24.
『首尾は?』
机に寄りかかる影がモニターによって亡霊のように青白く浮かび上がる。
「問題ありません。」
『引き続き、監視を頼むぞ。』
「Yes my brother.」
無表情だった口もとが少しつりあがった。
『……お前にふざけられるとどうもおちょくられている気がしてならないのだが。』
「気のせいじゃないんだと思います。」
『ジューダス、覚えておきなさい。』
明かりが煌々と灯されたコントロールセンターの一角で、右腕につけた通信端末の通信終了ボタンを押す。
「ジューダス、第三部隊との連絡を頼む。」
同時に、現在の上司レイ・ウェッターからの指示が飛ぶ。
「おっと、危なかった……。」
「何か言ったか?」
「いいえ。何も。即時通信を開始いたします。」
いつまで俺はこの立場でいなくてはいけないのかふと思ったが、目の前の仕事に集中しようと軽く頭を振った。
*
『隊長!第二部隊から合流許可を求める通信です。』
携帯通信端末から、コントロールセンターのあわただしい様子が伝わってきた。
「今から行く。コントロールセンターメインスピーカーでその通信を放送し、俺のこの端末にも転送してくれ。」
『承知。』
一瞬通信が切れた後、ノイズ交じりの通信音声が入ってきた。
『ランデブー開始までのカウントダウンを始める。』
「この声は噂のジューダスだね。」
ロイは思わずため息をついた。
『聞こえているか?応答せよ。』
予想時刻よりも早い到着にコントロールセンターはパニックになっている。
「こちら、第三部隊副隊長ライ・ナビルグです。ずいぶんお早い到着でしたね。」
横でライが珍しいことに嫌味を飛ばしている。
『……世間話はいい。ランデブー準備をしてくれ。』
「ええ、今準備中ですよ。コントロールセンターの通信手に代わりますね。」
そう言ってライが通信を終えた数分後、艦内に警報が鳴る。
『注意。注意。ランデブーを開始。防護服着用者以外ハッチフロアは立ち入り禁止。衝撃に備えろ。繰り返す』
「さあ、奴らのお出ましだ。迎えに行ってやらんとな。」
会議室を出てハッチフロアの一つ下の階へ向かう。
何も言わずとも、後ろにはアホ毛を揺らすライがついてきている。
「レイさんと直接お会いするのもずいぶん久しぶりですよね。」
「そうだな。最後にあったのは、あいつが隊長に就任したときか。身長伸びているといいな。」
「あれ、レイさんってそんなに背が低かったでしたっけ。」
「大きくはないが……。」
ちらりとライを見るとアホ毛が立っていた。
「アホ毛分、お前のほうが高いかもな。」
*
ランデブーは無事成功し、二つの船は一つになった。
まず最初に乗り込んできたのは第二部隊隊長であるレイ・ウェッターだ。
「ロイ!久しぶりだ!」
「おう。」
レイはぎゅっとロイに抱き着く。
「第二部隊の皆様方、お久しぶりです。今回の共同作戦、どうぞよろしくお願いします。」
その横でライが堅い挨拶をしている。
「ライ、何でお前が隊長の俺よりも隊長っぽい事言ってんだ。」
「こういうのは言ったもん勝ちですよ。」
「まったくだな、ロイ。」
レイはパッとロイから離れると第二部隊隊員らの先頭に立ちかしこまった表情をした。
「第三部隊隊長並びに隊員諸君。今回のミッションでは迷惑をかけるがどうかよろしく頼む。」
言い終わると、レイだけではなく後ろに控えていた隊員らも同時に深くお辞儀をした。
「え、えっとレイさん、顔を上げてください、みなさん?」
「レイ。こちらこそ、よろしく頼む。とりあえず隊員のみんなは第一部隊が到着するまで待機でいいんじゃないかな。」
「そうだな。ただ、機動班だけは資材の確認をそちらとしておきたいのだが。」
「そうだな。こちらの機動班班長と設備班班長を呼ぼう。」
そう言うや否や、即座にライが二人に呼び出しをかける。
「小会議室が空いていますのでそちらをご利用ください。」
会議室の準備まで完璧だ。
「艦内の案内係も用意する。ちょっと待っていてくれ。」
携帯端末で暇そうな隊員を呼び出すことにする。
<立ち入りを許可するのは小会議室とトイレだけだ。他の場所に入りたがったら、俺かライをすぐに呼べ。>
案内係となった隊員五人に短めの指示を出す。
すぐに、了解の旨が伝えられる。
「よし、いったん解散。第二部隊も準備があるだろう。十分後にまたこのハッチで待っている。」
「承知した。」
レイは隊員らに向き合うと素早く指示を出した。
「ねえ、隊長。」
その隙に、こそっとライが耳打ちをする。
「ジューダス、どこに行ったんでしょう。」
「そういや、見てねえな。」
「副隊長ですから、挨拶に来てもおかしくないはずなのですが一体彼は何をしているんだ……。」




