22.
「この子供で間違いないんだな?」
「間違いありません。両親の出生も十代さかのぼって確認しています。」
おとうさんおかあさんと会えなくなってから、なんにち経ったのかわからない。
妹の燈はずっと俺の腕にしがみついている。
「もう実験は失敗できないんだぞ。この二人の子供を待った方がいいんじゃないか?」
「何を悠長なことを言っている。我々------が、祖国や連合国に勝つためには-------の力が必要なんだ。わかっているのか。」
俺らの、子供?何を言っているんだ。俺たちは子供の間違いだろう。
それに、肝心なところが聞こえない。何の力と言っているんだ。
「力があるのは息子の方だけだろう。娘の目を見たが、何の変哲もない普通の目だったぞ。」
また、俺の目が迷惑をかけるのか。赤い眼は不吉だと近所の人に嫌われ、幼稚園でも友達なんてできなかった。
「わたしは、おにいちゃんのおめめ、とっても好き。」
妹が泣きそうな目でこちらを見る。
「あかり……。」
部屋の前での話し声はまだ続いている。
「おとなはいつもああやって怒鳴ってばっかりね。」
「難しい言葉を使えばいいと思っているんだ。」
いつの間にか妹は寝てしまっていた。
「おとうさん……おかあさん……どこなの。どうして俺たちはこんなところにいるの。」
喧噪の続く中俺も妹と抱き合う形で夢の中に落ちていった。
「あかり!」
起きたとき、横に妹はいなかった。
「あかり!どこ!」
広くない部屋を見回すがその姿はない。
外に続くドアに手を伸ばすが、つかむところに手が届かない。
「おうちの取っ手には届いたのに……。」
ピョンピョンとジャンプをしていると突然ドアが開いた。
「うわあっ!」
妹を抱えた大人がずかずかと入ってきたのでぶつかってしまった。
「お前だけか……。必ず成功させる。安心してくれ。」
その大人は俺にやさしく微笑むと飴玉を二つくれた。
「あ、ありがとうございます。」
ここに来てからおやつなんて食べていないから躊躇ってしまう。
「大丈夫、普通の飴ちゃんだから。燈ちゃんが目を覚ましたら一緒に食べな、冷君。」
大人は出て行ってしまった。
「おに、ちゃん?」
「あかり!おはよう!」
しばらく妹の寝顔をじっと見ていたら、薄く目を開けた。
「どこに行ったの?俺びっくりしたんだよ!」
「なんかね、けんさっていうのしたの。」
「検査……?」
寝起きがいい妹にしては珍しくぐったりと横になったまま起き上がろうとしない。
「うん。でね、わたしには力がないって言われたの。」
「なんの力がないの?あかりは女の子だから力が無くて当然だよ!」
「ううん。そういう力じゃないみたい。なんかね。」
むずがゆそうに頭を俺にこすりつけた後、ぼそっと呟いた。
聞き逃してしまいそうなくらい、小さな声。
「天候の力。」
*
『おい!レイ!!聞こえているか!!』
『レイ!大丈夫!!』
遠くから聞こえる声に正面を向くとうすぼんやりと人が見えた。
「おとな……。」
「ウェッター隊長。」
その声に一瞬で現実に引き戻される。
「!!!!!俺は今??!」
『だーーーーーーいぶ長い間トリップしてたわよ。』
「立て続けにすまない。」
『言いたくない過去があるなら無理にいう必要はない。ただ、ボーっとしていちゃ助かるもんも助かんないぞ。』
ロイのご尤もな指摘に涙が出そうだった。
いや、すでに流れていた。
「あれ、俺、いつから泣いて……?」
「トリップ中に突然泣かれていましたよ。」
ジューダスの無感情な声にハッとする。
『この際、細かいことはどうでもいいわ。確かにあの生存者は、レイの妹さんのようね。』
ルイの指摘にライが頷いているのが見えた。
『ここからは救助に向けての作戦会議といたします。ソトニコワ隊長、お願いします。』
やっと私の出番だ。レイの身の上話も気になるところではあるが、それを聞くことは最優先課題ではない。
「本作戦には二つの目標がある。」
レイの方を、といってもスクリーンに映し出された映像なのだが、を見て親指を真横に伸ばす。
「一つ目、生存者を救助、保護すること。」
人差し指を伸ばす。
「二つ目、不明船をけん引し解体ドッグまでもっていくこと。」
とても分かりやすい目標だ、と満足する。
「そのために動員する戦力については通信終了後、各部隊に書面にて送付するわ。」
フォーマットがあるから、それを送り付けたほうが早い。
『ルイさーん。携帯端末切らないで下さいよー。』
突然、気の抜けた声で艦内放送が入った。
『こちらコントロールセンター、艦長でーす。第三部隊船を発見しました。目標接近まで三十分ですねー。』
「あれ、いつの間に私電源切っちゃったんだろ。みんなごめんね。そういうわけで、私たちは三十分で合流できるわ。」
『畏まりました。第三部隊もそちらの位置を捕捉できたようです。』
さすがライは仕事が早いと感心する。
『第二部隊は第一部隊船を発見。追従しています。』
でたわね、ジューダス。
いまいち、つかみどころのない男だが、こいつもどうやら仕事は速いようだ。
「了解。第二部隊は私たちについてきて。」
『畏まりました。推力ではこちらが上回っていますので、15分後に接近予定です。』
「了解。」
『ルイたいちょー。第二部隊船が爆速で接近中ですよー。予想衝突時間まであと15分ですねー。』
「ぶつけないでね。」
『気を付けます。』
少しでも笑えばいいのに、この副隊長は一切の表情の変化を見せなかった。
「とりあえず、これにて解散。三十分後合流し次第最終ミーティングを始める。」
『了解。』
そうして、回線は切られた。
「ルイさん。」
ずっとだんまりだったリュウが口を開いた。
「知っていたんですね、生存者がレイさんの妹さんだと。」
「なんのことかしら。」
「だから、今回は事情が特殊、とか言ってはぐらかしていたんですね。」
下を向いたまま、話されると少し不安になる。
「でも、俺は絶対に救助に向かいます。たとえあなたが阻止しても!この宇宙警察を除籍になっても!」
「好きにしなさい。今の私はこれ以上あなたを止めることはできないわ。」
「!!失礼します。」
今の言葉をどうとったのかわからないが、リュウは目を輝かせながら通信室から出て行った。
「あの子も、もう大人なのね……。」




