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駿足の冒険者  作者: はるあき
2章 魔速の冒険者
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082 神のご加護と魔王の討伐


「チャーリー?大丈夫か?」


 寂しそうにも見えたチャーリーの姿に、俺は思わずそう声をかけていた。


「ああ、大丈夫や。ちょっと寝れへんから、夜風に当たってたんや」


 そう言うと、チャーリーは立ち上がってお尻をパンパンと叩いて砂を落とした。

 その姿は、いつもの頼りがいがあるチャーリーのものだ。

 俺はその光景に安心して、再び話しかけた。


「俺もなんか寝れなくてな。まぁ夕食前に寝ちまったのが原因だと思うんだけど」


 飯が出来るまでの間、ずっと爆睡だったからな。


「気持ちよさそうに寝とったもんなー。ま、緊張して寝れないとかやないならええんちゃうか?」


 そう言って、ニカッと笑いかけてくるチャーリー。

 その笑顔を見ると、何故かオレの心は落ち着いて、緊張なんてするはずがないとまで思えてしまう。


「それもそうだな」


 そう言って、俺は手を思い切り上に伸ばして体をストレッチした。

 ふぅ。夜風を浴びながらストレッチするのも、気持ちいいもんだな。

 体を動かしたら、少し眠くなってきた。


「ふゎ〜」


「ふふっ、眠いならもう寝たほうがええで。明日の作戦は、はじめの体力に掛かってるんやからな」


 俺の大あくびに対して、そんな反応を返してくるチャーリー。

 なぜかその表情は、凄く嬉しそうだ。


「そうだな。もう一度寝ることにするよ」


 俺はそう言って、テントの有る方へと戻った。

 チャーリーも寝ることにしたのか、俺の後をついてくる。


「じゃあはじめ、おやすみ。明日は頼んだで!」


「任せろ!おやすみ〜」


 お互いのテントに入る前に、そんな挨拶をした。

 明日はいよいよ魔王との決戦。

 緊張しすぎないように頑張るか!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 翌朝。

 目を覚ました俺達は、丘の先へと集合していた。

 時刻は既に朝の5時40分。

 作戦開始まで10分を切っている。


「準備万端だな」


 俺は下着姿で、マリーとチャーリーにそう告げた。今日は魔速を超えるスピードを出す必要があるからな、見た目を気にしてはいられない。

 ちなみに、マリーとチャーリーもいつもより小さめの服を着ている。空を飛んだ時に服がバタつかない様にしているんだろう。


 マリーとチャーリーは、俺が魔王を討ち取った後、怪我をした俺を回復させるために空を飛んで追いかけて来ることになっているからな。

 上手くいけば、アシュラ遺跡の向こう側にある山の山頂で落ち合う予定だ。


「そうやな。回復の用意もバッチリやから、思い切りぶつかってこい!」


 そう言って俺の背中を叩いて、気合を入れてくるチャーリー。


「出来たら怪我はしてほしくないけど、頑張ってね」


 優しいエールを送ってくれたのはマリーだ。

 マリーは既にビックイーグルの剥製の上に乗っていて、飛ぶ準備もバッチシだ。


「さて、そろそろ時間やで」


 チャーリーがシュタインから借りている懐中時計を見て、そう告げた。

 もう時間か。

 不思議とクルーガー王国のときのような緊張はない。

 敵の姿が見えていないからだろうか?

 それとも、昨日の夜をリラックスして過ごせたからだろうか?

 理由はハッキリしないが、凄く落ち着いている。


「カウントダウンや!10,9,8,7,


 チャーリーのその声をバックに、俺は頭の中で魔王まで至るルートと走行速度を反芻する。

 昨日必死こいて覚えたかいあって、今はもう手に取るようにルートが分かる。


「6,5,4,3,2,1,ゼロ!スタートや!」


 いよいよ作戦開始だ!


「行ってくるぜ!」


 俺はそう言って、全力で足を回して山を下っていった。

 山を下るたびに、グングンと加速していく。

 しかし、音速を超えた辺りで、いったん加速するのをやめる。

 早く走りすぎると、デトネーションの危険が有るからな。

 俺はシュタインが設計した速度で、アシュラ遺跡へと近づいていった。


「うおっ」


 すると、途中でエアカーテンを通り抜けたような、そんな抵抗があった。ちょうど、シュタインの地図に書いてあった結界の境目に差し掛かったところだった。

 なるほど。どうやら魔王の結界の中に入ったらしい。


 俺は冷静にそう考えながら、シュタインが決めた走行速度を守って魔王へと近づいていく。

 そのまま数秒走ると、遺跡が見えてきた。

 巨大な古い構造物が規則正しく立ち並んでいる


「よし!」


 俺は気合を入れて、遺跡の区画へと入り込んだ。

 ここからは、少しづつ速度を調整しながら、複雑なルートを通る必要がある。

 一瞬たりとも気が抜けない。

 俺は頭のなかの地図と目の前の光景をてらしあわせながら、予定のルートを走っていく。

 特急列車だ。

 決められた線路を走る特急列車の気分になるんだ。

 俺はそう思いながら、慎重にルートをなぞった。


 2・3回曲がったあたりから、大量の魔物が遺跡の中や通路に居るのが見えた。

 しかし、俺の体から出る衝撃波によって、殆どの魔物が空に吹き飛ばされていく。

 ブロワーになった気分だぜ!


 そんな事を考えながら更に奥へと進んでいくと、ついに最後の直線が見えた!

 ここからはラストスパートだ!

 一気に足の回転数を上げて、グングンと加速していく。

 魔速を超えても、まだまだ加速を続ける!

 すると見えた!魔王の姿が!

 約500mほど先だろうか、その姿は予想より大きい。ブレて正確には見えないが、人型だ。首がある。

 ならやることは単純だ。

 あの首を断ち切る!

 そうすれば、世界に平和が戻り、試練攻略だ!


「おおぉ!」


 俺は最後の力を振り絞って、魔王に向けて加速していった。

 そして、魔王の姿が間近へと迫った瞬間、


「取った!!」


 俺は右手に構えたミスリルのナイフで、魔王の首を跳ね飛ばした!


 右手に伝わる強い衝撃!

 それが骨を通して、胸へ背中へと全身に伝わる。

 全身が壁に叩きつけられたように痛い!

 俺はその痛みに耐えながら、ひたすら向かいにある山を目指し走った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・



 数十秒ほど走っただろうか、俺は向かいの山の山頂に到着していた。

 相変わらず全身が痛い。

 でも、ガリウスを倒したときとよりは、痛みが小さいな。

 痛さの感覚からいくと、骨もギリギリで折れていなさそうだ。

 俺は直立不動のまま、必死に息を整えた。


「はじめー!無事かー!?」


「どこに居るの!?」


 俺が足を止めてから数分経ったころ、マリーとチャーリーの声が聞こえてきた。

 空を見上げると、いつものビックイーグルの剥製が飛んでいる。


「こっちだ!!」


 俺は大声を出して返事した。

 手を振りたいが、流石にまだ手が痛む。


「はじめ!良かった、いた!」


 マリーはそう言うと、手から出る水を巧みに操って、俺の近くへと着陸した。

 着地した途端、マリーは飛ぶような勢いで俺に近づいて、ポーションを俺にかけてきた。

 体がピキピキと音を立てながら光っていく。

 どうやら、骨折はしていないがヒビは入っていたようだ。


「怪我はどう?」


 マリーが眉をヘの字に曲げて、心配そうな表情で聞いてきた。


「今回はそんなにひどくない。ガリウスの時より随分マシだ」


 そう言って、俺は肩を大きくぐるぐると回した。

 うん、体は動く。

 それにあまり眠気もない。

 むしろ体の調子は良いように思える。


「それより、魔王はどうなった?」


 魔王がちゃんと討伐できたのか、気になった俺はそう問いかけた。

 感触で言えば首を切り飛ばせたように思えたが、右手にあるミスリルのナイフが折れてしまっているので、確証はない。

 ひょっとしたら、魔王の防御力に負けた可能性がある。


「大丈夫や。首を切り飛ばされて、息絶えとったわ」


 俺の疑問に、チャーリーが答えてくれた。

 良かった。

 ちゃんと討伐出来ていたみたいだ。


「ようやく・・・・ようやく魔王を倒すことが出来たんやな。長かったけど・・ほんまに倒せたんやな」


 と、チャーリーは俺に背を向けて、魔王がいた方を見ながらつぶやいた。

 その声はかすかに震えている。


 いや、魔王を倒そうって決めたの昨日のことだろ。俺はいつものノリでそう突っ込もうとした。

 けれどチャーリーのつぶやきが、あまりに真に迫っていて、言葉を飲んでしまった。


「これで魔王も討伐出来たし、第三の試練も攻略できたな」


 俺は飲みこんだ言葉の代わりに、そんな言葉を吐いた。

 そして、その言葉に引っ張られて俺これまでの試練のことを思い返す。


 全部で5つある試練の内、これで3つを攻略することが出来た。

 1つ目は佐々木さん達が攻略してくれていたから、俺達が攻略したのは2つ。これでようやく折り返し地点ってところだ。

 でもあれだな、


「第3の試練も、思ったよりは簡単だったな」


 俺はそう言って、今回の試練について考える。

 オーシャナを脅かしていた魔物が運良く弱っていたことで、金貨300枚を手にできたし、そのお金で運良くミスリルのナイフを手にできた。更に、チャーリーとパリスのつてで運良くシュタインに出会い、最高な作戦を立てることが出来た。そして、作戦通りアッサリと魔王を討伐することが出来た。


 ・・よくよく考えると、めちゃくちゃに運が良いよな。俺達のチーム。

 天が味方しているとしか思えない。

 俺の言葉に、チャーリーは俺に背を向けたまま、首を縦に振って頷いている。


「そうやな、まぁ当然や。だって私達のチームには、


 チャーリーはそう言いながら、クルリと回ってこちらを振り向いた。

 その仕草が、なぜかスローモーションで再生されているかのように感じた。なんてことのない、そんな仕草が。それを見た瞬間、俺の中に不思議な感情が沸いた。嬉しいような、切ないような、悲しいような、愛しいような、そんな色々な感情が混じり合って、とても言葉では表せない。


「神のご加護がついてるからな!」


 笑顔でこちらを向いてそう言い切ったチャーリー。その姿は、なぜだかとても神聖に見えて、本当に俺達は神様に助けられているんじゃないかと、そんな事を思ってしまった。


これにて二章終わりです。

今まで影で努力していたチャーリーの奮闘をようやく描くことができました。次話からは、閑話をすこしはさみます。

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