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駿足の冒険者  作者: はるあき
3章 周回速度の冒険者
92/123

088 ラース王国の宝物庫

今回は少し短めです。

明日も投稿します。


「この扉の奥が宝物庫だ。中には危ない物も置いてあるから、無闇に触らないようにしてくれ」


 俺たちを案内してくれていたシュタインが、黒い扉の前で立ち止まってそう言った。


「オーケー!ようやくお宝が見れるってわけだな・・・」


 俺は疲れを飛ばそうと、大きい声で返事をした。

 おかげでテンションは上がってきたが、やはり疲れはまだ取れない。



 なぜ、俺がこんなに疲れているのかと言うと、ついさっきまで国王や王妃との食事会に参加していたからだ。

 食事会の会場には豪華な料理が所狭しと並んでいて、間違いなく美味しいものだったんだろう・・・国王を前にしてガチガチに緊張してたせいで、味なんて殆どわからなかったが。

 なにせ、こちとら食事のマナーから言葉遣いまで、不安だらけなのだ。

 王族はおろか、貴族とすらまともに会話したこと無いからな。(シュタインは除く)


 だが、食事会はまだ良かった。

 国王が話すことを適当に肯定しつつ、相づちを打っておけばよかったからだ。

 一番疲れたのは、食事会の後にあった兵士や魔術師の合同訓練見学会だ。

 訓練の内容としては、数百人の兵士と魔術師が、鍛え抜いた剣技や魔法を披露し、さらに2チームに別れて模擬戦をするというものだった。間近で見る魔法や剣の衝突は大迫力で、それ自体は見ていて面白かった。

 

 問題は、この訓練を見学している間、なぜか国王が俺に意見や感想を求めてきたことだ。

 国王と話す時、俺はシュタインのアドバイス通りに肯定するか相槌を打つかくらいしかしていなかった。

 しかし、感想や意見を求められてしまっては、言葉を選んで話をする必要がある。そして、俺の語彙力では国王と話をするのは不可能に近い。

 と、いうことでチャーリーに話を振ったり、適当に「これはなかなか」とか「ほう、やりますな」といった自分でも何言ってるか分からん様なリアクションを取ることで、神経をすり減らしながら乗りきったのだ。


 そんな疲れるイベントをこなして、ついに今、宝物庫の前までたどり着いたのだ。

 ちなみに、宝物庫の案内役はシュタインだ。中にある魔法具が強力すぎてシュタインか王宮魔術師にしか扱えないため、案内もこの二人にしか出来ないらしい。王宮魔術師は合同訓練に参加していたため、シュタインに白羽の矢が立ったというわけだ。


「宝物庫に来るまで、疲れることの連続だったぜ・・」


 俺はこれまでのことを思い出して、ついつい大きなため息をつきながらそんな言葉をはいた。


「うむ・・というか、隣で見ていた俺も疲れたぞ。謁見の間では、陛下を肯定することに意識を取られすぎて、事実とは異なることを言っていたし。陛下が合同訓練を見せながらはじめを勧誘していたのに、それに気づかず謎のつぶやきでお茶を濁すし」


「え!?あれ勧誘されてたの?」


 全然そんな風には見えなかったぞ?あの兵士たちの剣術はどうだとか、攻撃魔法の練度についてどう思うとか、そんなふわっとした事しか聞かれなかったし。


「陛下ははじめの事を魔王を倒せるくらい強力な大魔法使いと思っているから、あまり直接的に誘えなかったんだろう。一般的に、魔術を極めすぎた魔法使いは権力を嫌う傾向にあるからな」


「なるほど」


 そんな事情があったのか。

 国王なのに、やたらと気を遣っているなとは思ったが。


「はじめのポカはさておき、疲れたのは確かやな。国王と会話するん、想像の五倍くらいのストレスやったわ」


 そう言って深いため息を吐くチャーリー。

 彼女も国王との会話で色々と消耗したようだ。まぁ俺が困った時、チャーリーに話を振ったせいなんだが。


「悪かったなチャーリー。答えに詰まった時、ついつい話を振ってしまって」


 俺がそう言うと、チャーリーは上目遣いにこちらをジトッと見てきて、


「ほんまやで!私も国王に意見するん神経使って疲れてもうたし、国王も国王で幼女に訓練に対する意見言われて、困惑しとったやないか」


 そんな文句を言ってきた。

 うん、そう言えばチャーリーの見た目、ただの幼女だもんな。そりゃ国王も困惑するか。頼りがいが半端じゃないから、ついついまだ小さい女の子(に見える)ってことを忘れちまうんだよな。


「まあ、ええけどな。それもこれも、今から手にするお宝のためやったと思えば、苦にもならんわ!」


 気持ちを切り替えたのか、握りこぶしを作って満面の笑みで言い放つチャーリー。


「そうね!どんな高価な、いや、素晴らしい魔法具があるのかしら?」


 マリーがチャーリーに続き、両手を祈るように組んで目を輝かせながらそう言った。


 いやいや。

 二人共、お宝好きすぎでしょ。

 やはり冒険者たるもの、こういう時こそクールにいかないと。


「おいはじめ、ワクワクするのは分かるが、貧乏ゆすりを止めろ。気が散る」


「おっとすまん」


 シュタインに怒られてしまったぜ!

 ・・・

 まぁ、お宝って聞くとテンション上がるよね。



 そんなやり取りをしていると、シュタインが黒い扉に手をかざしてブツブツと何かを唱え始めた。

 どうやら、魔法で扉の鍵を解除しているらしい。


 しばらく詠唱をしていたシュタインだったが、10秒ほどで唱えるのをやめた。するとその後すぐに、【カチャッ】という音が聞こえてきた。


「よし、開いたぞ。さっきも言ったが、中の物は無闇に触るなよ」


 シュタインが無事に解錠に成功したようだ。

 いよいよ宝物庫の中に入れる!


【キィ】


 普段あまり開かないからだろうか、黒い扉が開くときに軋んだような音がした。

 そして、その開いた扉の先にはキラキラと輝く大きな金塊の山があった。


「おおお!・・え、金塊?」


 魔道具じゃなくて金塊の山があるぞ。

 どういうことだ?


「キャー、素敵!こんなに沢山の金塊見たの初めてだわ!」


 困惑する俺の横では、マリーがすごい嬉しそうな声で叫んでいる。


 いや、金塊もいいけど魔道具はどこ?

 俺の空飛ぶ魔道具は?


「落ち着け二人共。この部屋はラース王国の緊急時の資金を保管してある場所だ。魔道具は奥の部屋にある」


 俺たちのリアクションを見て、シュタインが呆れたように教えてくれた。


 なるほど、魔道具は違う部屋にあるのか。

 金塊を見て思わずテンションが上ってしまったが、俺がほしいのは金ではない。空を飛べる魔道具だ。

 金なら喫茶店経営で十分稼げるしな。


「魔道具の部屋はこっちだ。ついてこい」


 指示されたとおり、シュタインの後について行く俺たち。

 シュタインが歩いているのは金塊の山の隙間の獣道のようなところだ。・・金塊で出来た獣道ってすごい贅沢な気がする。


 部屋はかなり広かったらしく、三十秒ほど歩き回ってようやく次の扉の前に来た。

 こちらも黒く大きな扉である。


「管理者が望む、暁の守り人よ・・


 シュタインは扉の前で立ち止まると、再びブツブツと何かを唱え始めた。

 どうやらこの扉にもしっかりセキュリティがかかっているらしい。

 重要な物が入っているのは分かるが、なかなか面倒だな。ここまで頑丈に保管されてたら、火事が起こったときとか持って逃げるの大変じゃないか?


【カチッ】


 数秒ほど待つと、扉が開いた音がした。

 ようやく魔道具とのご対面か。


「よし、入るぞ」


 扉の解錠に成功したシュタインは、躊躇なくその扉を開いた。

 するとそこには、


「おお!すごいな」


「何やあれ!ペガサスか!?」


「あの首飾り、すごい綺麗!」


 ペガサスの形をした金色のゴーレムに、大きな魔石をつけた首飾り。

 豪華な魔道具が大量に並べられていた。


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