17.
「ずっと誰かに管理されていたようですね。その管理人はどこにいるのでしょうか。」
庭園に足を踏み入れると柔らかな芝生に足を取られた。
『いつも船の中ばかり歩いていますから、久しぶりに土の上を歩くと足が強張りますね。』
横を歩くソニヤさんも歩きにくそうにしている。
足元から目を上げると栽培が難しいリンゴの木が奥の方に見えた。
もっと近づこうと大きく一歩踏み出したとき、ソニヤさんの腕にゆく手を阻まれた。
『ずいぶんマメな人がいるみたいですよ、副隊長。』
ソニヤさんが拳銃を片手に僕の前に立ちはだかる。
『どうやら、ご挨拶をしなかったことにご立腹のようです。』
ソニヤさんが僕を突き飛ばし、地面に向け発砲した。
その音に驚いたのか、草陰から動物が飛び出す。
植物だけじゃなくて動物も生息しているのかと驚いているとソニヤさんにヘルメットを叩かれた。
茫然としていることに気が付いたのだろう。
『副隊長!目を閉じて下さい!!』
立て続けにソニヤさんは手榴弾のようなものを手にする。
「閃光弾!」
慌てて、ヘルメットのブラインドを閉めた。
視界を奪われては困る。
空気があることを思い出し音波センサーを作動する。
これが、僕の目の代わりになるのだ。
「音波センサー、作動。」
様々な周波数の音波を順に照射し周囲の様子を探る。
僕の目の代わりだ。
一つ一つの跳ね返りを聴き、僕の頭の中には完ぺきな地形図が生成された。
その中に見えた。
人。
「ソニヤさん、右手側30度の方向!」
僕の指示に瞬時に振り向くソニヤさん。
パンと乾いた音は彼女が握る銃から発せられたものだ。
驚いたようで、人は動作を止めた。
『まさか、私仕留めちゃいましたか……?』
「いいえ。弾は人のすぐ横のミカンの木に当たっていますからそんなことはないはずです。」
ヘルメットを通常の状態に戻し、恐る恐る二人でミカンの木へ近づく。
突然、人間が僕にとびかかってきた。
『副隊長!』
「撃つな!」
人間に押し倒され、じっとヘルメットの中を覗き込まれる。
逆光になり表情はみえないが、赤い唇からは何か言葉がささやかれている。
ヘルメット内のモニターで、きちんと録音できているかを確認した。
「君に、プレゼントがある。」
そっと人間を押し返し起き上がる。
その隙に、隊長から預かっていたカバンを差し出した。
『女の子・・・!』
はっと息をのむ声が聞こえた。
やせこけた彼女は不思議そうな顔でカバンを見つめている。
突然顔をあげるとまっすぐにこちらを見て、何かを言うが僕の理解できない言語だ。
首を傾け、両手を上げることで理解できない意を示すと彼女はうつむいてしまった。
その残念そうに揺れるその瞳は左右で色が異なっていた。
*
約束の時間が迫る中ライからの通信はいまだに無く、第三部隊船は緊張感が張り詰めていた。
「ライからの通信はないのか!!」
「依然居場所をつかむことすら困難な状況です。」
コントロールセンターでは、ロイが珍しく焦りの表情を浮かべ声を荒げている。
「隊長、機動班が例の不審船に到着したとのことです。通信をつなぎます。」
『こちら機動班班長。不審船を発見し包囲しています。』
「ご苦労。何か異常はみられるか?」
『そーーーうですね……。』
間延びした返事だ。
『古い船ってことはわかりますけど、特に目立った損傷もなさそうですし異常はないですね。めっちゃ大きいです。』
ライとほとんど同じような報告だった。
「そうか、あと五分でライと約束した三十分が過ぎる。俺の合図があったら突入してくれ。」
『はい。』
「ライとソニヤの救助が先決だからな。気をつけろよ。」
『もちろんですよ。ライさんがてこずる相手に俺じゃ太刀打ちできませんって。』
コントロールセンターのパネルには各船から送信されてくる映像が次々と表示されている。
「確かに、普通だな。一体中で何が起きているんだ・・・。」
あちこちに視線を動かしていると、暗闇の中鋭く光るものを見た気がした。
「班長!!不明船上部に動くものを見た!すぐ向え!」
『はい、隊長。』
気のせいかもしれないが、ライたちの可能性もある。
『こちら機動班班長。』
二十秒も待たずに班長から報告が入る。どうやら、もともと近くにいたようだ。
「何か見えるか。」
『半透明、というよりもはや不透明な半球状のドームがありますね。コントロールセンターにしては位置が微妙なので、なんでしょうね。』
報告と同時に静止画が送られてくる。映像よりも鮮明に映っているが、ライたちの姿は判別できない。
「すまなかった班長。俺の気のせいらしい。突入まで引き続き待機してくれ。」
『……。』
返事がない。
「班長?」
『隊長、さっき言ったドームで激しい光を視認しました。おそらく、閃光弾でしょう。』
「ということは、ライたちか。」
閃光弾以上に明るい知らせだ。
『このドームを割って救助しますか?それとも出発前の作戦通り緊急用ハッチから……。』
「機動班!待機だ!!!」
突然の命令に動揺している様子が伝わる。
「ライからの通信が入った。」




