36.
両目が赤い状態で俺は生まれた。アルビノ、ではない。色素は双子の妹である燈に比べ薄かったが白金の髪など持ち合わせていなかった。
自分と違うものを排斥しようという心理は正常なものだ。しかし、幼少の俺にはそんなことはわからなかった。
幼稚園に行けばいじめられ、周りを恨んだ。呪った。
でも、家に帰れば両親は普通な燈と変わった俺を分け隔てなく愛してくれた。
そんな家族が大好きだった。今はもう好きではない。
両親が俺と燈を売ったのだ。今なら明らかに反政府勢力とわかる集団の研究所に。
俺の家は大昔なんだかよくわからない呪いをやっていたようだ。幼かったから、詳しいことは知らないが、どうやらその能力を最新の武器へと転用しようとしたらしい。
赤目の俺は見るからにその能力を持っていそうだったが、自覚はなかった。今でも、一体どんな能力なのかわからない。燈も、同じく能力は持っていなかった。
しかし、それで諦める研究者ではない。
俺の左目を燈の左目に移植したのだ。代わりに、俺には燈の左目が移植された。
その手術の後、俺と燈は離れ離れになる。そこから燈がどんな人生を送ったのかはわからない。
俺は本格的な研究が行われる前に、宇宙警察SPACE軍によって救出された。
物思いに耽っていて曲がり角に気づかなかった。
壁にぶつかってからあたりを見回す。
「こ、ここは……!」
「おにいちゃん!こっちだよ!」
嬉しそうな様子の妹に、何が何だかわからないがこちらも嬉しくなる。
「優しい大人がね、きれいなお庭を見せてくれたの!」
燈に手を引かれて廊下を走る。
エレベータのボタンには手が届かないから階段を二人で昇る。
ちょっとした冒険の気分だ。
最上階まで階段を昇った。
今までの階は扉がいっぱい並んでいたが、ここは違った。
「何にもないよ、燈。本当にここで合ってるの?」
「うん!」
自信満々の妹は手を放してくれない。
廊下の曲がり角に来た。
妹はためらわずどんどん奥へと進んでゆく。
「ここなの!」
そして重そうな扉の前で立ち止まった。
「おくじょう……にわえん?」
漢字はまだ難しいが、庭であることはわかった。
「この中なの!」
「勝手に入ったら怒られるよ。」
「バレなかったら大丈夫!」
そういうとどこからか箱を持ってきてドアノブを回した。
「開かない……。お兄ちゃんも一緒に扉押して!」
大人に怒られる恐怖より、燈が見たお庭が気になってしまった。
宇宙に来てから植物を全く見ていない。
「一緒に怒られようね。」
二人で扉を押すとなんとか開いた。
妹が閉まらないように自分の靴を扉に咬ませる。
「こっちこっち!」
そこは岩場だった。
その岩の間を何を目指しているのかわからないがずんずん進んでゆく妹。
慌てて追いかける。
しばらく行くと森が見えた。
「本物の木、久しぶりに見たよ。」
これが妹の見せたかった景色か、と思っていたがどうやら違うらしい。岩場と森の境で手招きをしている。
「まだ奥まで行くの?」
正直疲れていた。だけど好奇心が疲労を押しのけている。
俺も森の中に踏み込んだ。
どこをどう歩いたのかわからない。
気がついたら大きな木の根元にいた。
周りには色とりどりの花が咲き乱れ、光を受けて宝石のように煌めく蝶が飛び回っていた。
「すごい……。絵本みたいだ。」
「でしょ!」
それで、どうやって戻ったんだっけ。
あれ、俺今、何しているんだっけ。




