方法でしょうか?もちろん我々はお嬢様のお望みの方法で無礼な凡俗どもを処断してくることをお約束いたします」
「そうですか。では、私の望みを言います。私は首謀者の首を真綿で少しずつ締め上げて最終的には泣きながら家族とともにこの世から自主退場するように仕向けたいです」
「なるほど。さすがお嬢様」
「当然時間がかかりますので、東京に連絡してしかるべき者を派遣してもらいその者に専任で対処してもらうことにします。ということで、あなたたちはこれまでどおり私の警護に励んでください。もう一度言います。あなたたちは手出し無用です」
「……承知いたしました」
……それにしても、息子が卒業生代表で答辞を読み上げられなかったことをここまで恨んでいたとは驚きです。それとも、三年前に息子がまりんさんに顔が腫れあがるまで殴られたことを根に持っていたということでしょうか。私に言わせれば、他人を恨む前にまず不肖の息子をしっかり教育すべきだったと思うのですが。




