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閑話「がーるずとーく」 28

 千葉県の田舎にある千葉県立北総高等学校通称北高。


 その敷地の端にポツンと建つ古い木造校舎の一室では、この部屋を部室として占拠している関係者たちが器の小ささだけならば唯一無二の存在といってもよい男子部員が自信をもって披露する見苦しい言動の数々を嘲りながらとりとめのない会話を楽しんでいた。


 それはまったく中身のないものである。


 しかし、彼女たちのことをよく知るすべての北高関係者は口を揃えてこう言う。


「部活動がおしゃべりをしているだけ?結構なことではないか。彼女たちがお菓子を食べて雑談しているだけで済むなら我々にとってこれほど幸せなことはない」


 教師たちが畏怖する彼女たちが属する組織。


 その組織こそ、悪名高き創作料理研究会であり、それを統べるのが、小野寺麻里奈なのである。


 さて、今回は……。


「……それ、本当の話なの?」


「うん」


「あらら」


「もしかしたら、恵理子先生を担ぐための手の込んだガセかもしれないぞ」


「今までのふたりの関係を考えたら十分にあり得るな」


「そう思ったのなら確認のために即出発だ。行け、橘」


「俺が?」


「そう。おまえが」


「なぜだ?」


「それはもちろん……」


「もちろん?」


「このような恥ずかしいことを訊ねて回るなど人間のクズであるおまえ以外にはできない行為だからだ」


「冗談ではない。俺だってそのような恥ずかしいことなどできるものか」


「おかしいな」


「何がおかしいのだ?」


「このような普通の人間にとっては万死に値する恥ずかしい行為をおこなうように命じられるというのは辱めを受けることがこの世に生を受けた唯一の理由であるおまえにとって涙を流して喜ぶくらいの最高のご褒美になると思ったのだが……。それとも、この程度のことは変態であるおまえにとっては恥ずかしいという区分には入らないのか?」


「ふざけるな。俺にはそのようなおかしな性癖も体質もない。いかれた性格であるおまえこそ○%×$☆♭♯▲!※○%×$☆♭♯▲!※」


「いいよ、行かなくても。私が全部確認したし、校長先生もそう言っていたもん」


「ということは……」


「本当のことなのか」


「うん」


 ということで、ここまでは涙に暮れる恵理子を創作料理研究会部員たち全員で慰めるという彼女たちの根城第二調理実習室ではかつてなかったレアな光景が展開していたのだが……。


それは、すぐに見慣れたものに戻る。


「……諦めろ」


「ん?」


「だから、諦めろと言っている」


「だって……」


「もう結果が出たのだから、それについてウジウジしていても何の解決にもならないだろう。だいたい冷静に考えればこれはわかり切った結果だ。なにしろ向こうはアレに対して、こちらは悲しく寂しい幼児体形だ。しかも、最高級のケチときている。玲子先生を差し置いて恵理子先生を結婚相手に選ぶような変態はこの世にはいない。橘ではあるまいし」


「それはそうだ」


「まったくです」


「……そうかもしれませんね」


「ひどいよ、まみたんまで。だいたい春香なんか幼児体形どころか乳児体形じゃないの。ヒロリンにならともかく乳児体形のあなただけにはそういうことは言われたくないわよ」


「ムムっ。無礼者」


「○%×$☆♭♯▲!※。おい、そこでなぜ俺が殴られるのだ。言っておくが、俺は何も言っていないし、笑っても頷きもしていない。殴られる理由はまったくないではないか」


「何を言う。おまえは心の中でその醜い顔をさらに醜くして頷き下品な笑みを浮かべながらいやらしい手つきで拍手をしていたではないか。それにもかかわらずそのような気持ちの悪い嘘を堂々と口にするなど最低の人間の風上にもおけぬ所業だ。そういう腐った根性を持ったおまえには真実をゲロするまで厳しいお仕置きが必要だ」


「○%×$☆♭♯▲!※○%×$☆♭♯▲!※」


「まあ、そういうことで先生は私たちがもうしばらく面倒を見てやるから、おとなしくここの顧問をしていろ」


「うん」


「そうそう。それに男なんかまだいくらでもいるし」


「うんうん」


「ただし恵理子先生を自分に相応しい相手と見てくれる人がいるかどうかはわかりませんが」


「その言葉ちょっと待て~い」


「ん?そうだ。そういうことなら恭平をもらえばいいだろう」


「そのとおり。それに橘には漏れなく多額の持参金がついてくるという話があったではないか」


「そうですね。ありましたね。そういう話が」


「先生、どうですか?この際ですから持参金と一緒に恭平君をもらってあげるというのは」


「……そうだね。そうすることにしようかな。持参金のおまけだと思えばたとえ橘君でもギリギリ我慢もできるし」


「よし決まりだ」


「これでメデタシメデタシだな」


「万事丸く収まるとはこのことです」


「お、おい。俺はちっともめでたくないし、丸くも収まっていないぞ。それにそのような話を俺は聞かされていない。いったい、いつどこでそれは決まったのだ」




 ということで、どのような場合でも最後にはジョカーを手にすることになっている恭平なのであった。

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