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閑話「すべてが辿り着く場所」

 首相官邸。


 そこでは、この館の主がいつものように腹心のひとりと相談をしていた。


 金儲けの。


 話が一段落したところで彼がこの種の相談をするときに必ず傍らに立つ補佐官立原がある問いを口にした。


「総理。お伺いしてもよろしいですか?」


「何かな?」


 上機嫌の牟田口は笑顔で答える。


「首相はなぜ立花一族を恐れるのですか?」


 その瞬間牟田口の表情が一変する。


 ……いよいよ来たか。


「知りたいのか?」


「はい」


「あれらの真の力を話すことは自らの死と同じなのだ。だから、すべては話さない。だが、どうしても聞きたいということであればある程度のことは話してもいい。この場にはふたりしかいないし。ただし、聞いた後に立原君は死ぬことになる。それでもいいか」


「ですが、首相はすべてを知っていますが、こうして生きていらっしゃる。その心配はないかと」


「……それは話を始めてもよいということでいいのかな」


「はい」


「わかった。だが、まずは喉を潤そう。話はそれからだ」


 牟田口はそう言うと、コーヒーを運ばせた。


 ふたりがコーヒーを飲み終わると、牟田口が口を開く。


「では、話を始めようか。まず、私があれらについて誰よりも知っている理由。それは歴代首相のみが口伝によって伝えられているからだ。この国の崩壊を防ぐために」


「この国の崩壊?」


「もう少し話せばこの世の崩壊だ。だから、世界中の誰もがあれらには手出しできないのだ」


「どうも話が大きすぎて理解できないのですが」


「ヒントをやろう。日本の借金はいくらか」


「……千百兆円くらいでしょうか」


「それは表の金額だが、まあ正解だな。では、アメリカの借金は」


「為替や数字のとり方にもよりますが、約二千四百から二千五百兆円くらいでしょうか?」


「聞こう。もし、それらすべてが同一人物に対するものだったらどうする?いや、全世界の借用書が同一人物の手元にあるとしたらどうだ?」


「お言葉ですが、それはありえません。現にアメリカ国債は我が国も抱えており、我が国以上に中国がアメリカ国債を保有しています。また、我が国の国債はその大部分を……。ですから、そのようなことはないかと……」


「表面上はまったくそのとおりだし、そうであればどれほどよいことか。だが、事実は違う。各国政府が表裏両面で書いた借用書も、それどころか金だって流れを辿ると最終的にはすべて同じ場所に辿り着く。それは日本やアメリカだけでなくかの国だってそうだ。そうではないかな?」


「総理のおっしゃることがすべて正しく、また総理の言う辿り着く先が立花家であっても、どうやってそれだけの資金を調達できるのでしょうか?そのルートの構築にしても……」


「わからないのか?」


「はい」


「あれらの元手は日本でつくられたものではないとしたらどうだ」


「どういうことでしょうか?」


「明治初めに立花家がこの世にあらわれた時に、すでにあれらは財と力を得ていたということだよ」


「ということは」


「いうまでもない。今はだいぶ薄まっただろうが、日本人以外の血が入っているのだよ。立花家の人間には。もしかしたら、人間以外の血なのかもしれないが。つまり脈々と受け継がれた日の当たらぬ場所からこの世を支配する一族の末裔なのだよ。あれらは」


「なるほど。ですが、それほどの力を有しているのなら、世界を思い通りにするのではないでしょうか?今の立花家にはそのようなことをする様子はまったく見られませんが」


「要するに君はそれが聞きたかったのだろう。それは秘中の秘に属するものだがいいだろう。話してやろう。それは……」


「……そういうことですか」


「さて、私は君の疑問に答える義務は果たした。では、君の義務も果たしてもらおうか」


「何を……」


「もちろん、ここで死ぬことだよ。君が」




 ……牟田口が、秘書官を切ったそうだ。


 ……そんなことをしてはこれまでの悪事が外部に漏れるのではないのか?


 ……いや。物理的な口封じをやったのですべては闇の中だ。公式には病死ということになったらしいが毒殺だな。しかも、官邸内だ。いくらでも事実を書き換えられる。


 ……いよいよやつも正統派悪党の仲間入りか。だが、あの根性なしがそこまでやるとは驚きだ。理由は何だ?


 ……あの秘書官は癖が強かったので扱いにくくなったのではないか。しかも、自分の悪事を知り過ぎている。


 ……だが、それを補って余りあるくらいの有能で秘書官の鑑のような男だったと聞いている。原因は別にあるだろう。


 ……まあな。実はあの者はかの国に情報を流していた。つい最近牟田口の耳元でそれを囁いてやった。どうやら、牟田口の持つ我々の情報も探っているようだったので、解任させようとしたのだが、まさか後始末までやってくれるとは。


 ……その後に始末するつもりだったのか。それは手間が省けて結構なことではないか。


 ……そうだな。もっとも、牟田口にしても自分がやっていた悪事をかの国に垂れ流ししていた裏切り者を見過ごせなかったのだろう。放置すればそれはそのまま自分の地位が揺らぐことになるからな。


 ……それで、やつからはそれについての報告は来たのか?


 ……もちろん。そのようなことについてあの者は抜かりない。


 ……それこそが牟田口らしい振舞いだ。

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