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小野寺麻里奈は全校男子の敵である  作者: 田丸 彬禰
番外編 A Dream Goes On Forever Ⅰ
101/130

Dreamtime 1 そして それは 動き出す

 学校内だけではなく周辺一帯をも熱狂の渦に巻き込んでおこなわれた北高文化祭が終了して一か月ほど経ったその日。


 北高がライバル南高に自慢できる数少ないもののひとつであるその広大な敷地の一角にある北高野球部グラウンドには、様々な学校名が入ったユニホームを身にまとった数十人の中学生が集まっていた。


 そして、あの男も。


「とりあえず数は揃いましたね。結城先生」


「……先生か。まあ、そう呼ばれるのにはまだ慣れないな。もっともこの学校で俺を先生と呼ぶのは内田先生だけということもあるのだが」


「そのうち慣れます。さて、この中に結城先生のお眼鏡にかなう選手がひとりでもいるといいのですが。何しろ主だった選手はすでに有名校に決まっていますから」


「心配ない」


「と言いますと?」


「まず、ここに来たからには基礎はできているのだろう。それに……」


「それに?」


「少なくても一校分の選手が余っているはずだ」


「……それは南高のことですか?」


「そう。あれだけ失態を重ねた高校に喜んで行くやつなどそうはいない。そして、来年度にスポーツ特待生を始めるのは北高だけだ。計算上はそれなりの人員が確保できるはずだ」


「なるほど」


「まあ、とにかく始めようか」


 そうは言ったものの、この時は彼自身自らの言葉を完全に信じているわけではなかった。




 だが、それから二時間後。


「……内田先生」


「はい」


「特別推薦の野球部の枠は何人だ?」


「五人ですね」


「学校と交渉してそれを増やしてもらいたい」


「えっ?どういうことですか?」


「五人などではとても足りないと言っている」


「それは豊作ということでしょうか?」


「豊作?これはその言葉ではとても言い足りない状況だな。とんでもないヤツがひとり。それからきちんと鍛えればどこに行ってもレギュラーとしてやれる者が最低でも七人。それ以外にも五人は十分使える。どういう理由でこの学校を受験しているのかは知らないが、これだけ揃った逸材たちをみすみす逃す手はない」


「ということは、枠を八増やすと」


「いや、十人増やして合計十五人。しかも、それは最低でも、という話だ。二十五でも三十でも可能なかぎり枠を増やしてもらいたい」


「わかりました。結城先生がそうおっしゃるのなら必ずそれだけの枠を必ず取ってきます。ところで、それでどの程度の成績を収められますか?」


「そうだな。まず来年の夏の大会は県大会準々決勝までは進む」


「準々決勝?うちの野球部が?」


「驚くことではない。そして、次の年には甲子園だ」


「甲子園?それはリップサービスではなく本当のことなのですか?」


「もちろんだ。しかも、ただ行くのではない。優勝だって狙えるチームになる。彼らのポテンシャルに俺の戦略を加えれば十分可能だ」




 ……それにしても、まったく変わっていないな。


 ……有名無名を問わず過去の実績だけが選手選考基準のすべてだと思っている監督の多さは。


 ……こうやって丁寧に探せばいくらでもいるのだよ。磨けば光る原石は。


 ……それにしても。本当にそれにしても、どこの学校もヤツに目をつけないというのは腑に落ちない。いくら目が曇っていてもヤツが飛びぬけているのは一目瞭然だ。なのに、なぜやつはここにやってきているのだ?


 ……ケガか?それとも人間的に問題があるのか?


 ……まあ、どっちにしても俺にとってはありがたいことだ。なにしろ、俺の監督生活で常に足りなかったピース。


 ……それをついに手に入れられる。


 ……そう。諏訪野樹。こいつは本物のエースと呼べる稀にみる逸材。いわばダイヤモンドの原石。


 ……これは楽しみだ。




 ……どうやら、なんとかなりそうだ。


 ……せっかく他校の推薦をすべて断って受験したのに選考する者が選手を見る目のないポンコツだったらどうしようかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。結城という人物はかなりの変人という話だったが、監督としての能力は確かということか。


 ……とにかく、これで僕の夢に一歩近づいた。


 ……僕の夢。それはあの文化祭でひとめぼれした僕の女神の前まで活躍し彼女に祝福されること。


 ……そして、僕の女神。それは……。




 ……小野寺麻里奈先輩。

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