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駿足の冒険者  作者: はるあき
2章 魔速の冒険者
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083(閑話)出張・オールナイトファンタジスタ

閑話です。本筋にはほぼ影響しないので、読み飛ばしても話はつながります。


 (魔王討伐からしばらく時が経った頃の話)


 あれから色々あって、二週間ほど遅れてしまったがついにドートル爺さんの店での研修がスタートした。(本当に色々あった。詳しくは後述するがこれだけは言える、もう王宮には行きたくない)


 初日は、ドートル爺さんのオリジナルメニューであるドートルパイやドートルスープ等の作り方を教えてもらった。どちらも凄く美味しくて、ドートル爺さんの情熱や長年の研究が伝わってくるようだった。俺達の店でも出してもいいか聞くと、もちろんOKという返事をもらった。

 これでメニューが増えたぜ。


 二日目は逆に俺達の店のメニューをドートル爺さんに教えた。

 タッキーは既に作り方を知っているようだったので、俺が作ったメニューである(正確には地球の知識を使っただけで、俺が考案したわけではないが)サンドイッチ・ナポリタン・オムライスを教えた。

 ドートル爺さんは特にサンドイッチを気に入ったようで、「ぜひワシの店でも作らせてくれ」とお願いされた。ドートルパイなどのレシピを貰っていた俺達は、二つ返事でOKした。


 そして今は昼休憩ということで、俺の淹れたコーヒーを飲みながら休んでいるところだ。


「このコーヒーってやつはうめぇな。ガツンとくる苦味が最高じゃ」


 ドートル爺さんはそう言うと、コーヒーが入ったカップを机に置いた。

 どうやらドートル爺さんはコーヒーの味を気に入ってくれたようだ。流石ドートル爺さん、コーヒーの味がわかるとは。ベロアとエドウィンに継ぐ4人目のコーヒー愛好家だ。


「うーん、私にはやっぱり苦すぎるのよね」


 そう言いながら、コーヒーにミルクと砂糖を入れてカフェオレを作るマリー。

 マリーにはまだ受け入れられない味のようだ。まぁ日本でもコーヒーをブラックで飲む女の人は少ないからな。このあたりは味覚の性差だろう。


「この苦味が良いんじゃないか。しかも、コーヒーを飲むと目が冴えて筋肉が喜んでいる気がするんだ。薬としても効果あるんじゃないか?」


 そう言いながらコーヒーを飲むベロア。

 筋肉が喜ぶってのはワケが分からないが、目が冴えるのはカフェインの効果だろう。たしか、吸収率が違うから紅茶よりもコーヒーのほうが覚醒効果が高いと聞いたことがある。


「ドートル爺さんが飲んでいる黒い液体は何だ?」

「分からん。新メニューか?」


 俺達の向かいの席から、常連客がそんな話をしているのが聞こえる。やはり王都でもコーヒーは飲まれていないらしい。物珍しげにこちらを見ている。

 ちなみに、常連客のため店は閉められないという事で、研修中では有るが店は営業中だ。人手が足りないから、席の半分を封鎖してはいるが。


 さて、昼からはお互いの店の接客方法を教え合う予定だ。

 とは言っても、俺達の店は基本的な接客(日本基準)しかしていないし、そこまで教えることもなさそうだ。

 まぁドートル爺さんに、王都流の接客術でも学ぶとするかね。


【チャ〜、チャチャッチャ♪チャッチャチャチャン・チャッチャチャ♪チャッチャチャチャン・チャッチャチャ・チャチャッチャチャ・チャチャン・ドゥドゥンドゥンドゥン】


 俺が研修の事を考えていると、突如上からおなじみの音楽が流れ始めた。

 そうだった。ファンタジスタ支店独自の接客といえばラジオだよな。すっかり忘れていたぜ。

 ここにベロアやマリーが居ることを考えるに、どうやらチャーリー1人でやるつもりらしい。


「何じゃこの音楽は?」


 ドートル爺さんは突然の音楽に驚いたのか、キョロキョロと辺りを見回している。


「これは俺達の店でやってるサービスで、ラジオって言うものだ。まぁ面白い話や情報を提供する放送って感じだな」


 俺はドートル爺さんにラジオについてざっくりと説明した。

 まぁ詳しくは聞いてもらえば分かるだろう。


 しかし、チャーリー1人で大丈夫だろうか?ラジオって基本二人以上いないと成立しないイメージがあるが。


【あらためましてこんばんは!さぁついに王都までやってまいりました、オールナイトファンタジスタ!お相手はわたくしお笑い担当事務次官ことビリケン・チャーリーと】


【爽やか担当アリエッティのスマイル・ラッセルです】


 ラッセルが来ていたのか。

 いつの間に仲良くなってたんだ?あの二人。


【さて、いよいよ王都まで進出した当番組!記念すべき企画は、「街角・お悩み解決人」です】


 どうやら王都でもこの企画をやるらしい。

 若干マンネリ感はあるが、王都の人がどんな悩みを抱えているか気になるし、楽しみだな。


【この企画は、町中にいるレディ達のお悩みを聞いて、それを解決してあげようって企画さ】


 いつの間にか女限定になってる。

 100%ラッセルの好みだろう。


【じゃ、早速最初のお便りいくで。ラジオネーム:アイリスさん(23歳女性)からのお便りです。「はじめまして、今付き合っている彼の事で相談したくて手紙を書きました。私と彼は三年前から付き合っていて、そろそろお互いに結婚を意識し始めています。でも、彼には浮気グセがあり、このまま結婚して良いものか迷っています。どうすればいいでしょうか」】


 ほう、これはかなりシビアな悩みだな。

 でも恋愛についての話題なら、ラッセルにうってつけかもしれない。経験豊富だし。成功しているかどうかは別にして。


【なるほど、若いレディ特有の悩みだね】


【そうやろうか?年とっても同じ悩み持つ人はいそうな気もするんやけど】


【年をとると、経験を積んで感情が鈍くなるからね。浮気してても、お金稼いでいればいいやって思えてくるもんさ】


 ・・・そうなのか?

 年を取っても浮気されたら嫌な気がするが。こっちの世界では一般的な意見なんだろうか?

 周りを見渡してみると、常連客のみなさんも首をかしげている。どうやら、ラッセル独特の意見のようだ。

 ちなみにマリーは目を薄めて二階の方をにらみ続けている。怖い。


【さて、このお悩み。ラッセルならどう解決する?】


【簡単さ!浮気グセなんて気にしないで結婚すれば良いのさ】


 ・・アドバイスが適当すぎないか?


【男はどうせ浮気をするもの。そう考えたら、結婚前にそれが経験できてよかったじゃないか。結婚後に浮気を発見するより、ダメージが少ないと思うよ】


【そうやろうか?暴論の気もするんやけど】


 チャーリーも納得していないようだ。


【そもそも、お金さえあれば平民でも多くの妻を持てるようにするべきなんだよ。そうすれば、浮気なんてなくなる。現に貴族様はそうしているじゃないか】


【浮気は別として、その意見自体は一理あるな】


【レディ達は望んだ男と結ばれる、男も浮気せずに済むWin-Winの関係だね】


【まぁ金持ちやったらの話やけどな。ちなみにラッセルは今4人の彼女がいるそうやけど、全員養えるだけの稼ぎはあるんか?】


 そう言えば、ラッセルは絶賛4股中だったな。


【それは当然!・・・と言いたいところだけど、実は最近店が潰れてね】


【え!?】


 マジか!?


【魔王出現に合わせて王国軍から大量の注文が入ったんだけど、それをさばききれなかったのさ。罰として、店は取り潰されてしまった】


【それはご愁傷さまやな。それじゃ、今はどうやって暮らしているんや?】


【今は交際しているレディ達のところを渡り歩いているよ。借りぐらしってやつだね】


【そうなんや・・でも、稼ぎがないから食費とかも払われへんやろ?ついにアリエッティからほんまもんのヒモになってしまったんか?】


【いや、お金はちゃんとレディ達に渡してるよ。2日に1度、日雇いの仕事をしてね。そう、僕はその日暮らしのアリエッティ】


【上手いこと言ってる場合か!】


 チャーリーのツッコミが冴え渡る。

 しかし、ラッセルの店つぶされちゃったのか。その割にラッセルに悲壮感がないから不思議だ。鋼のメンタルを持つ男だな。


【そういうわけで、アイリスさんは浮気なんて気にせずに結婚しちゃいな】


 どういうわけだよ?

 話が脱線しすぎて、相談内容忘れちまったぜ。


【続いてのお便り!っと言いたいとこやけど、王都に来て日が浅いから、今日はこれ一通しかお便り来てないんや】


【そうなのかい?もっとレディ達の悩みに応えたかったんだけれど】


 いや、ここで終わって正解だったと思うぞ。

 どう考えても、女性の共感が得られているとは思えない。

 現にマリーは見たこともないほど険しい顔で、二階を睨みつけている。


【それは次回のお楽しみってことにしとこか。それでは最後に、ラッセルが歌うこの曲でお別れしましょう「巡る恋の歌」】


【ファ〜ファファファ〜ファ〜ファ〜ファファ〜ファファ〜、ファファファ〜ファ〜ファファファファファ〜】


 チャーリーの紹介に応えて、謎のメロディーが聞こえてくる。

 この音どっかで聞いたこと有るな・・・あ、ハーモニカか。

 こっちにもハーモニカあったんだな。


【好きです好きです心から〜、愛していますよと〜

そう言って愛を誓ったマリーに、浮気がバレてアッサリ振られた〜


妻より愛しているからと、愛を囁いたエルマちゃん〜

二の腕 】


 ん?途中で歌が終わった。

 エルマちゃんの二の腕はどうなったんだ?

 不思議に思って辺りを見回すと、マリーがいない。どうやら、ラッセルの振る舞いに堪えきれず、放送を止めに行ったようだ。

 俺としては、あの歌の続きが気になったんだが・・


「なぁはじめ。このラジオってやつは面白いんだが、女性客からの評判が悪くなりそうじゃないか?」


 放送を聞いていたドートル爺さんが、不安そうにそう尋ねてきた。


「いや、普段はこんな内容じゃないからな。もう少し万人受けする内容になっているぞ」


 そう言って前回までの放送を思い返してみる。えーっと、川柳・ラップ・筋肉・・・よくよく考えると万人受けはしないかもしれない。かなりマニアックな放送だな。


「助けてくれ」


 そうこうしていると、マリーに首根っこを掴まれたラッセルが二階から降りてきた。

 どうやらオールナイトファンタジスタは、ファンタジスタ支店の中で留めておくべきだったようだ。


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