閑話「太陽からの贈りもの」 ③
それから一か月後。
世界ではまだ感染拡大が止まっていなかったが、ここ日本は例の発表後騒動は急激に収束に向かい、いつもの日常を取り戻した国民は皆安堵していた。
そして、その鎮圧の立役者として賞賛されたのが、「世紀の大見え」と呼ばれたあの記者会見後多くの反対を押し切って対策を断行し戦後最大の国難になると思われたあの難局を乗り切った首相牟田口馨である。
その牟田口はその夜最後の打ち合わせ終了し、ひとりだけになった瞬間これ以上ないというくらい笑みを浮かべこう呟いた。
「すばらしい。これぞ我が世の春というものだ」
傲慢である。
しかし、これが今の彼の偽らざる気持ちだった。
もちろん今回の騒動で得た名誉とそれによってもたらされた彼が愛してやまぬこの国の首相という地位が盤石になった事実が彼にそれだけのことを言わせていた。
だが、そのようなものさえ今の彼には小さな副産物でしかなかった。
今回の一件での最大の成果。
それは……。
「私は新しい力を手に入れた」
……歴代首相、いや世界中の指導者も手に入れられなかった力を私は手に入れたのだ。
……面従腹背。これがこれほど有効だとは思わなかった。
……それにしても、やはり所詮はガキだ。ちょっと下手に出ただけであれだ。手玉に取るのは容易い。現当主には早々にご退場いただきたいものだが、油断は禁物だ。
……とりあえず、しばらくはこのまま面従腹背を貫き困ったときの都合の良い道具として使わせてもらうぞ。立花博子。そのためにしゃぶらせる飴は少々高いものではあるが。
だが、同じ日の深夜。
東京の中心部にあるとは思えない木々に囲まれた広大な敷地に建つ古い洋館。
その一室でこの館の主を中心とした親子と孫によっておこなわれた話し合いによりある決定がなされていた。




