8.
ソニヤさんが宇宙服を着こんでいる間、僕は機体の横で携行品のチェックをしていた。
整備班がいくら入念に確認作業をしていたとしても、万一の時困るのは自分だ。
「副隊長!異常ありません。オールグリーンです。」
つなぎを着た隊員が歩み寄り、報告をくれる。自分も確認作業が終わったので親指を立てて頷く。ちなみに、機体周りで走るのはご法度である。
「ありがとうございます。」
滑らかな曲線を描く機体を見上げる。UFOを思い描いていた昔の人がこの機体を見たら腰を抜かすんじゃないだろうか。
二人乗りの偵察機は、戦闘機とは違い横に並んで座れるのが大きな特徴であり、広い窓からは余すことなく周囲の様子を見ることができる。
「ソニヤさん、先に乗ってください。操縦席には私が座ります。」
「わかりました。ですが、私も運転できますのでいつでも交代していただいて構いませんよ。」
「ありがとうございます。それでは疲れたときにはお願いしますね。」
ソニヤさんが小型船に乗り込むのを見届けてから、自分も乗ろうと反対側に回り込む。
「ライ。」
なぜか、隊長がそこに立っていた。
「隊長、コントロールセンターはどうされたんです?」
「そんなことより、これをもって行ってくれ。」
何かでパンパンに膨らんだ鞄を押し付けてきた。
「これは・・・?」
「偵察用の発信機だ。できれば船内において来てほしい。」
発信機の割にはずっしりと重かったが隊長が意味もなくそんなことをするとは思えないので、素直に受け取っておく。ちゃぷん、と水の音がした。
「じゃあ、ライ君頼んだよ~。ソニヤも気を付けてね~。」
『ありがとうございます。』
船内の音声が外部スピーカーから聞こえた。
続けて、ドック内のスピーカーが音を立てる。
『第一ドック出港準備完了しました。隊員全員が撤退し、合図があればハッチを開けます。』
「さあ、隊長。いい加減コントロールセンターに戻ってください。」
隊長の立ち去る姿を見送らずに自分も小型船に乗り込んだ。
「ドアロック完了。無重力状態になりますから機材は全て固定してくださいね。」
ちらりと横を見るとソニヤが親指を立てていた。
どうやら、既に完璧らしい。
「こちらライ・ナビルグ。準備完了しました。」
管制塔に通信を入れる。
『では、発着区画までゆっくりと前進してください。』
車輪用のブレーキから足を離すと、機体は
ゆっくり前進した。
長い、といっても30メートルだが、の滑走路に到達するとドックへ繋がる扉がゆっくりと重そうに閉まった。
数秒後、正面の宇宙空間へとつながる扉がこれまたゆっくりと開く。
「副隊長ライ・ナビルグ発進します。」
『こちらコントロールセンター。十分気を付けて行ってくれ。』
隊長の投げやりな出発許可が下り、動力機関を動かし始める。
「出発3秒前!」
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*
急加速にソニヤは一瞬気を失ったような気がした。
久しく地球には戻っていないから、こんなにもの加速度を受けたのは久しぶりだった。
『ソニヤさん!大丈夫ですか!!』
宇宙空間用のヘルメットに内蔵された無線機から隣で操縦桿を握るナビルグ副隊長の声が聞こえた。
「大丈夫です。久しぶりだったので体が追い付かなくて。」
『ならよかったです。首の骨でも折れたかと思いましたよ。』
そんな醜態を私は上司に見せたのか……。
恥ずかしくなり、小さな窓の外に視線を逃がす。
移住計画が立てられるも、あまりに荒廃した土地から手つかずのまま放置された天王星がすぐそばに見えた。
『ソニヤさん何かありましたか?』
あまりに地表を見つめすぎていたせいだろうか、ナビルグ副隊長に声をかけられてしまった。
「いえ、何もありません。」
『何か見つけたらすぐに言ってくださいね。』
「はい。」
『ところで、ソニヤさんは不明船の正体が一体何だと思います?』
「えっ。」
思いがけない問だった。
下っ端である私が上司にそんなことを聞かれるなんて。
『妄想の域を出なくても構いません。様々な国や地域に精通しているあなただからこその視点を取り入れたかっただけです。』
そう言われてやっと自分の責任の重さに気づいた。不用意なことは言えない。
「実物を見ないことにはわかりませんね。聞いただけでは判断できません。……すみません。」
『いえ、気にしないでください。さすがに何も見ずに正体がつかめてしまったら警察は要りませんよ。』
ふふっと無線機越しに笑うのが聞こえた。
「ナビルグ副隊長はどうお考えですか?」
『私、ですか。そうですね・・・。』
考え込んでいるのか、それとも操縦に気を取られているのか、しばらく返事はなかった。




