29.
巨大な宇宙船に小さな変化をレイは感じ取っていた。
カツカツと自分の戦闘機と宇宙船の外壁が当たるのだ。
どちらも静止しているのに、おかしな話である。
「第二部隊!宇宙船の様子がおかしい。距離をとれ!」
世の中には変形する宇宙船も存在するから気は抜けない。
レバーを引くと戦闘機は垂直に浮き上がった。周囲を見回すと煌々とサーチライトをつけた状態の仲間がたくさん見える。
一体、中で何が起きているのだろうか。
何度も通信を試みたが、突入後からノイズがひどく何の情報も得られない。
「こんな時にジューダス、あいつはどこに行ったんだ?」
誰もその問いに答えることはなかった。
代わりに慌てた様子の隊員から通信が入る。
『ウェッター隊長!排熱の温度が上昇しています!』
「なに?距離を取りつつ引き続き監視してくれ!」
まるで、永い眠りから目覚めるかのようにゆっくりとこの宇宙船は動き始めていた。
もう一度、内部に連絡を取ろうとした時だった。
「まぶしいっ!」
外壁につけられた無数のライトが強烈な光を放ち目を眩ませた。
慌てて、戦闘機のガラスを暗くするが残像がちらつく。
妹が居る栽培区画は無事かと目をやるが、強い光でやはり見ることは叶わなかった。
暫くするとその光は徐々に明るさを落としてゆき、やがて栽培区画以外の明かりはすべて消える。
半透明の屋根越しに踊る人影が見えた。
もっと近くで見たい。
その一心で近づく。
カツンという音で機体の右側がドーム状になった栽培区画の屋根に当たったのだと気づいた。
『ウェッター隊長。それ以上の接触は危険です。離れてください。』
部下の冷静な声に慌てて一メートルほど離れる。
半透明のガラスは中の様子をもどかしい程度にしか映し出さない。
「くっそ……。なんで繋がんないんだ。」
申し訳程度に握ったこぶしでハンドルを叩く。
『ウェッター隊長。遅くなりました。』
この感情の無い声は、ジューダスだ。
声と同時に宇宙船の陰から戦闘機が姿を現す。
「お前、どこに行っていた!」
『プレゼントです。』
こちらの問いには答えず、その戦闘機にぶら下がっている歪な蜘蛛のような物体をロボットアームでつかむと宇宙船に投げつけた。
「なにしている!」
壊れたらどうする、と続くはずの言葉はそこで途切れた。
『こちら第三部隊副隊長、ライ・ナビルグ。異音を確認。発生源へ向かいます。』
ノイズがきれいに除去された、ライの通信が入った。
「ライ!聞こえるか!何が起きている!」
『エレベーターの駆動音だと思います。無線機の故障で返事は一切聞こえておりませんから、先ほどのエレベーターの前まで来てくださると助かります。』
『ライさん!ライさん!何で何も言わないんですか!もしかして、無線機の故障ですか?えっ、何か言っている……?』
共に第二部隊副隊長リュウの混乱した声も飛び込んできた。
しかし、こちらからの声は届いていないようだった。
『ウェッター隊長。気に入ってくれましたか。』
「ジューダス。お前、一体何をしたんだ。」
『まだ、実戦に投入できるような技術ではないんですが平たく言えばアンチジャミングマシーンですね。それを取り付けました。』
最新のアンチジャミングマシーンはもちろん全戦闘機に搭載されているがそれよりも新しいものということか?
だとしたら、なぜジューダスがそれを使用しているんだ?どこから入手した?
頭の中をなぜが支配する。
『ジャミングは解除されましたが、どうやらナビルグ副隊長とゾーラタ副隊長の無線機も何かしらの不具合が起きてるみたいですね。そこまでは解決できなさそうです。』
姿は見えないが、焦っていることがよくわかる声が耳に届いた。
『おい!ライ!?くそっ!どこに行った!』
『ロイ、落ち着いて。エレベーターに乗っただけよ。リュウも一緒だったみたいね。』
ダメもとで呼びかける。
「ルイ!ロイ!聞こえるか!」
『この声は、レイ?』
マイクに食い掛かる勢いで話しかける。
「宇宙船の外壁が光った。振動もしているし排熱量も増えている。何があった。」
『こちらは、停止していたはずのエレベーターが動き出してそれにライとリュウが乗り込みはぐれた。』
ロイが壁を強くたたいたのだろう。ドンという鈍い音が無線越しに聞こえた。
『ウェッター隊長。栽培区画に動きが。』
ジューダスの声で確認する。
「あれは、誰だ。」
『……ライだ。』
「何だって。」
『信じてほしい。あれは、ライ・ナビルグだ。』




