12.
「隊長!副隊長から通信が入っています。音声のみです。繋ぎます。」
突如入った通信でコントロールセンターの沈黙は打ち破られた。
「もしもし〜ライ君?」
『こちら副隊長。目標の不審船発見。』
「目立った特徴とかある?」
『レーダーに感知されにくいようです。ただ、突然レーダーが感知し始めたのでこちら側の故障の可能性もあります。あとは、とにかく大きいです。』
「大きいのか……何かの拠点だったのか?」
自然と煮干しに手が伸びるが、止める者はいなかった。
『まだわかりませんが、第三部隊船の四倍はありそうなのでその可能性は大いにありえますね。』
「中に入れそうか?」
『タイプの古い緊急用ハッチを見つけました。もし、電気が生きていれば開くと思います。』
「よし、気をつけて入ってくれ。」
『わかりました。』
「三十分経ったら何が何でも帰ってこい。」
隊員を長時間危険に晒すことは出来ないが三十分ならなんとかなるだろう。
「あ、あと俺の渡した荷物はテキトーな所に置いていってくれ。」
もし、生存者がいた時に役に立つはずだからとは言わず通話を終えた。
「さて、俺はルイとレイと話してくるからコントロールセンターは艦長に任せるよ。」
艦長は任せとけとロイに笑うとコックピットに座った。
「(さてさて、面白くなってきたぞ。)」
*
予想よりもはるかに大きな船で驚く。
「随分ずんぐりした船ですね……相当古そうです。」
ボイスレコーダーと宇宙服に内蔵されているカメラを起動した。
「これから、不明船に第三部隊副隊長及びB隊員突入します。」
不明船の緊急用ハッチに救難信号を発信する。
すると、石のように固く動かなかった船がそっと扉を開いた。
「入ります。」
小型船が格納されるとハッチは再び閉まった。
「動力はつけたままにしておきましょう。いざという時のためです。」
『わかりました。』
「あと、必ず武器は携帯してください。ですが、不用意に使用することのないように。」
ヘルメット越しに神妙な面持ちで頷くソニヤさんを確認した。
「離れてしまっては大変なので必ず一緒に行動してください。それでは行きますよ。」
小型船を近くの柱にワイヤーで固定した後、そっと扉を開く。重力発生装置は作動していないようで、ふわふわと様々なものが浮いている。
視界が利かないため、赤外線モニタをヘルメット内ディスプレイにリアルタイム表示する。
「生体反応なし、奥に進みます。」
緊急用ハッチに使われている部品から年代や国籍がわかるのではないかと思ったが、目に見える文字はすべて削り取られるか焼き消されていた。
上の階に続いているのであろうらせん階段まで泳ぐように進む。
階段の終わりには扉が見えた。
なぜか煤けていて触るのがためらわれた。
仕方なく、扉を押したところ煤は簡単に取れ、何かの文字が顔を見せた。
「ソニヤさん。何か書いてありますので見てください。」
『扉に直接彫られているなんて珍しいですね。えーっと……。』
顔を近づけるソニヤさんはしばらくすると首を横に振った。
『申し訳ありません、副隊長。あまりにかすかな文字ですので何と書いてあるかは判別できませんでした。』
「何語かわかりますか?」
『いいえ。言葉というより、子供の落書きみたいなものだと思われるので申し訳ありませんが見当もつかないです。』
「ありがとうございます。ここに子供がいたかもしれないと分かっただけ順調ですよ。」
扉は引き戸だった。取っ手を掴み壁を足場に引き開ける。
運よく鍵はかかっておらず、長い廊下が現れた。
白で統一された空間だったのだろう。ところどころ煤けていたり、シミが浮き出ているが今なお清潔感を保っている。
「これほど大きな船です。コントロールセンターはもちろん、会議室や資料室なんかもあるかもしれません。この船が何なのかを優先的に調べましょう。」
『了解。』
「では、まずコントロールセンターに向かいましょう。緊急用ハッチとは反対側の上層階にあるのが普通ですから場所のめどはつきますね。」
とりあえず、廊下の突き当りまで進んでみる。
無重力の中を自力で進むのは骨が折れるので、宇宙服についているボタンの中の一つを押し手首のレバーを少しだけ引いた。
ごくわずかな量の空気が手の甲から噴出され、推進力を得る。
『私、それ苦手なんですよね……。』
無線越しにぼそっと聞こえたソニヤさんの声に、後ろを振り返ると、回転してしまい推力を得られていない彼女がいた。
「大丈夫ですか。手伝いますよ。」
お互いの腰にロープを取り付け、私がソニヤさんを牽引する。
『すみません……。ありがとうございます。』
「どうってことありません。ところで、何か見つけましたか?」
『いいえ、部屋の表札もすべてはぎとられています。一体何があったのでしょうか……。』
じきに廊下の終わりについた。
「ここからコントロールセンターに入れそうにはないですね。」
堅牢そうな扉を前にため息が出る。
『引き返しますか?』
「そうですね。階段まで引き返して一つ上の階へ向かいましょう。」
先ほどよりも出力を大きめにして一気に廊下の始まりへ戻る。
『上の階に行くのにまた扉がありますね。なんだか、無駄に厳重じゃないですか?』
私も先ほどから同じようなことを思っていた。
しかし、ほとんどの扉はロックされておらず、簡単に開くのである。
上の階へつながるこの扉も同じだった。扉の先にはまた同じような廊下が続いている。
『副隊長!!止まってください!』
突然の声に慌てて停止し、牽引しているソニヤさんを手繰り寄せる。
「どうしましたか?」
『たいしたことではないのですが、ダイニングです。様子を見ていきましょう。』
「構いませんが、どうしてですか?」
『ダイニングは一番その人たちの生活が現れると考えています。何かしらの手がかりがあるはずです。』
「なるほど、では見ていきましょう。」
ヘッドライトをつけ、中へ入った。




