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駿足の冒険者  作者: はるあき
0章 プロローグ
9/123

008初心者講習会(実技編1)

11/25 誤字改定

 俺とマリーはギルド併設の居酒屋でお昼ごはんを食べた後、再び広場に戻ってきていた。

するとそこには、広場の中央に仁王立ちする2m超えで筋骨隆々の大男が居た。

 どうやらこの男がギルド長らしい。ギリシャ彫刻の様に彫りの深い顔をしており、銀色の少し縮れた髪を左右に流している。あと髭も銀色でモッサモサだ。


「俺がギルド長のゼウスだ!よろしく!」


 迫力のある声で怒鳴るように挨拶してきた。

 さすがギルド長だけあって、貫禄あるな。ギルド長は元Aランク冒険者だとの噂だし、おそらく実力も相当高いのだろう。


「「よろしくお願いします!!」」


 俺とマリーもつられて大声で挨拶した。


「おう!元気があるのは良いな。そっちの男の方はここ数日手紙の配達依頼を受けてくれたやつだな。おかげでギルド職員の仕事が減って助かった。感謝する!」


「そう言って頂けて嬉しいです!」


 ギルド調の迫力がありすぎて、思わず返す言葉が固くなってしまうな。


「そして、そっちの女はエリザベスの妹か!顔つきが似ておるわ!あいつは、今は王都で活動しているが、ランクが低い頃はこっちで仕事して、大活躍してくれたからな。お前にも期待している!」


「はい、ご期待に添える様に頑張ります」


 マリーもギルド長の迫力にビビっているのか、言葉が固くなっている。

 しかし、姉が褒められたことが嬉しいのか、顔つきは緩んでニヤついている。姉妹の仲は良いらしい。


 「さて、俺らがお前らに今日教えるのは3つある。一!魔法の使い方について。二!素材の剥ぎ取り方ついて。三!魔物や盗賊との戦い方についてだ」


 戦い方と素材の剥ぎ取り方を教えてくれるのは予想通りだが、魔法の使い方まで教えてくれるとは。ありがたいな。


「まずは、魔法についてだが、冒険者なら使えておいて損はねえ!冒険者になるやつは魔法教育を受けてる奴はほとんどいねぇから、この講習で教えている。しかし、お前はエリザベスの妹だからもう魔法は使えそうだな?」


 マリーに問いかけるギルド長。

 ギルド長の口ぶり的に、マリーのお姉さんは魔法が得意な冒険者だったのかな?


「はい、使えます。火魔法が得意です。」


 素直に答えるマリー。


「そうか、なら指導はいらねぇな。配達員の方はどうなんだ?」


 ギルド長が俺に問いかけてきた。

 いや、俺は別に配達員ってわけではないんだが。


「俺は使えません」


 ぜひこの機会に教えてもらいたい。


「そうか!じゃあ、今から教えてやろう。初心者が魔法を覚えるには、まずは魔力測定結晶で自分の魔力の質と量、あとは適正を診断する必要がある。」


 これがその結晶だ、と言って紫色のボウリング玉くらいのサイズの結晶玉を見せてくれるギルド長。

 そんな便利な物があるのか。


「ちなみにこの結晶は金貨100枚以上する高級品だ!ギルドではここと王都くらいにしかねぇ」


 めちゃめちゃ貴重品だ。

 ここと王都にしか無いってことは、初心者講習で魔法教えてくれるのはここと王都だけなのかな?

 だとすると運が良かったな。


「おい配達員、まずはこの結晶に触れてみろ。そうすると結晶の色の変化と光の量である程度のことが分かる」


「はい!」


 俺は素直に結晶に手を触れた。


 すると、紫色だった結晶が無色透明になり、徐々に澄んだ青色に変わって光った。そのまま手を置いていると、色と光の強度が安定するようになった。

 色はとても澄んでいて綺麗だ。海外リゾートの海の色みたい。

 しかし、光がめちゃくちゃ弱いな。日差しのせいもあるのかもしれないが、目を凝らさないと見えないレベルだ。


「ほう、とても澄んだ色をしている。魔力の質はかなり高いな!」


 そう言って驚いた表情をするギルド長。

 横を見ると、マリーも強く頷いている。

 もしかして、俺って魔法の才能あるのかな?そうだと嬉しい。

 異世界に来て魔法を使うのは、夢みたいなとこあるしな。


「青色ってことは水魔法に特化しているみたいだ・・・しかし、光がクソちっせぇな。魔法が苦手なリリーとかですら、これよりはあったぞ」


 そう言って、眉間にしわを寄せるギルド長。

 何やら流れが変わったな・・・光の大きさは何を意味してるんだろうか。そう考えていると、ギルド長が教えてくれた。


「光の大きさは、一度の魔法で使える魔力の大きさを表している。これが小さいと、どんだけMPがあっても小さい魔法しか実行できねえ」


 なん・・だと?

 つまり、俺はかなり弱い魔法しか使えないってことか。


「この光の大きさだと、生活魔法が限界だな」


「生活魔法?」


 聞こえからして、全然戦闘に使える感じがしないが。


「ああ。魔法には6つのランクがあってな。下から生活魔法、下級魔法、中級魔法、上級魔法、特級魔法、神級魔法とある。まあ一番上の神級魔法なんてここ数百年使えるやつが現れてねぇし、特級魔法はSランク冒険者でも2人しか使えないからな。実質下の4ランクしか気にしなくていい」


 なるほど、魔法にはそんなランク分けがあったのか。

 で、生活魔法は何ができるんだ?


「水の生活魔法だと、使える魔法は一つだけ。ウォーターボールだな」


 ちなみに、俺も水魔法の適性があるから使えるぞ、と言いながら何か呟いて手の平に直径10cmほどの水球を出したギルド長。

 おお、これがウォーターボール!

 でもこのサイズが出せるなら、そのまま敵の方に射出すれば目くらましくらいには使えそうだな!


「ちなみに、このウォーターボールは飛ばすことができん。せいぜい給水に使ったり、手を洗ったりする程度だな」


 ・・・なるほど。

 生活魔法って名が付くくらいだ、やっぱり戦闘には使えないのか。

 少し落ち込むな。


「だが初心者冒険者のうちは、任務に重たい水を持っていかなくて良いってのはかなり助かるぞ!Bランクにもなれば収納袋が買えるから、メリットはなくなるが」


 そう言って俺を励ましてくれるギルド長。見かけによらず優しい人だな。

 しかし、その励ましは逆効果だ。

 俺はもう既に収納袋を持っているからな。メリットゼロだと宣言されたに等しいぞ。


「というわけで使い方を教えてやろう。まあ生活魔法は詠唱の必要もないし簡単に覚えられるから、あまり教えることもないんだが」


 そう言って、俺の肩に手を置くギルド長。

 少しすると、体の中になにかもやもやしたものが巡っているのが分かる。

 おお、なんかくすぐったい感じだ。まさかこれが魔力ってやつか?


「いま体の中を駆け巡っている何かがあるだろう?これが魔力だ!これを手のひらに集めてウォーターボールと唱えてみろ」


 ギルド長が俺の肩から手を離してそう言ったので、俺はもやもやする感覚を手の先の方に集めた。

 そして唱えた。


「ウォーターボール!」


 すると、手のひらには10cm大の水球が浮かんでいた。

 おお!これが魔法か!

 大したことがない魔法だとわかっていても、実際に自分の手でこれを生み出したのかと思うと、感動するな!

 飲み水に使うって言ってたけど、味の方はどうなんだろう?

 気になった俺は、水球に口を近づけて飲んでみる。


「うまっ!」


 え、魔法で出した水ってこんなに美味しいの?

 口当たりが柔らかい水で、ほのかに甘みすら感じる。あと喉越しもマイルドで最高にうまいぞ。

 宿とかで飲む水とはレベルの違う美味しさなんだが。


「ほう、まあ結晶で見た感じ、魔力の質は高いみたいだったからな。味がうまくなっているのかもしれん」


 なるほど、同じ魔法でも魔力の質が高いかどうかで、魔法の威力(って言っていいのか?)が変わってくるのかね。


「私にも飲ませて」


 横からマリーが目をキラキラさせてお願いしてきた。

 俺は頷いて、マリーの方に水球を差し出した。


「なにこれ、美味しい!!」


 そう言って、驚くマリー。やっぱこれ美味しいよね?

 俺が自分の味覚が正しかったことに安堵していると、マリーがごくごく水を飲んで、水球を飲み干してしまった。


「そんなに美味いのか。なあ配達員、俺にもくれないか?ウォーターボールなら消費MP2くらいだから、まだ余裕で出せるはずだ」


 俺達の反応に興味を持ったのか、ギルド長まで頼んできた。


「良いですよ。ウォーターボール!」


 俺は快諾して、ウォーターボールを出してギルド長の方に差し出す。

 すると、ギルド長は俺の手に口を近づけてひと飲みした。

 そして目を見開いて、ごくごくと水を飲み始め、マリーと同じく水を飲み干してしまった。


「本当にうまいな!俺のより数倍うまいぞ」


 そう言って褒めてくれるギルド長。

 どうやらギルド長は褒めて伸ばしてくれるタイプのようだ。


「まあ、戦闘には使えないから、冒険者としては意味ないんだが」


 ・・・上げて落とすタイプだったか。


「しかし、任務中の水分補給では便利だからな。錆びつかないように定期的に使うようにしろ!」


 そう言いながら、ギルド長は持っていた魔力測定用の水晶をカバンにしまった。

 どうやら魔法の講習はこれで終わりらしい。


 ギルド長は次に魔物(俺を追いかけてきた狼よりも一回り小さい狼だった)を持ってきて解体の仕方を教えてくれた。実際に魔物を解体しながら教えてもらうことで、上手にナイフを使って力を入れずに皮を剥ぎ取る方法など身につけることが出来た。

 魔物によって価値のある部位がかなり違うらしく、例えば狼とかの毛並みの良い魔物は皮が人気で、オークなんかの油の乗った魔物は肉に価値があるらしい。

 そのあたりは依頼をこなして覚えろと言われたので、あまり詳しくは聞けなかったが。


「よしっ、次は魔物や盗賊との戦い方についてだ!と言ってもこれは使う武器から戦い方に至るまで向き不向きがありすぎて、一概にこれが良いとは教えることができん!」


 なるほど、たしかにそうだ。

 ゴリアから飲み会の時に聞いた話だが、冒険者には色んな武器を使う人がいて、片手剣から大剣・弓・鎖鎌など数十種類にも及ぶ。

 全ての武器の使い方をギルド長が教えるのは無理だろう。


「というわけで、ここは実戦形式で教えることにする。ちなみに並行して試験もやるぞ!ルールは簡単で、日が暮れるまでに俺に一回でも攻撃を食らわせることができれば合格だ!」


 急に教え方が雑になったな。

 まあ戦い方って言っても千差万別だ。実戦に勝るものなしなのかもしれない。


「ちなみに俺は右手しか使わんし木刀で戦うが、お前らは普通に武器や魔法を使って構わんからな。じゃあ、まずは配達員!お前からだ!」


「はいっ」


 トップバッターに指名されたので、片手剣を片手に広場の真ん中まで歩き、ギルド長と向かい合って対峙した。

 こうして向かい合ってみると、やはりすごい迫力だ。

 右手に軽く木刀を持っただけの構えに見えるが、全くスキがない。ギルド長に一発入れるってめちゃくちゃ難しいんじゃないか?


「それじゃ、試験開始!」


 考えている間に、試験がスタートしてしまった。


 俺も片手剣を構えて、10歩ほど離れた位置で対峙している。ギルド長はこっちに先手を譲ってくれているのか、攻撃はせず、木刀を構えているだけだ。

 しかしまずいな、普通に戦ったらどう攻撃したって防がれるイメージしか湧いてこない。

 ここは、速さを活かして奇襲するしかないな。

 そう思った俺は、片手剣を捨てて魔物剥ぎ取り用とは別の少し長めのナイフを構える。思いついた奇襲方法は一回しか使えないから、これが失敗すれば試験不合格がほぼ確実となるが、背に腹は変えられない。


 俺は加速距離を取るために、ギルド長と向かい合ったまま一歩二歩と距離を取っていく。

 ギルド長が怪訝そうな顔をしているが、なにかの作戦だと思っているのか、手出しはしてこないようだ。

 20歩ほど離れたところで、俺は後退するのをやめてナイフを構えて足に力を入れた。


 そして、思いっきり地面を蹴飛ばして全力で前に加速する!


 2秒ほどで100kmを超える速度になり、ギルド長の姿がぼやけて見えるようになった。何か動いている様子だが、俺の動体視力では捉えられん!


 俺は半ばヤケクソにギルド長に向けて右手でナイフを振るう。

 すると、木刀で受け止められたのか、何か硬いものに当たった感触がした。


 ここだ!


 俺はギルド長を抜き去る時に、左手でギルド長の腹を目掛けて拳を振るう!すると


「ピシィッ!」


 あたりに骨が割れるような音が響き渡る。


 俺は攻撃が入ったことを確信して、ギルド長を抜き去ってそのまま速度を落として止まった。

 そして


「いっってーーー!!!!!」


 俺は絶叫していた。

 左腕の拳が泣けるほど痛い。

 さっきの音と痛みから察するに、完全に骨がいっちゃってる。

 ギルド長の体どんだけ硬いんだよ!


「驚いた!リリーから聞いちゃいたが、お前本当に速いんだな!」


 ギルド長がそんなことを言って、木刀をしまって近づいてきた。

 いや、それは良いから、俺の左腕をどうにかしてくれ!

 大怪我だろこれ!入院か?


 俺が痛みに耐えながらそんなことを考えていると、ギルド長は腰に下げていた袋から緑色の液体が入った瓶を取り出して、中身を俺の左手にかけた。

 すると、徐々に痛みが引いていき、左手の拳からピシピシという音が聞こえてきた。どうやら骨が治ってきているようだ。


「普通は講習中の怪我だと、下級ポーションかけて放置なんだがな。面白いもの見せてくれたお礼に中級ポーションで完治させてやろう」


 そう言って、歯を見せて面白そうに笑った。


「ありがとうございます。それにしてもギルド長めちゃくちゃ体硬いですね」


 怪我の心配がある程度無くなったので(まだ若干の痛みはあるが)、俺は気になったことを聞いてみた。


「俺はLv60くらいでVITも相当に高いからな。VITが高い相手に貧弱なSTRで攻撃すると逆にダメージを受けるんだ」


 攻撃を跳ね返すってことか。もはや高レベル冒険者っていうのは化物だな。

 俺が思っていたより能力値やLvの恩恵ってのは大きいらしい。


「でも剣なんかの武器があれば、あたり所によっちゃ普通に切れるしダメージも通るから、お前みたいな戦い方をするんなら、幾つかナイフを忍ばしておくと良いと思うぞ」


 お、刃物とかは普通に通るのか。

 ならまだ戦いようがあるな。ナイフを隠せるローブでも買いに行くか。


「後は、それくらいのスピードが出るんなら、もう少し体でかくして体重乗せた武器で攻撃すれば、ダメージが通りやすいと思うぞ」


 なるほど、運動エネルギーを叩きつけるイメージだな。

 エネルギーは質量✕速さ(二乗)で決まってくるし、増量するのはありかもしれない。

 俺の場合は走り込んで速さ上げたほうが、上がり幅がデカイかもしれないが。


「しかしお前はアンバランスなやつだな。それくらいの俊敏性があるやつは、大体STRもそこそこあるもんだが」


 ギルド長が不思議そうな顔をしている。


「訳あって、俊敏性が異常に高いんですよ」


「まあ、冒険者にはユニークスキルとか色々あるからな。詳しくは聞かんさ」


 どうやらユニークスキルと勘違いしてくれているみたいだ。

 俺達がそんな話をしていると、少し離れたところで戦いを見学していたマリーがこちらに到着した。


「はじめ、出会ったときより速くなってない?」


 そう言って、首をかしげるマリー。


「配達員している間に俊敏性が上がったのかもしれん」


 最近ステータスカードを見てなかったし。後でチャックしてみよう。


「なんにせよ、はじめって言ったか。お前は実技試験合格だ!今日からFランク冒険者として認めよう」


 やったぜ!どうやら俺は試験をパスできたらしい。

 一発は入れられたが、ダメージは全然通ってないし不安だったんだが、合格になってよかった。


「ただ戦い方には粗が目立ったからな、エリザベスの妹の試験が終わったら少し指導をしてやろう」


 うん、戦いに関しては素人だからな。

 俺もこの機会に、攻撃の避け方とか色々教えてもらいたい。


「次!始めるぞ!」


 ギルド長はマリーに向かってそう言うと、広場の真ん中に向かって歩き始めた。


「行ってくるわ!私の活躍見ておきなさいよね!」


 マリーは俺にそう言うと、広場の中心に歩いていき、腰に挿していた杖(木製で先端には宝石のような石がついている)を構えた。


「では、試験開始!」


 お互いが向き合うと、ギルド長の掛け声でマリーの試験が始まった。

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