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Afterglow 

 東京のとある一角。


 とても都心にあるとは思えない木々に覆われた広大な敷地に建つ黒レンガ造りの洋館から数人の随行員とともに白髪の男が現れ、玄関に止まった黒塗りの高級車に乗り込んだ。


 そして、その様子を建物の二階の窓から冷ややかに眺めるふたつの人影があった。


「不満タラタラという表情だったな。だから政治家というのは度し難い生き物だと言うのだ。立派なことを言ってはいたが、要は首相の首を挿げ替えて副首相である自分を権力の頂上に押し上げてくれということだろう。聖人君主というならともかく同じ穴の狢であるあやつの個人的な利益と名誉欲を満たすためだけのために、なぜ我々がそこまでやらなければならないのだ」


「たしかに、その代わりになる者がついさっきまでその隣で甘い蜜を吸っていたやつだったのではジョークにしても出来が悪すぎるとは思うが、手にした権力を私利私欲のためだけ行使するあの人間のクズが国を動かしているというのは世も末というものだろう。いっそのこと、我々が直接治めたほうがいいのではないのか」


 本音が垣間見えたその言葉に、もうひとりは大きいため息に続いて口を動かした。


「だから、おまえは愚かなのだ。博子が小学生のときには理解していたことをおまえはいまだにわかっていない。おまえに今一度問う。我が一族の使命は何だ?」


「この世の調和を保つことだろう。調和ではなく混沌を維持するという表現のほうが正しいのだろうが」


「皮肉か。だが、そのとおり。我らはこの世界の調和を司る者。その我らがこの国を直接統治した場合には我らは当然この国の民に対して義務を負う。この世の調和と統治した日本の利益が相反した場合におまえはどうするつもりだ」


「それは……」


「我らが本当の力を振るうのは、同一思想でこの世を統一しようとする勢力が現れたときだ。だいたい、かの者が統治者としてふさわしくないと思えば排除する手段をこの国の民は与えられている。それを行使しないということであれば、それがこの国の民の選択だ。それがどれほど愚かなものでもだ」


「だが、あの男は『自分こそがこの国で一番偉い。この国に住む者はすべて自分に盲目的に従うべきだ』と吹聴しているそうではないか。その考えは危険ではないのか」


「……この国で一番の権力者はやつだ」


「それは建前上であろう」


「自分を大きく見せようと言っているだけだ。あの男が何を言おうが小物の戯言と聞き流しておけばいいのだ。もちろん実際に手出ししてきたときには相応の措置はとるが。もっともあの男にそれをやるほどの度胸があるとは思えないし、やつはあれで存外計算高い。あり得んな」


「なるほど。たしかにそうだ」


「だが、やつをそそのかして手駒にしようとする者がいないとは限らんし、我らの首を土産にしてやつにあやつに取り入ろうとする愚か者もいるかもしれん。常に監視することは必要だ。ところで博子はどうしている?高校生としての生活を楽しくやっているのか?」


「それはもちろん。小野寺麻里奈と一緒に同好会とやらをつくるのだとうれしそうに話していた」


「博子が同好会?そこで何をするのだ?」


「……なんでも料理をつくるのだとか」


「ちょっと待て。語学や書道ならともかくなぜ料理だ。博子が料理をしたがっているのは知っているが、それでも……。それに小野寺麻里奈も博子の料理の技量を知っているのだろう?」


「博子が中学校に入学するときに順菜が伝えたはずだ」


「それを知ったうえで……そ、それはなかなかの剛毅だな」


「まったく。恐れを知らないとはこのことだ」

プロローグ「裏の裏は表ではない」と「The Dark Side of The Moon」をはじめこれから始まる多くの裏ストーリーとを繋ぐものとなります。

微妙に表の世界とも繋がっていますが。

サブタイトルはジェネシスの曲から。

なお、ここで登場する博子の母親の名前「順菜」は、「響け!ユーフォニアム」に登場するシンバル娘の井上順菜さんから拝借したものです。

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