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宇宙警察SPACE軍【レイ編】  作者: 甘納豆
17/44

15.

「おにいちゃん!おにいちゃん!」

遠くから呼ぶ声が聞こえる。

「わたし、おにいちゃんのおめめすき!」

こんなに気持ち悪いのに?

「そんなことないよ!あかくて、透き通っていて、とってもきれいだから好き!」

そんなことを言ってくれるのはお前だけだよ。

「おにいちゃん!たすけて!」

おにいちゃんは助けられない。

「嫌だ!おにいちゃんの!おにいちゃんのはだめっ!!!!」

おにいちゃんの何がダメなんだ?

「た、すけて。」

待ってて、今お父さんを呼んでくるから。

「お父さんはもういないの。」

じゃあ、お母さんを!

「お母さんもいない。」

「あかりっ!!!!!」

自分の声で目が覚めた。

夢を見ていたようだ。昔の記憶の夢を。

ふと、横を見やると灰皿の上の緑の棒は燃え尽きていた。

線香という名前だったと思う。

「なんで今更こんな夢を……?」

灰皿の中の燃えカスを水道で流し、元の場所へ戻す。

写真の中の少女がこちらを見て微笑んでいる。目が合うと気まずくなり写真立てを机に伏せた。

「さて、どれくらい第三部隊に近付いたかな。」

壁に掛けていた作業着に腕を通しコントロールセンターに向かった。

「隊長、お疲れ様です。」

コントロールセンターでは三人の隊員と艦長が作業していた。

「あとどれくらいで着きそう?」

先ほどと微塵も変わらない姿勢で座る艦長に話しかける。

「うーん、あと8時間くらいかな。」

「わかった。ありがとう。」

そのまま彼女の横に立つ。

「そういやジューダスはどこに行ったんだ?」

「あいつなら、祈祷室だと思うよ。」

「そうか、ありがとう。」

日に何度も祈りを捧げる彼の為に祈祷室を作ったのだが、活用してくれているようでよかった。

邪魔にならないよう、部屋から出てきたら呼び出そうと思った時だった。

「呼びましたか、隊長。」

「うわぁ?!ジューダス!びっくりした……。」

突然背後から声をかけられ、驚きのあまり飛び上がってしまった。

俺を覗きこむ彼の眼は何を考えているのかわからなく、自然と緊張から背筋が伸びてしまう。そして、この世界に僕と彼しかいないかのように、他の音が全く聞こえなくなる。

「お祈りの時間じゃなかったの?」

「もう済みました。何か用ですか。」

相変わらず表情の変化を読み取ることは出来ない。若干苛立っているような気もするがそうでないような気もする。

「小回りの利く二人乗り小型船の整備と、武器庫の確認を5時間以内にしておいてくれないか。」

「わかりました。」

ターバン風の帽子をかぶり直しジューダスは颯爽とコントロールセンターを出て行った。

「ふぅ……。」

ジューダスが出ていってから、息を吹き返したかのように周りの音が戻ってきた。

何故か、彼の前では油断出来ないのだ。いつも、隙を狙われている気がする。

「隊長、第三部隊から通話です。」

隊員が振り返りこちらに伝える。

「僕の携帯端末で受け取るよ。ありがとう。」

コントロールセンターの大きなモニターに映すこともできるのだが、その必要もないし腕に巻いた携帯端末を操作して応答する。

しかし、この通話開始のマークはずいぶんといびつな形をしているな。

「はい。第二部隊隊長ウェッターです。」

『よう、レイ。』

「会議用の回線は開いたままにしてあるはずだけど、個人通話で何の用だ?」

不信感マックスである。

『さっき、不明船について、ライたちから報告があった。』

「続報で?」

『そうだ。こちらも、時間がなくて急いでいるから、報告内容は限られている。だが、とても重要な発見をしたんだ。』

「なぜその発見を会議用の通信で報告しないんだ?」

『まあ、落ち着けって。』

ロイが言葉を止めると、ぱりぱりと乾いた音が聞こえる。きっと好物の煮干しを食べているのだろう。

その様子から察するに、落ち着かなくてはいけないのはロイ自身だとうかがえる。

『後でルイと本部隊には報告するけど、まずお前に知らせておこうと思って。』

「僕に知らされたところで……どうしろと。」

一体彼が何を伝えたいのかわからない。まどろっこしいその言い方は奴らしくなかった。

『ところで、今お前ひとりか?』

「いや、コントロールセンターにいる。」

聴かれてはまずい話なのだろう。仕方なく、自室へ行くことにした。

『どこか人のいないところで聞いてほしい。』

「今移動中だ。」

『さっすが~。』

おちょくった物言いをした後、暫くはロイの租借音がかすかに聞こえるだけになった。

携帯端末をかざして扉を開ける。

「自分の部屋に来た。続きを聞かせてくれ。」

背後で扉が閉まる音がした。

数秒の間をおいてロイが話し始める。

『心の準備だけしておいてくれよ。』

はやく。

『あの船に日本人が乗船していた。』

ロイから告げられた内容は俺の何かを強く揺さぶったが、一体それが何であるのかはわからない。

「……。俺には関係のないこと。」

驚いたような口調でロイが再び俺をからかう。

『おっ?もっと取り乱すかと思ったけど、そうでもないんだ。』

「それだけの用だったら切るよ。」

付き合いきれない。

ロイの返事を待たずに終話ボタンを押す。

悪趣味な奴だ。

俺と日本はもう関係ない。養父の彼に助けられてから俺はドイツ国籍の人間だ。



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