18.
「待って!君……!」
一生懸命人影を追いかける
すばしっこいそれはこちらの様子を窺うようにしながらも決して手の届かない場所へと逃げていく。
『ライ!!無事か?!』
突然通信が入った。
どうやら先程の衝撃で不通だった通信が回復したようだ。
「隊長!こちらは無事です。只今生存者を保護しようと……ソニヤさん!危ない!」
目の前の女の子が突然ソニヤさんに飛びかかった。
『おい!ライ?!』
「ちょっと待ってください。ソニヤさんを助けます!」
女の子はヘルメットをはずそうと一生懸命引っ張っている。
「お願い、離して。」
ここからでは何を言ったのかはわからなかったが、優しくソニヤさんが頭を撫でると女の子は驚いたように手を緩めた。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
「ソニヤさん!緊急用のハッチに戻りましょう!彼女を保護するには装備が足りません。」
『ここで放ってしまったら死んでしまうかもしれないです!私は残りますから副隊長だけ帰投してください。』
『それは駄目だ。』
『隊長?!』
隊長の冷たい声に二人とも我に返る。
『ソニヤも一度戻れ。大丈夫、見殺しにはしない。』
『……わかりました。』
ぱっと女の子は木立の奥に走り去っていった。
僕の渡したカバンは少し先の所に置き去りにされていた。
「さあ、行きますよ。」
何度も後ろを振り返るソニヤさんの手を引いて歩く。
さび付いた金属の扉を再び引き開けエレベーターへ向かう。
屋上の庭園から足を踏み出すと重力段々と弱くなりエレベーターの縦穴に着く頃には無重力になっていた。
「行きますよ。」
ソニヤさんと自分をまた紐で繋ぎ牽引する。
上下感覚が失われたが、バールを差し込んだ扉が見えそこに飛び込む。
今までで一番暗い表情をしたソニヤさんが呼び止める。
『副隊長。』
「どうしたんです?」
『あの子は放置していたらもう長くは無いでしょう。』
「……だからといって今私達にできる事はありません。大丈夫。ちゃんとプレゼントを渡しましたから。」
『プレゼントって発信機ですよね?』
「まさか本当に発信器だと思ったんですか?だったらあんなに嵩張りませんよ……。うちの隊長凄い人なんですよ。もっと信じてください。」
*
きょうがなんがつなんにちなのかもうわからない。
この建物から大人がいなくなってからたくさんの時間がたった。
きょうは特別な日だった。
わたしの家にお客さんが来た。
ちょっと乱暴だったから大人が戻って来たのかとおもったけど、違った。
青い目のお兄さんと、家族と同じ黒い目のお姉さん。
大人が被っていたヘルメットと似ているものを被っていてちょっと怖かった。
お兄さんの言葉は理解できなかったけど、お姉さんはわかる言葉で声をかけてくれた。
「助けに来たよ。」
でも置いて行かれた。
まだまだ長い時間がわたしには残っている。昔大人がそう言っていた。
いつかみつけるんだ、わたしの兄を。大人に売られた兄。
そのために、わたしはこの船を動かすの。
*
二人の生存が確認された船内は安堵の空気に満ちていた。
しかし、こういう時こそ気を引き締めなければならない。
人知れずロイは深呼吸をした。
『隊長。ライ・ナビルグです。』
通信が繋がったあとまた暫く途切れていだが、いま再び音声が聞こえた。
「無事か?」
『はい。小型船に戻り脱出するところです。』
「よし。急いで戻ってきてルイとレイに報告をしてくれよ。」
『わかってますよ。』
シートベルトを装着する音が聞こえる。
「ソニヤ。」
『はい。』
「おつかれ。気をつけて帰ってこいよ。」
『ありがとうございます。』
『発進するので通信切りますね〜。』
ライの声と共にブツっと音が聞こえ残るはノイズだけになった。




