39.
「ここも変わらない。」
夢でも見ているのだろうか。白昼夢が現実となったような光景に思わず頬をつねった。
記憶にあるよりも多くの花が咲き乱れ、もっと煌びやかな蝶が舞っていた。
「この木の下に来た後、どうしたんだっけ。」
どうしてもその先が思い出せない。
太く頼れる幹に背を預けた。
「?」
ルイたちの位置情報がこの幹の中から現れる。
コンコンと軽くたたいてみた。
「お兄ちゃん!!」
女性の影が幹の向こうから現れ、俺にとびかかった。
「え、えっ……。」
強く抱きしめる女性の奥にロイが立っているのが見えた。
ということは、この子が……。
「あかり…?」
「お兄ちゃん!わたしがわかるのね!顔を見せて!」
長い前髪を持ち上げられる。
覗きこむその瞳は右目が黒く左目が赤かった。
「お兄ちゃんんの綺麗な目。間違いない。あなたはわたしのお兄ちゃん。天候冷ね。」
久しぶりにその名前で呼ばれる。
スペース軍に保護された後、俺は当時の第三部隊隊長ロバート・ゼファルダによって新しい名前を与えられた。それが今のレイ・ウェッターだ。
しかし今の俺は、レイ・ウェッターではなく天候冷として妹に向き合っていた。
「ああ、そうだよ燈。会いたかった。」




