星の章
「始めるぞ。サイン」
「ふんっ! 小娘のためにやるのはシャクだが仕方ない!」
そう文句を言うと、サインの体が光り輝き、ハイトの手に収まる。ハイトの手には、黒に白の文様が入った一冊の魔法書があった。
「それは……一体?」
驚愕するライリアを無視しつつ、ハイトは手を動かし、魔法書を開く。
「行くぞ! 『〝天秤〟よ。我の重さを量れ! 天秤魔法・《スケイルドミネイション》!』」
ハイトがそう唱えると、ハイトの背後に巨大な天秤が現れる。
サインは元々、十二の星座に纏わる禁忌魔法を司る魔法書【ホロスコープ】だった。しかしとある事件で、十二の星座魔法は散り、それぞれ別の魔法書になってしまった。そして十二の星座魔法は十二星座魔書になった。それを俺は天秤座【ザ・リブラ】に頼まれ、サインを助け、十二星座魔書を集めることにしたのだ。
十二星座魔書は、魔法書に選ばれたものに、記載されている禁忌魔法を発言し、それを自在に扱えるようになる。
天秤魔法は、十二星座魔書【ザ・リブラ】に選ばれたハイトが発言した魔法である。一度触れた物、物、現象を天秤にかけ支配し、操ることが出来るのだ。
「サイン。水瓶を使う!」
『了解じゃ』
そんなサインの声が聞こえると、魔法書のページが勝手に捲れ、止まる。
「支配命令! 『〝天秤〟をもって、我が命ずる。〝水瓶〟よ、我に従い、国王の体を、病が発現する前に巻き戻せ! 水瓶魔法・《アクアリストレーション》!』
ハイトが魔法書に手を叩きつけ、すでに支配下にある水瓶座【ザ・アクエリアス】に命令する。すると、巨大な天秤が巨大な水瓶に変わり、水瓶に天秤の印が刻まれる。
次の瞬間、水瓶から水が溢れ、国王の体を覆う。
「な、何を!」
水に覆われている、国王の顔色が戻ってくる。
「落ち着いてください。水瓶魔法・《アクアリストレーション》は水瓶の水に触れたものはそのものを、有機物、無機物、問わずその状態を巻き戻す事ができるんです。つまり、今、国王の体を病が掛かる前に戻しているんですよ」
「な、なるほど」
国王の体を巻き戻していると、魔法書になっているサインが何かに気づく。
『ハイトよ、この病おかしいぞ』
「何?」
『いや、おかしくはない。結果をいうとこの症状は、病などではない。これは……〝毒〟じゃ。それも我がよ――く知っているものじゃ』
処置を終え、国王に纏わりついている水を、水瓶に回収する。
サインの言葉を聞き、はっとなるハイト。
「サインがそういうって事は」
『そうじゃ。十二星座魔書が一つ蠍座・【ザ・スコルピオ】の仕業じゃ』
そうサインが看破した瞬間、部屋の窓ガラスを割り、何者かが入ってくる。
「何者ですか!」
ライリアは、その不審者に怒鳴る。
しかし何者かはスクッと立ち上がり、ライリアの言葉を無視して手をバッと広げる。
「大正解です。そしてお久しぶりです。私の愛しの愛しの幼子よ!」
その男は黒の燕尾服に身を包み、微笑む黒の仮面をつけた変態、ミロードだった。