悪の章
「誰だ。あんた?」
ハイトは突然、部屋に乱入してきたミロードを睨む。
「初めまして。クソガキ。私はハイリアント・ミロード。私は何者かと申されますと。幼子を愛し『――――――――――――――――(検閲により閲覧不可)』する紳士です。そう! かの大魔法書・【ホロスコープ】を愛する愛の奴隷でございます」
恭しく頭を下げるミロード。
『―――――――っ! お主は!』
ハイトは、サインから動揺を感じる。
「あんたと、サインの関係は大体分かった。で、その変態ロリコンストーカーが何のようだ?」
ミロードにハイトは軽蔑の視線を向ける。
「うるさいですね。クソガキが……。まあいいでしょう。私の目的は二つ。一つ、愛しき【ホロスコープス】もこの手にすること。二つ、我が愛しき幼子を誑かしたクソガキを殺すことですかね?」
意図を理解してハイトは、ミロードに尋ねる。
「なるほどね。それで国王に毒でも仕込んだか?」
「ほぉ! よく分かりますね。クソガキのわりにはやりますね」
それを聞き、ハイトはライリアに言った。
「姫さん。国王の処置は終わった。こいつの目的は俺達だ。国王をよろしく頼む」
「へっ? ちょっと!」
ライリアの言葉を無視しつつ、ハイトはサインを魔法書にしたまま、ミロードが部屋に侵入してきた際に破壊した窓から、城の庭園に飛び出した。
その行動を見てミロードも後を追い、窓を飛び出す。
「おやおや、逃がしませんよ。フフフ」
庭園に降りてきたミロードが不適に笑う。
「ハハッ! 別に逃げねぇよ。広い場所で戦いたかっただけだ。これで気兼ねなく戦えるだろ?」
ハイトも不適に笑う。
「ホウ。クソガキにしては気が利きますね。いいでしょう。では、始めましょうか。『〝蠍〟よ、浸透し、その者を闇に飲め。蠍魔法・《スコーピオポイズン》』」
ミロードは懐から、魔法書を取り出し、開いて魔法を発動する。
すると背後から、甲殻を持った紫の巨大な蠍が現れる。
「いいぜ。俺もあんたに聞いてみたい事もあったしな。ここで倒す。行くぞ、サイン。〝獅子〟を使う」
『おう、コイツだけは殺すのじゃ!』
サインの意気揚揚と、魔法書を発動する。
「支配命令! 『〝天秤〟をもって、我が命ずる。〝獅子〟よ、我に従い、雷の獅子よ! 顕現し破壊せよ! 獅子魔法・《ライオネルブレイカー》!』」
発動するとハイトの背後に、巨大な雷の獅子が現れる。
「さあ、待っていてください。我が愛しの幼子よ。またあなたの十二の柵を壊して差し上げます!」
ミロードは蠍を前進させる。
「やってみろ! このロリコン!」
『死ね! 変態!』
それを雷の獅子が迎え撃つ。
蠍と獅子が激突する。二つの魔法が衝突し、衝撃波が生まれる。
蠍が少し、押し負けている。その光景を見て、仮面の奥でミロードは、笑みを浮かべていた。
今のミロードには別の目的があったからだ。しかし、その考えを改めさせられることになる。
次の獅子の一撃が入れば、蠍は壊れてしまいそうになるまで、弱ったところに予想外の出来事が起こったからだ。
なんと獅子の中から、ハイトが現れたのである。
「なっ!」
その行動にミロードは動揺を隠せない。
そして、ハイトは蠍に触れ、宣言する。
「支配命令! 『〝天秤〟をもって、我が命ずる。〝蠍〟よ、我に従え! 天秤魔法・《スケイルドミネイション》!』」
《スケイルドミネイション》を使用した事で、ミロードの手から、ハイトの手へ【ザ・スコルピオ】が移動する。
「一体何を!」
「俺の魔法、《スケイルドミネイション》は触れたものを、支配する。あんたは腰にぶら下げてる、魔法書を使わずに、【ザ・スコルピオ】を使ったから、違う目的があると思ったのさ。大方、あんたの目的は【ザ・スコルピオ】の破壊って所か? 十二星座魔書の破壊は、同じ十二星座魔書じゃなきゃ、出来ないからな」
ハイトがそう解説し、ミロードの目論見を看破する。