25.
*
「第二部隊は第三部隊と無事合体したよ。」
第二部隊船の展望デッキで一人の男が手すりに寄りかかっていた。
右手の携帯端末が通話中を示す緑に光っている。
「ライ?まだ会ってないよ。そりゃあんた、俺だって会いたくて逢いたくてこの身引き裂かれる思いだよ。」
伸ばしたターバンをくるくると回しているところから、他人を警戒している様子はない。
「しかし、もう向こうは気づいてんでしょ。まだコレ続けなきゃいけないの?いまいち必要性がわからないんだけど。」
呆れたようにため息をつく。
「とにかく、概ね予定通りでそちらが観測できている事態と現場に相違ない。レイ・ウェッターも一時取り乱していたが、現在はきちんと隊の指揮を執っている。あんたが心配するようなことは何も起きてないよ。」
不意に彼はあたりを見回した。
人の姿はないのだが、険しい顔つきになり早口になる。
「そろそろ戻らないと他の隊員に怪しまれる。緊急の用があったらメッセージを送ってくれ。」
右腕の携帯端末が赤く光ると何事もなかったかのように彼はその場を後にした。
「なぜ、今通信が乱れたんだ……。」
*
『こちら第一部隊。第二、第三部隊応答願う。』
第二部隊との合流から時間が経ち、第一部隊からの通信が入った。
「こちら第三部隊ライ・ナビルグです。」
『ライ副隊長、こちらあと五分でランデブー態勢に移行可能です。』
「了解。第三部隊船のハッチBにつけてください。」
コントロールセンター内に再び緊張が走る。
繊細さが求められるからこその緊張である。
「よう、ライ。」
「隊長!とウェッター隊長!」
「そろそろ第一部隊が来るんじゃないかなと思って来たんだけど、どうかな?」
いつの間にかライの後ろに立っていた二人はコントロールセンターの大きなモニターを見上げている。
「ちょうど今、連絡が入りました。第三部隊船のハッチBに着けさせます。」
「わかった。どれくらいでできる。」
「向こうの態勢が整うまで五分、そこから十分以内には往来可能になるかと。」
コントロールセンター内の隊員らがため息をつく。
ドッキングを行うのにいつもなら三十分はかける。
その空気を察してか、ロイはコントロールセンター中央に座る人物に声をかけた。
「よし、艦長。今言った時間より早かったら、コントロールセンター職員にボーナス出すぞ!」
瞬時にため息は消え、隊員らにやる気が溢れた。
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「お疲れ、レイとロイとライ君。」
ハッチを一番に抜けてきたのは第一部隊隊長であるルイ・ソトニコワだった。
隊員服をしっかりと着て、自身のトレードマークでもあるRPGを模した銃を斜めにかけている。
「お久しぶりです。レイさん。ゼラル隊長。」
その後ろからAK-47を模した銃をぶら下げた副隊長リュウ・ゾーラタがぬっと現れた。
「リュウ君!しばらく見てないうちに随分大きくなったね!」
抱きつきながらレイは驚いたようにリュウを見上げる。
「あんなに小さかったのに……。」
孤児として保護されてから、よく面倒を見ていたレイはとても感慨深そうにうなずいている。
一方、ロイはあきれた様子でルイを見ている。
「ルイ。俺の解釈がもしかして間違っているのかもしれないんだが、今回のミッションは不明船に残っている生存者を保護し、船を解体するために浮きドックまでもっていくであっているよな。」
「ええ、全くその通りよ。」
「一つ聞きたいんだが、その重火器まさか船内で使うようなことないよな?」
質問の意図が伝わったのか、ルイがニヤッと笑った。
「あんた、まさかこれが本物のRPGだと思ってないでしょうね?そんなわけないじゃない。いろいろとハイテクな改造を施したのよ。」
「ならよかった。」
「威力はRPGの五倍!」
「……。」
「冗談よ。」
「最近よく悪い冗談を言われるな。」
げんなりとした顔で吐き捨てるようにつぶやいた。
「さて、皆さん。会議室に移動しましょう。」
ライの言葉にじゃれあっていた皆は一気に静まった。
「そうね。じゃあ、隊長は第三部隊に会議室に、副隊長は各部隊の指揮にあたって。」
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数分後、いつも通りの会議が行われていた。
いや、面と向かって座っているからいつも通りではないのかもしれない。
モニター越しではわからない、息遣いや空気感を感じることができ何となくスムーズに会議が進みそうな気がする。
そんな中、ルイがおもむろに口を開いた。
「役割を決めたわ。先に偵察をして、生存者と接触している第三部隊がその救助。第一部隊は船内の探索。そして第二部隊が船外の監視と探索。いいかしら。」
「第三部隊了解。」
「第二部隊了解。」
三部隊合同の作戦となると、やはり実戦経験も豊富な第一部隊の隊長が指揮を執るものである。
二人は同意のためにうなずいた。
「第三部隊は少人数でいいわ。第一部隊と第二部隊はそれぞれ二十名づつ出しましょう。」
ロイがすかさず口を挟む。
「少人数って具体的に何人だ。」
「任せるわ。動きにくくないようにね。」
「わかった。すぐに考えよう。」
そううなずいたロイの横でレイは既に隊員名簿を高速で見ていた。
考える、と言ってもとっくに参加メンバーは決まっており、そこに人員を足すかどうかを一瞬悩んだのだが、それもすぐに答えが出た。
「第三部隊からは、俺、ライ、ソニヤが行こう。」
「少なくないか?」
レイが怪訝な顔をする。
「先の偵察で、船内に脅威は確認できていないからこんなもんでいいだろ。」
「そうね。それにあまり人数が多くても、生存者を警戒させるだけだわ。」
いまいち納得いかないといった表情だが、レイはそれ以上追及することはなかった。




