姫の章
「お忙しいところ、申し訳ありません。私はこの国の姫。ハルトキア・ライリアです」
姫と名乗ったライリアは二人に頭を下げる。
「俺はハイト。ハヤガネ・ハイト。魔法書売りをしていますで、こっちが」
「我はアストロ・サインという。サインで構わぬよ。近代のハルトキアの姫よ」
無い胸を張ってサインが威張る。
「あのぉ。こちらのお子さんは……」
おずおずとサインについて、ライリアが尋ねる。
「なっ! おこさんじゃとっ! 貴様ぁっ! 表へ出るの、へぶっ!」
ライリアの言葉に憤慨するサイン。しかしそんなサインにハイトは拳骨を落とす。
「すいません。こいつは助手みたいなものです。気にしないで下さい。サイン、お前は話が進まないから黙ってろ。で、この国の姫様がなんの御用です?」
サインを黙らせ、ライリアと話を進めるハイト。そうするとライリアは目に涙を溜めて言った。
「ハイト様には父上を助けて頂きたいのです!」
この頼みが今回の騒動を起こすきっかけになる事を、まだ誰も知らない。
【ⅩⅡ】
「さて、姫が動き出しましたか、しかし一介の魔法書売りに私の呪いが解けるとも思いませんが?」
ライリアの動向を伺っていたミロードは、そんな独り言を呟く。
「むっ! あれは! あの幼子はっ!」
姫を追うと、ある宿屋から、サインが出てきた、そしてそこには姫ともう一人、若い少年がいた。
「なっなっなっ! 何者ですかっ! あの小僧はっ! はっ! まさか! いやそんなはずある訳無い。落ち着きなさいミロード。ここは焦らず、まず彼女を出会えた事を喜び、幼子を出迎える準備をしなくては!」
そうしてミロードは魔法書を開き、フフフフフと笑い、夜の闇に姿を消した。
【ⅩⅡ】
ライリアの用は大変なものだった。
どうやらライリアの父、つまりハルトキアの国王が、謎の病魔に侵されているそうだ。
あらゆる回復系の魔法書を使ったが、効果が無いのだという。
もちろん城にはあらゆる魔法書があるが、それでは太刀打ち出来なかったらしい。
そこであらゆる世界中を渡り歩く魔法書売りが、ハルトキアに来ている事を知ったライリアは、ハイトに藁にも縋る思いで助けを求めたのだ。
それを聞き、ハイトはある条件を出した。国王を助ける代わりに、この国の城にあるつい先日発見された、強力な魔法書を一冊譲り受ける事にしたのだ。
そして、ハイトとサインは国王の元へと向かった。
【ⅩⅡ】
「こちらです」
とある城の一室に案内されたハイトとサインは大きな呻き声を聞く。
「うぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!」
「父上っ!」
その呻き声を聞き、ライリアが部屋に飛び込んで入る。
「ううっ! ライか?」
国王が意識を戻しながら、ライリアの手を握り確かめる。
「そうです。父上! ライで御座います!」
「おお、ライか! 良くぞ、もどっゴホッゴホッ!」
その国王の状態を見たハイトは思った。
(こいつは相当ヤバそうだな。時間も無さそうだ)
そしてすぐ行動に移した。
「姫様。事はどうやら、一刻を争うようです。すいませんが、この部屋から、私とサイン、国王以外は部屋から出て行って頂けませんか?」
それを聞き、ライリアが反論する。
「何故ですか! 父上と寄り添い励ましていけないのですか?」
「出来れば遠慮願いたいのですが……」
「この子供は良くて、私が駄目な理由をお聞かせ願いたい!」
「なんじゃと!」
サインは騒ぎ、しかしそれを無視する、ライリアの引く気が無い迫力に、ハイトはため息を吐く。
「仕方ないですね。その変わり、他の方は下げてください。それから、私がこれから行う行為については他言無用です。いいですね?」
その言葉を聞き、ライリアは従者達を下げさせて、扉を閉めた。
それを確認するとハイトはサインに告げた。