ツイテナイ男のはなシ
「あれ?」
「なんだ?パンクしてんじゃん。」
出掛けようとすると
自転車がパンクしていた。
「ちぇっ、ツイテナイなー。」
「仕方ない。バスに乗るか。」
最近、
この街に引っ越してきてからというもの
こんな調子で僕は、
何かにつけて
ツイテナイ。
用事を済ませた帰り道。
「うわぁ!降ってきた!」
バスから降りたとたん、雨が降り始めた。
天気予報では言ってなかった。
生憎の本降り。
傘など持ってきていない。
家までは10分くらいかかる。
仕方ない。
近くのコンビニに駆け込むと、傘を買った。
傘を差し、歩いていると
スマホのバイブが鳴った。
ポケットから取り出そうとしたら
手が滑り、
「あぁあ!やっちまった!」
持っていたコンビニ袋を
水溜まりに落としてしまった。
先程のコンビニで、傘以外に買ったものだ。
「わぁ!最悪だー!」
不運な事に。
僕は猫舌なので、
中華まんをすぐには食べず、
少し冷ましてから食べる。
その冷ましている最中だった中華まんが
コンビニ袋から飛び出していた。
包んでいるのが紙なので、
水溜まりの水が浸水して、
食べれなくなってしまった。
「なんだ、アラームか。」
「…こんな時間にセットしたっけ?」
バイブの正体は、かけた覚えのないアラームだった。
「はぁ。」
「本当、最近、ツイテナイなぁ。」
家に着いて、ため息を漏らした。
すると…
《…ため息つきたいのは此方の方よ!》
「…え!?」
「うっ、わぁぁぁ!」
突然声が聞こえ、目の前に女性が現れた。
女性は半透明で、背後の景色が透けている。
「ゆ、ゆーれー!」
《自分の守護霊様を前に》
《近所迷惑な大声あげてんじゃないよ。》
「…し、守護霊様!?」
《そうさ。感謝の一つでもしてみたらどうだい。》
《此方、あんたを守るため、あんたの知らない所で》
《縁の下の力持ち続けてんだよ。》
「…そ、そうなんですか。」
「…ありがとうございます。」
《うむ。素直で大変宜しい。》
《さて》
《あんたがツイテナイと言う それらの事象だけどね》
《実は軒並み》
《あんたを更なる不運から救ってあげた結果起こった》
《些細な出来事なのよ?》
「…は、はぁ」
《どういう事か見せてあげる。》
守護霊はそう言うと、掌に水晶玉を出現させた。
「おぉ!す、すごい!」
《見て。》
「…、あ、何か映ってる。」
「…これは…、僕?」
《そうよ、あんたを他人視点から見た様子。》
《見てて。》
《あの時、あんたが出掛けようとした時。》
《もしも自転車で出掛けてたら》
「…うわぁ!」
「…嘘…だろ?」
ゾッとした。
水晶玉には、
僕が車と衝突した映像が映し出されたのであった。
《あのままじゃ、あんたは事故に遭ってた。》
《自転車が壊れて歩いて出掛けたから》
《事故に遭うタイミングはズレて無くなった。》
《自転車壊れて良かったでしょう?》
「…はい。」
「自転車を壊して助けてくれたんですよね?」
《そうよ。》
《私って凄いでしょう?》
「はい。」
「ありがとうございます。」
《ふふっ。素直で宜しい。》
《じゃ、次。》
《あんたがバスから降りた時》
《雨が降らずコンビニに寄らなかったら》
「…あっ、大きな犬が現れた!」
「わぁ!追いかけられてる!」
《あんたはこの犬とタイミング悪く出会い》
《追いかけられ、噛まれていたのよ。》
《それと比べると》
《雨に降られた事など可愛いものじゃなくて?》
「はい。」
「ありがとうございます!」
《次。》
《もしもコンビニ袋が落ちなかったら》
「え!?入院してる!?」
《あの中華まん、不幸にもあの一個だけ》
《O157菌が付着していたの。》
《感染してたら》
《目も当てられない酷い状態になってたわよ。》
「はぁ…。恐ろしい…。」
「本当にありがとうございます。」
《あんた、最近ついてなさすぎよ。》
《なんか祟られてるんじゃない?》
「え、えぇ!?こ、こえー!」
「守護霊様にも」
「何に祟られてるかは、分からないんですか?」
《そうね、実は、邪悪な気配を感じてるわ。》
「ひ、ひえー!」
「ど、どうかこれからも僕をお守りください。」
《こんなんが続くと、忙しくてやってらんないわよ。》
《労働基準法違反よ。》
「え、えぇ!?」
《あんたの方でも対策練ってよ。》
「対策って言われても…。」
《あのね、》
《今日行ったコンビニの近くに》
《小さなお社があるでしょ?》
「あぁ…、はい、そういえばありますね。」
「引っ越してきて次の日にここらを散歩した時に」
「通りががった記憶があります。」
《あそこには厄祓いの神様がいるの。》
《取り敢えず、行ってみなさいな。》
「はい!」
「お祓いとかそういうのって」
「ニセモノとかあるから」
「どこに行けばいいか分からないけど」
「守護霊様の勧めるとこなら安心ですね。」
《あんた騙されやすいものね。》
「ご存知の通りです…。」
「早速行ってきます!」
社
「厄祓いの神様、どうか僕の厄をお祓い下さい。」
《ふはははははは》
《手間どらせおって。》
「…え!?」
夜8時
暗いお社で神様にお願いをしていると、
不気味な笑い声が響いた。
《私の仕掛けた数々の罠を掻い潜り続けるとは》
《ほんに運の強い奴じゃった。》
「!?」
《今日だけでも、幾つあったろうか。》
《もし、あのまま自転車で出掛けていれば》
《この社の前で事故に遭っていたのに。》
「!」
《もし、雨が降らずにあのまま歩いていれば》
《野良犬と遭遇し、》
《野良犬はお前から微弱に感じる》
《獣の気配に臨戦態勢に入った。》
《お前はそんな犬に追いかけられ》
《この社に来ていたのに。》
「!」
《もしお前があの中華まんを食べていれば》
《重い食中毒にかかり》
《この社の裏の病院に入院していたのに。》
「!」
「…そんな…。」
「…全てが」
「僕を此処へ来させようとしていた…?」
《そうさ。》
《魂を食すのには高い霊力が要る。》
《高い霊力は、私の本体が祀られている此処でしか》
《発揮できないからのう。》
「じ…じゃあ…」
「僕に、此処に来るように言った」
「僕の守護霊は…」
《ふふふふふふふ》
声のトーンが、聞き覚えのあるものに変わり、
《あんた、騙されやすいものねぇ。》
先程、僕の守護霊と名乗った女性が目の前に現れた。
そいつの姿がユラリと陽炎のように揺らめくと、
尻尾が幾つにも分かれている巨大な狐に変わった。
「う、うわあぁあああ」
《苦労した甲斐があったのぉ。》
《なんと澄んでいて旨そうな魂か…!》
「た、たすけ……………………………」
男は狐に取り込まれ、跡形もなく姿を消した。
この様子を見ていた影が一つ。
【…やれやれ】
【狐に取られてしまったか。】
影は そうため息をついた。
【これまで、狐の罠を全て妨害してきたというのに。】
【今日だけでも、自転車を壊し、雨を降らし、】
【中華まんを食べれなくしてやった。】
【しかし狐め、ついには直接化けて出おって。】
【此方は狐のような化かし術に長けていないから】
【太刀打ち出来なかった。】
【旨そうな魂だったのに残念なことをした。】
【澄んでいる魂はどんどん減り続けているし】
【しかも澄んでいる魂には大体守護霊がいるから】
【手出しは難しいんだよなぁ。】
【あの男の守護霊は】
【田舎の実家に宿ってる類いのものだったから】
【引っ越してきた事で、その加護を受けれなくなった。】
【こういうのはレアケースだからなぁ。】
【まぁ、ブツブツ言ってても仕方ない。】
【次を探すかぁ。】
影の主は猫又は、
そう言い残し
その場を去っていった。
絶命寸前
男は思った。
そうか
僕には憑いていたのか。