11.
「ゼラル隊長。」
ライたちからの報告を待っている第三部隊のコントロールセンターの中、顔色の優れない隊員がロイに話しかけた。
「どうした?体調が悪いのか?」
「いえ・・・。その、・・・。」
言いよどむ隊員にロイは首をかしげる。
「じゃあ、なんだ?腹でも減ったか?」
ほら、と抱えていた煮干しを隊員の口元に押し付けてやる。
「それです。とても臭うので控えていただけると・・・。」
ロイは目をぱちくりさせた。
「煮干しって臭うのか・・・。それはすまなかった。」
食べ残した煮干しの袋を固く結んでポケットに入れ、空気清浄機を最大出力で稼働させた。
「ありがとうございます。」
話しかけてきた隊員は心なしか顔色がよくなり、持ち場へと戻っていった。
「さて、ライ君たちが出発してそろそろ1時間が経とうとしているけれど、報告はないし俺寝てていい?」
「「だめです。」」
副隊長がいつもは隊長のお守りをしてくれているのだが、それが不在になると、隊員全員でその役割を担わなくてはならない。
気まぐれな猫のようで、すぐどこかへ行ってしまう隊長をコントロールセンターに何としてでもつなぎとめておかなくては。
「ライ君がいなくても抜け目なくて嫌になっちゃうねえ、まったく。」
何やらぶつぶつと文句を言っているが、あくまでも通常の、ごく普通の任務をこなしているだけなので誰からの同情も得られない。
やがておとなしくなったロイは、会議の前に受信した資料をぱらぱらとめくり始めた。
「中に人間がいるんだよな……。」
つぶやいた声は地獄耳の艦長に聞かれることもなく消えていった。
この宇宙空間をただ漂っていたのであれば今までどこのレーダーにも映らず、事故も起こさずといったことはとても不自然だ。
まったくないわけではないだろうが、まずありえない。
となると、中で誰かが操縦しているわけだが一体、誰が?
十年も港に寄らず航行するのは不可能だ。食料は栽培できたにしろ、水がすぐになくなってしまう。
なぜ、今になってその姿を現したのだろうか。
更に、なぜ合同作戦なのか。
偵察の結果を見てからそう判断されるならわかるが、最初からそう指示されたとなると疑惑が生まれる。
本部は何か企んでいるんじゃないか?
……考えても仕方がない。報告をとにかく待つしかないな。
それからしばらくの間とても長く感じられる沈黙がコントロールセンターを支配した。
とある隊員は隊長が寝ているのを目撃したらしいが、静かならそれでよいだろう。
*
代り映えのしない景色を眺めること二時間、会話もなくなってしまった。
ごく一瞬、レーダーが船らしきものをとらえたことが何度かあったがそれきりで、肉眼では何も確認できなかった。
心が折れかけたその時だった。
ピ……ピ……ピ……ピピピ……
断続的にレーダーが反応した。
すぐさま、その方向に船首を向ける。
『距離は50Kmです。』
前面のモニターを望遠レンズからのものに切り替える。可視光以外の光線もモニターに表示させることができる。
「何も、見えない?!」
倍率を変えてみたが同じだった。
『レーダーの故障ですかね。』
そう考えるのも当然だが、今までにない手ごたえに躍起になっていた。
「超音波が使えないのが悔しいな……。」
レーダーからの警告音が一層大きく連続的になった。目標物に接近した時の警告だ。
「停止します!掴まって!」
右手で力いっぱい逆噴射のレバーを引く。圧縮されたガスが勢い良く噴出されるのが見えた。
『副隊長!!目の前に!』
急停止の後、一息つく間もなくソニヤさんの声で意識を前方に向けられる。
「……これは……。」
今まで何も見えなかった空間に不明船は
その巨大な体躯を現したのだった。




