14.
『この食器はフランスのメーカーのものですね。』
「これはドイツ……茶器もありますね。すみません、副隊長。何も見つからなくて。」
ダイニングは生活を表すと言ったが、この船は例外だったかもしれない。世界各国の食器に、統一性のない家具。ナビルグ副隊長と私は何の手がかりも得られずにいた。
『気にしないでください。雑多だということも大切な情報です。』
副隊長に気を遣わせてしまい反省する。
これ以上近くにいると、また迷惑をかけそうなので他に何かないかとあたりを見回した。
そこで壁に掛かった大きな柱時計をみつけた。
ずいぶん古いものだろう。周期的に動いている時計の振り子がちらちらとヘッドライトの光を反射する。
近づいてみると柱時計の横の壁に傷があるのに気づいた。
「副隊長、時計の横に何かあります。」
二人で恐る恐る更に近づく。
床から1メートル前後のあたりに何本も横線が引かれていた。その横には何やら数字が。
『なんですかね、これ。意味深長ですけれども。』
ナビルグ副隊長は壁の傷よりも柱時計が気になるようで、扉を開け中をのぞきこもうとしていた。
「副隊長?何かありましたか?」
『ソニヤさん。あなたがどれくらい機械について詳しいか存じ上げないのですが、』
そう前置きして、副隊長が時計を凝視したまま話し出した。
『永久機関が現在の物理法則では実現しないことはご存知だと思います。で、この時計なんですけれど・・・』
副隊長の手招きに誘われ、一緒に時計をのぞき込む。
『この穴は歯車を回すためにぜんまいを巻くためのものです。』
「えっ!電気で動いてないんですか?!」
そこで慌ててヘルメットに時計を表示する。
宇宙時刻と呼ばれる標準時間をを日ごろ使っているのだが、その時間と柱時計は全く異なる時刻を示していた。
『時間はでたらめなのか、それとも地球時刻に合わせているのかわかりませんが、こういった時計は月に一回ぜんまいを巻かなくてはいけないと聞きます。そうしないと、止まってしまうからです。今現在こうして動いているということは、最近ぜんまいを巻いた人がいる、つまりこの船に人がいるということになりますね。』
「そんなこと、あり得るんですか・・・?」
信じられなかった。というよりも、突拍子もない話で信じようにも理解できずにいた。
十年も寄港せずに、人間が生活するのは絶対に不可能だ。だが、人がいないのに時計が動くわけがない。
『このことは、第三部隊船に戻ってから考えましょう。今はできる限り情報を集めることです。』
その言葉にハッとして時計から離れた。
時計左端の壁の傷にまたも目が留まる。
もう一度目を凝らすと、一本一本の横線の横に日付と名前らしき文字が見て取れた。
こうなったら、思い当たるものは一つしかない。
「副隊長。この傷ですけれど、身長ではないかと。」
『身長?』
不思議そうに聞き返される。
「そうです。横線が頭頂部の位置、横の数字が日付でこの文字が名前でしょう。」
『その考えが正しいとしたら、子供の身長ということになりますね。』
「そうですね。あと、これでどこの国かわかりました。」
名前を指でなぞる。
『それは凄い!どこですか?』
「日本です。」




