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宇宙警察SPACE軍【レイ編】  作者: 甘納豆
23/44

21.

『ナビルグ副隊長、私から何点かいいかな。』

「はい。ジューダス副隊長どうぞ。」

滅多に口を利かないこの男が一体何を、と妙な緊張感に包まれる。

その緊張を察してかライのアホ毛も妙な動きをしている。

『ウェッター隊長がここまで取り乱しているのに心当たりのあるものがいるなら教えてほしい。』

そっとジューダスがタオルをレイに差し出した。

「ちょっと待ってくれ。」

「ゼラル隊長どうぞ。」

ライも俺の心境を察してか、険しい顔つきである。

だって、そりゃねえだろ。第二部隊の二人は相性が悪いことでとても有名だった。

それが、なんだ?傷心の隊長にハンカチを差し出す副隊長だと?

「ジューダス。お前どういう風の吹き回しだ。」

『何のことでしょう。ゼラル隊長、副隊長は隊長を補佐するものだと思っていますが、何か間違いでもありますかね、ナビルグ副隊長?』

急に饒舌になりやがって。

そもそも、こいつは一体何者なんだ。ジューダスなんて不吉な名前、本名かもわかったもんじゃない。

『やめなさい。』

にらみ合う俺たちの間にルイが入った。

『ライ君、続けて。』

真剣なルイの表情に、はじかれたようにライが顔をあげる。

「ウェッター隊長のことに私は心当たりありません。隊長ご自身での説明可能であればお願いします。」

『嘘でないのならば。』

いつもは前髪で隠れ、片方しか覗いていないその目が今は取り乱し見え隠れしている。

『嘘、じゃないんだよな。』

「レイ。まどろっこしいぞ。早く結論を言ってくれ。」

『俺にだって、心の準備が、必要だよ。』

レイの右目は赤いという噂を聞いたことがあるが、今見えるその目は左目と同じ黒だった。

『この生存者は。』

モニターの前で、皆が固唾をのんで次の言葉を待つ。

『この生存者は、かつて生き別れた妹だ。』

静止された動画とレイの顔を見比べる。

生存者は右目が赤かった。


*


遠くで名前が呼ばれる。

「おにいちゃん、今日はお写真撮るって!」

白いワンピースを着た妹がほほ笑む。

「早くレイも用意しなさい。」

「おいていっちゃうぞー。」

遠くにいるのは、おとうさん?おかあさん?

「なんでお写真撮るの?」

「なんでもない一日が一番特別だからだよ、燈。」

俺は黒い服を着る。

「あかいおめめがとってもきれいだよ!おにいちゃん!」

まっくろな妹の両目が輝きをたたえてこちらを見ている。

「そうか、これは最後の日の記憶だね。」

「え、おにいちゃん変なこと言ってどうしたの?」

「アカリ、お前は俺が必ず見つけるよ。」


*


「ウェッター隊長、大丈夫ですか。」

肩を抱かれふと我に返る。

目の前のスクリーンには通信中のアイコンと第一部隊、第三部隊の面々が映し出されていた。

しまった、と瞬時に後悔をした。

この副隊長に隙を見せてはいけないのだ。

「ありがとう、ジューダス。もう大丈夫。」

純粋な心配だけではないのだろう、何か裏のありそうな顔をしている。

「取り乱してすまない。この生存者は俺の妹だ。見間違えることはない。」

『レイ。盲目的にその言葉を信じるわけにはいかないわ。その妹さんの写真とか持っていれば見せてほしいのだけど。ライ君からの映像と比較してみたいわ。』

見間違えるわけがない、という言葉はとても主観的過ぎた。ルイの言う通りだ。

「ちょっと待っていてくれ。子供の頃撮った写真がある。」

通信室に副隊長一人を残していくのは気が引けたが、この場にいないとはいえほかの隊長らの目もあるから大丈夫だろうと通信室から飛び出した。

勢いよく廊下を走る俺にすれ違う隊員は驚いたように道を開ける。「あの隊長が鬼の形相してたぞ。」

「なんかよくないことが起きてるに違いないさ。」

「いいや、副隊長とついにドンパチやるにきまってる。」

ひそひそと話す声が聞こえたが構っていられなかった。

自室の前まで来ると扉が自動で空いた。電気が一斉に点く。

ベッドサイドのテーブルにいつも置いてある写真立てと、引き出しの上から三段目のアルバムをつかむとすぐに部屋を後にする。

落としたらかなわない。しっかりと抱きかかえて走る。

「ま、またっ、またせた……。これ、だ!」

息も絶え絶えになりながら、まずは写真立ての写真を見せる。

『確かに、面影があるわね。』

『レイ。それの撮影日はいつだ?』

「悪い、がっ、覚えて、いない……。」

だけど、この妹の写真は右目が赤い。ということは……。

「6歳以降なのは確かだ。」

『根拠は?』

間髪入れずにルイからの指摘が飛んでくる。

聞かれても、答えたくないことだってあるんだが、今はそうもいっていられないのかもしれない。

「話せば長くなるのだが、俺は……。」

『ウェッター隊長。時間がありませんのでそのお話は後ほどお伺いいたします。そのほかにお持ちになった写真を見せてください。』

決意ができぬまま切り出したが、ライによって遮られた。

その考えが読めず、思わず見つめるがそのアホ毛が落ち着きなく揺れている以外、いつも通りの涼しそうな顔をしていた。

「ライの奴……。」

「どうした、副隊長?」

何か言われた気がして、そちらに顔を向けるが片手をあげて拒絶されてしまった。

持ってきた写真をすべて机にぶちまける。

『よくこんなに取ってあるわね。』

「両親が写真好きで、よくフィルムカメラで撮影していたようで、そのネガが地球の写真屋に保存されていました。それをすべてまた現像してもらっただけです。」

両親、と口にしてみたもののその存在には違和感しかない。

ある日突然僕らの世界から消えた、両親。

横でせっせとジューダスが写真を並べている。

その様子を頭上からのカメラがとらえている。

険しい顔をしたロイがモニターに目を近づけているのが見えた。

『左から四列目、上から五行。』

「この写真ですね。」

その写真は、最後になった日に撮った写真だった。

『拡大できないか?』

「スキャンして表示します。」

何もできないでいる俺の横で珍しく協力的に動く副隊長を見て少し不安になる。

スキャンされた写真が大々的にスクリーンに表示された。

『やっぱりな。レイ、この写真は六歳以前だな?』

このときの妹の目は両目とも黒い。そして、俺は、真っ赤だ。

「……。そうだ。七つになる年に俺らは目の手術を受けた。」

実際は手術なんて聞こえのいいもんじゃないけどな。

あの頃のことが一気に思い出された。

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