31.
ヘルメットが外される感覚に目を覚ました。
だが、仰向けのまま体が動かない。これが金縛りというやつか。
リュウは眼だけを動かしあたりの様子を探った。
そこは、気を失う直前まで居たエレベータだった。停止している。重力もあるようだ。
さて、誰がヘルメットを外したのか。
ぐるぐると眼球を動かしているとぱっと目の前に顔が現れた。
「こんにちは!」
この女の子は、生存者!
何か声をかけなきゃと焦るが全く声が出ない。
ただ視線だけが釘付けになる。
「お兄さんはいい人?悪い人?」
何かを話しているのはわかるのだが、日本語は少ししかわからない。
「あれ、お兄さん日本人じゃないの?」
やっとの思いで声が出た。
「俺は……中国人。」
「日本語わかるの?」
女の子が驚いたように身を引いた。
それと同時に金縛りが和らいだ。
「少し。かんたんな日本語で話してくれ。」
身体を起こすことはできそうにないが、声は問題なく出るようになった。
「じゃあ、こんにちは。」
「こんにちは。」
「びっくりしたでしょ。こんなオンボロ船に私みたいなのが乗っていて。」
「……?」
女の子はこちらが話を理解していなくてもお構いなしに話続ける。
「今はお喋りしている場合じゃないわ。お兄ちゃんを返して。」
「お兄ちゃん。それはウェッター隊長のこと?」
「誰それ。お兄ちゃんはそんな名前じゃない。」
第二部隊のウェッター隊長の話が本当なら彼女は双子の妹だという事になるがどうも違うらしい。
「ウェッター隊長。レイ・ウェッター。」
「!!」
丸く見開いた女の子の目を見て気づく。左右で目の色が違う。虹彩異色症だ。
「そう。私のお兄ちゃんはれい。天候冷よ。」
キッと俺を睨み付けると彼女はエレベータから降り分厚い鉄の扉を軽々と開け奥へと姿を消した。
「ちょっと待て!」
慌てた拍子に金縛りは解け、素直に立ち上がることができた。
「俺のヘルメットを……!」
追いかけようとしたとき、つま先に柔らかいものが当たった。
「ライさん!」
それは、いまだ気を失ったままのライ・ナビルグの腹だ。
ごめんなさい、と小さく謝る。
ここに放置していくのはいくら何でもできないので起こそうと軽くゆすってみた。
「うう……。」
眉間にしわを寄せたまま目を覚ます気配はない。
ライもヘルメットをしていないことに気が付く。何を考えているのかわからないが、あの子が持って行ったのだろう。
このまま、エレベータに二人でいるわけにもいかないので仕方なく、リュウはライを肩に担いだ。
「後で怒んないでくださいね。」
リュウより年上ではあるが、小柄なライは重力があっても軽々と持ち上がった。
そして、女の子が消えた扉の先へとリュウは足を踏み入れた。
「すごい……。」
そこは栽培区画と呼ぶにはあまりにも雄大な自然が広がっていた。
「俺の乗っていた中国船とはえらい違いだ……。」
思わず、自分が戦災孤児として宇宙空間に取り残されていたことを思い出してしまう。
「絶対助ける。」
その思い出は、リュウを強くするのだった。




