26.
出撃前のミーティングが行われている。
ルイはRPGを模したランチャーを担いでおり、その横のリュウも未だ地上では大量に出回っているAK47を模した銃を斜めに掛けていた。
一方、レイはパイロット用のスリムなスーツに着替えており重火器は携帯していない。
先ほどから姿が見えなかったジューダスも平然と並んでいる。
ロイは戦闘用の動きやすく作られた宇宙服に着替えていたが、目立った武器は携行しておらず、腰からハンドガンをぶら下げるライに怪訝な目で見られていた。
「さて、そろそろ行こうか。」
ルイの一声に皆がうなずく。
「第二部隊が初めに向かい、船の周りを監視。その後、第一部隊と第三部隊が突入という流れです。」
リュウがもう一度確認し、皆がまたうなずく。
「それでは、各自持ち場に就け!」
ルイの声で一斉に動き出した。
*
第三部隊の最下層ドックでロイとライがもめている。
「ライ君なんで俺と乗ってくれないのさ~。」
ロイが階段にしゃがみ込んで下にいるライに駄々をこねている。
「危険の分散です。隊長と副隊長が同じ戦闘機に乗って撃破されたり事故を起こしたら笑えないでしょ?」
「ちっ。ライ君に操縦してもらおうと思ったのに。」
「たまにはご自分で操縦しないと鈍りますよ。」
半笑いでライは割り当てられた一人乗りの戦闘機に乗り込んだ。
「ゼラル隊長……。」
その様子を一歩引いたところから見ていたソニヤが恐る恐るといった様子で声をかける。
「あ、ソニヤさん。待たせて悪いね。ライのけちんぼのせいで。」
当てつけのように言うロイの耳元にライから無線通信が届く。
『隊長聞こえてますよ。』
聞こえるように言っているんだよ、とロイは言ったがもはや相手にはしてもらえなかった。
「じゃ、俺たちも乗ろうか。」
諦めたロイは偵察機の運転席に身軽に飛び乗る。
「隊長!私が操縦します。」
「ありがとう。でも、ライ君のいう通り鈍っちゃうからたまには俺が操縦するよ。さ、座った座った。」
三点式のシートベルトで体を固定すると、ロイはおもむろに煮干しのパックを取り出した。一気に、機内が独特なにおいに包まれる。
「元気の源。さあ、ソニヤさんも食べて。」
「あ、ありがとうございます。」
ロイから煮干しを一匹受け取りじっと見つめるソニヤ。
「あ、嫌いだった?」
次々と電源を入れてゆくロイが前を見据えたまま尋ねる。
「い、いえ。食べたことがないので。」
そういうと思い切った様子でソニヤは煮干しを口の中に放り込んだ。
「……お、い、しいです。」
「そう?あんまり美味しいものではないと思うけど。」
二人の会話が途切れる。
ソニヤの顔には「なら、なぜ食べさせた」と書いてあるようだ。
「さあ、こちら隊長機。発進準備完了。」
その声に慌ててソニヤは自分のシートベルトを確認する。
『こちらコントロールセンター。第二部隊が現場に到着し次第順次指示を出します。それまで待機していてください。』
「りょーかい。」
*
レイは一人で戦闘機に乗っていた。
さっきから不審な動きが目立つ副隊長ジューダスと離れるのは監視の目が届かなくなるような気がして避けたかったのだが、「危険の分散です。」と同乗を拒否されてしまった。
そのジューダスの機体はレーダーで探知できる範囲を出ることなく、並んで飛行していた。
第三部隊が示した地点に近づくが、巨大な船が目視での発見はおろか、レーダーに映ることもなかった。
「消えた……?」
視界のきかない暗闇の中、レーダーの緑の光を食い入るように見つめる。
すると、ジューダスの機体が緩やかに離れていく様子が見えた。
「何してんだ。あいつ……。」
しかし、よく見るとほかの隊員の機体もみな自分から離れて行っていることに気づく。
『こちらジューダス。ウェッター隊長、どうした。』
少し焦った様子のジューダスの声が聞こえやっと自分の機体に異常が生じたことに気づいた。
「こちらウェッター。わからない。まるで何かに流されているようだ。」
方向転換をして第二部隊の集団に戻ろうとするがすぐに離れてしまう。
『機体の故障ですか。』
「いや、計器類も問題なく動作しているし、舵も多少は効くがすぐ戻されてしまう。」
『そちらに向かおう。』
言うが早いがレーダーでマークいていたジューダスの機体がどんどん近づいてきた。
しばらくして、牽引用のロープを下げた状態でジューダスの機体が現れる。
『ウェッター隊長。引っ張ります。』
「ありがとう。」
ジューダスの親切に内心首をかしげながらもアームを操作し牽引用ロープを固定しようとする。
しかし、それはできなかった。
まるで何かに吸い寄せられるように、レイの乗る機体がジューダスのものから勢いよく離れていったのだ。
『ウェッター!!!!!!!』
ジューダスからの無線が途切れ、機体もレーダーが検知できる範囲の向こうに行ってしまった。
不意にアラートが鳴った。
『目標接近。目標接近。減速せよ。減速せよ。』
慌てて逆噴射をしながらレーダーを見る。
するとすぐそばに大きな宇宙船があることが分かった。
サーチライトを点ける。
壁のように大きな外壁がすぐ横にあった。
「これは……もしかして……!」




