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閑話「女子高生『まりん道』を語る」

 千葉県の田舎にある千葉県立北総高等学校通称北高。


 その教室のひとつの一角に少女たちが集まっていた。


 彼女たちにはある共通項があった。


 まず、全員が一年生。


 そして、より重要なのが、全員が「麻里奈教徒」であることだった。


 もっとも、この学校の一年でこの熱病に冒されていない女子生徒は博子や春香などごくわずかだったのだが。


 さて、そういうことで全員が「麻里奈教徒」である彼女たちが集まって話すことといえば、当然ご神体である麻里奈のことである。


 そして、その日、ひとりの少女が口を開いて話題にしたのはこれだった。


「ねえ、あなたたちはまりんさんのどこが好きなの?」


 唐突な質問ではあるが、間髪入れずひとりから答えが返ってくる。


「全部」


 当然のように大部分の生徒は頷くが、質問者は不出来の弟子にがっかりする師匠のようにかぶりを振る。


「これだから、初心者はいかん」


 ちなみに、彼女は麻里奈たちと同じ中学出身で当然のように中学一年からの「麻里奈教」古参信者である。


「どういうことよ」


「決まっているでしょう。その答えはレベル。いや、それではレベル1にも到達しないレベルゼロの答えということよ」


「何よ」


「どういうことよ」


 これまた当然のように抗議の嵐が巻き起こるのだが、彼女は動じることはない。


「つまり、そのようなことは当然すぎるということ。だから、こういう質問をされた場合は、すべてが素敵なまりんさんの中で、どこが一番好きかを答えなければいけないの。そして、その答えによってその子がどれほど『まりん道』を極めているか判定できるのよ」


「な、なるほど」


「まりん道」などといういつ誕生したかもわからぬ不思議な言葉を登場させた彼女だったが、なぜか全員がその言葉に納得する。


 彼女の言葉は続く。


「では、特別に『まりん道』を極めた私が、みんながどのレベルかを判定してあげる。では、トモから」


「う~ん」


 彼女に指名されたその少女は呻き声を上げながら少し考え、それから口を開き彼女の頭の中で導かれた答えを披露する。


「あの素敵な長い黒髪」


「お~」


 他の少女たちは一斉に感嘆の声を上げるが、彼女の判定は意外にも厳しかった。


「まあ、レベル2というところね。ちなみに顔とか言ったらレベル1だから。次」


「じゃあ、声」


「それはまあまあ高い。レベル4」


「う~」


 渾身の答えを「まあまま」評価をされた少女は項垂れる。


 彼女はそれ以降も次々に飛び出る女子生徒の答えに不合格判定を下し続ける。


 たまらず、「知性」と答え見事レベル1を頂いたその中のひとりが彼女に問うた。


「ねえ、聞いてもいい?」


「何?」


「ちなみに、最高はレベルいくつなの?」


 その質問とともに集まる視線のなかで彼女は自信満々に答える。


「最高はレベル5。そして、この私がその『まりん道』レベル5所有者なの」


「へえ~。では、聞かせてもらいましょうか。レベル5の答えとやらを」


「いいでしょう。では、拝聴しなさい。その答えは……」


「答えは?」


「あの程よい大きさの胸。あの胸に顔を埋めることができたらどれだけ幸せなことか。今年の夏に水着越しでいいから是非スリスリしたい」


 その瞬間、こっそりと聞き耳を立てていたある男子生徒は思った。


 ……間違いない。


 ……こいつは変態だ。


 ……そいつらの代わりに俺が言ってやる。その答えはレベルゼロだ。


 もちろん、それは彼だけではなく、同じように会話を聞いていた男子全員の答えである。


 だが、それはあくまで「麻里奈教」の被害者側の見解であり、彼女の同類である少女たちがどう思ったかといえば……。


「なるほど」


「それ、納得。憧れるな~私もスリスリしたい。早く水泳の授業が始まらないかな。というか、一年中水泳の授業があればいいのに」


「本当だよね。そうすればずっと目の保養ができるのに」


「さすがはレベル5到達者のお言葉。感服しました」


 というわけで大絶賛である。


 休み時間が終わるチャイムが鳴ると、自他とも認めるその道を極めた者らしい彼女はその会話を締めくくる。


「ということで、『まりん道』は奥が深いのです。これからも皆で精進しましょう」


「はは~」


 こうして、彼女たちのいつ完治するかわからないその病気は今日もまた一歩前進するのであった。

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