35.
妹、燈と思われる女性の声を聴いたとき本当に妹なのか自信がなくなった。
記憶していた声とあまりにも違うからだ。
いくら女性とはいえ、成長するにあたって声は変わるんだ。まさかわからないとは予想もしていなかった。
それは、あちらも同じようで声だけで俺を認識してくれることはなかった。
声変わりしているわけだから、幼少期の声の面影なんて残っていない。
燈の声に導かれるまま、俺は赤いランプの点灯するハッチへ機体を滑り込ませた。
『ウェッター隊長。私を信じなくてもいいですから、ライのことを信じてください。』
去り際にジューダスに言われたことが気になる。なんだか含みのある言い方だ。
動力機関を止めシートベルトを外す。重力があることに気が付く。
地球並の重力に苦戦していると目の前の壁に文字が浮かび上がった。
”おかえりなさい。”
「た、ただいま。」
そう返事するも、自分がここにいた記憶はない。
暫く静かだったが、突然無線機から大音量の怒鳴り声が聞こえた。
『ロイ!ライ!何をしているんだ!レイ!ダメだ来るな!!!!』
ルイの声だ。
この作戦で、わざわざ俺を船外の監視に充てたくらいだ。よっぽど来てほしくないのだろう。その気持ちは痛いほどよくわかる。
必ずしも生存者は助けられるわけではない。環境の変化についてこられず死亡するケースや、自死する場合もある。
そんなことになる可能性があるときに、俺と燈を会わせてしまったら万一の時俺が悲しむと思っているのだろう。
さらに、任務には私情を持ち込んでほしくないという思いもあるのだろう。
『ただでさえ、お前が近づくと不可解な現象が起きているんだ!これ以上近づいたら何が起きるわからないわ!!』
戦闘機の無線スイッチを切ると、宇宙服に内蔵された無線機に呼びかける。
「船内に侵入した。」
加圧完了の文字を確認してから扉を開け、硬い床に降りる。
重力に思わずふらつく。
「燈、どうしたらいい。」
『ガイドに沿って進んで。本物なら通ることができる。』
そういうや否や、おかえりなさいの文字が消えた。
”左の扉をくぐれ”
その指示に従う。
シュッと空気の移動する音がして扉が開いた。
一歩中に踏み入れる。
すぐに後ろで扉はしまった。
そこは短い廊下だった。
正面と左右に扉がひとつずつ、計三つ。どれも、何の部屋化は文字がつぶされていてわからない。
正面の扉に文字が浮かぶ。
”この扉を進め。ただし、生体認証ロックがかかっている。”
「なるほど。本物なら通れるっていうのはそういうことか。」
俺が子供の頃の情報なんて、日本人のあの研究グループはごまんと持っていただろう。
それを使えば、本人が居なくても登録できるってことだ。
正面の扉の横に小さなカメラが壁に埋め込まれている。
「虹彩認証か?」
問には答えてもらえず、しぶしぶ左目を近づける。
”許可されたユーザではありません。”
扉を開けることはできなかった。
「どういうことだ?」
実は、この生存者は燈ではなかったんじゃないかと一瞬不安になるが、そんなことはないだろう。
そこで気が付く。左目はもともと自分の目ではなかった事を。
気が進まないが、長い前髪をかきあげて右目をカメラに向ける。
赤い目がレンズ越しに見つめ返していた。
”許可されたユーザです。ロックを解除します。”




