6.
偵察に行く隊員を選出しなくてはならない。一人は決まったも同然だが、もう一人はどうするべきか……。まさか自分が行くわけにもいかないしな、とロイは悩んでいた。
隊員にはいろんな奴がいる。人種はもちろん、その能力も様々だ。
機械オタクもいれば、分厚い筋肉で重装備したような奴もいる。語学に堪能な奴もいれば、心理学に長けている奴もいる。
百名あまりの隊員をひとりひとり頭に浮かべ適任を探す。
今の時代、コンピュータに頼めばよくわからないアルゴリズムですぐに最適解を求めてくれるが、俺はこうして自分の頭で考えるのが好きだった。
それにコンピュータは責任をとれないしな、とコントロールセンターでむやみに光るそれを見て思う。
アメリカ出身のトーマス、趣味はオンラインゲーム。ガーナ出身のドゥヌ、反射神経が良い……。
瞬時に皆の顔が浮かんでは消える。
何よりも楽しいときかもしれない。
そしてついに適任を見つける。
「彼女しかいないでしょ。」
「ん?なんか言ったか?」
嬉しさのあまり口に出したら艦長に聞き返されてしまった。
「何でもない。」
本人に偵察に行くよう指示してこなくては。
目的の人物が所属する機動班のミーティングルームへと向かう。
携帯端末で伝えればいいって?そりゃ、ごもっともな意見だ。
だけど、できるだけ皆の顔を直接見たいと思っているから大した距離もねぇし会いに行こうってわけだ。
そういう建前、ライ君にはこっそりとサボろうなんて考えていたり。
そんなこんなで、目的の扉の前に来た。
隊員らが自由に飾り付けた扉が目立つ。
軽くノックする。
もちろん、隊長である俺が解除できない鍵はこの船に無いんだが向こうに開けて貰たほうが何かと都合が良いだろう。
「あ、隊長!」
扉を開けた隊員の後ろからむわっと煙草の香りがした。
「船内は火気厳禁だ。」
「加熱式の煙草ですからセーフですよね?」
まだ若い、あどけなさの残る隊員が椅子から立ち上がって屁理屈を言う。
「俺が嫌なんだ。煮干しでも咥えてろ。」
持ち歩いている小さなパウチから小魚をそいつに放り投げた。
水族館のオットセイよろしく、器用にキャッチすると黙ってそれをしゃぶっている。
「本部から不審船の回収の指令でしたよね。しかも第一と第二と合同で。」
扉を開けた隊員は俺が何しにここに来たのか知りたそうにしていた。
「そうだ。さっき放送で指示したように、まず偵察に行く。そのためにここに来たんだが……。」
ぐるっとそう広くない部屋を見回す。機動班は一番人数の多い班であるため、全ての班員が常にここにいることはない。
目的の人物も今は不在のようだった。
「今回は誰が行くんです?」
奥のデスクから声をかけられる。中年の男性は機動班の班長だ。
「ソニヤにお願いしようと思っていたんだが、どこにいる?」
「ソニヤちゃんだって!?」
班長は驚いた顔をする。まあ、立場が逆なら同じ顔をするだろう。
彼女はまだ若いし実戦経験もない。しかし、語学と民俗学に関して深い知識を持っていた。
俺が目を付けたのはその点だ。
正直、ライ一人で十分偵察は行える。しかし、どうも妙なところのあるこの不審船の正体を暴くには様々な国の知識が必要だと判断した。
「ソニヤならさっき武器庫に行かせました。」
班長はいまだ信じられないようだが、ソニヤの居場所を教えてくれた。
彼らには血のつながりなどもちろん無いが、一つの家族のようなものだ。班長からしてみれば我が子を心配する父親の気持ちなのだろう。
「ライ君も一緒だから大丈夫だよ。」
慰めになるかわからないが、何も言わないよりましだろうと告げると途端に安堵の表情になる。
「ナビルグ副隊長が一緒なら大丈夫ですね。よかった。」
そのライへの信頼に少しも嫉妬しなかったと言えば嘘になる。
班長に礼を告げて武器庫へ向かう。
武器庫は機動班のミーティングルームと同じフロアにあるから大して移動に時間はかからなかった。
ここでも同じくノックしてから扉を開ける。
「隊長!どうしたんですか?」
すぐに隊員が声をかけてくれる。
「偵察ですよね。準備なら任せてください!」
そう言う隊員の手には対戦艦用の魚雷が握られていた。
「それは使わないだろうな。」
様々な武器が所狭しと並べられているせいで見通しが全く利かない。
手近な隊員にソニヤを呼び出すよう頼んだ。
暫くすると褐色の肌に波打った黒髪、聡明そうな輝きを湛えた目を持つ女性、ソニヤが奥のほうからひょっこり顔を覗かせた。
「た、隊長!?一体何の用で……!」
俺の姿を見つけるとぎくしゃくとした動きで近づいてきた。
「ライと一緒に偵察に行ってくれ。」