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駿足の冒険者  作者: はるあき
2章 魔速の冒険者
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081 チャーリーの追憶10


 あれからファンタジスタを出発した私達は、うまく旅程をこなすことができていた。

 ドルワンゴではミスリルのナイフを手に入れたし、ラフラワーではカイラー・マリオネットを倒すことが出来た。はじめがあいつを一撃で倒した時は、驚きを通り越して只々感心してしまったけど。


 やけど、トラブルもあった。

 王都へと向かう途中、ラルフ・キリング・ルドルフがいきなり現れたんや。

 やつの象徴とも言える、細く上に登る小さな紫煙が見えた時、思わず悲鳴をあげそうになった。でも、私は平静を装って、「なんやろな?」と言って落ち着きを取り戻すことで、対処法を考えようとした。

 結果、それが緊張を解いてしまったのか、はじめがいきなりラルフ・キリング・ルドルフの居る方へと走っていってしまった。


 私は全身の血が一斉に引くのを感じた。

 ラルフ・キリング・ルドルフは魔王軍のNo.2、攻撃力だけで言うと、魔王と肩を並べる。一発でも攻撃をくらえば、はじめは粉々になって死んでしまう。

 今までに感じたことのない程大きな不安と恐怖が、私を襲った。

 それが神様として試練を攻略できない事に対する不安だったのか、はじめを失うことに対する恐怖だったのか。ごちゃまぜの感情のるつぼになっていた私には、もはや判断が付かなかった。


 私はそんな情緒不安定な状態で、全力疾走してはじめを追いかけた。

 すると、途中で空を飛ぶマリーが私を拾ってくれ、数十秒後には、はじめの元へとたどり着くことが出来た。


 たどり着くとそこには、首を真っ二つにされ亡骸になっていたラルフ・キリング・ルドルフがいた。

 その横に立つはじめは、かすり傷一つ負っておらず、呑気そうな顔をしている。


「敵の正体も分からんままに走り出すなや、危ないやろ!」


 そんなはじめを怒った私を、誰も責めることはできへんやろ?


・・・・・・・・・・・



 そんなトラブルも乗り越えて、私達は無事に王都へと到着した。

 王都では、平時よりは人の歩みが早かったが、そこまで大混乱になってはいなかった。

 どうやら国は以前のループと同じく、ラルフ・キリング・ルドルフの情報を隠すことで、偽りの平穏を手に入れることを選んだようや。


 そんな中、はじめの知り合いだとかいう、ラッセルとかいう男が現れた。

 こいつはとんでもない浮気男で、五股をかけた挙句、奥さんに離婚されたという体験を話してきた。

 それを聞いたマリーは、ハエを見るような目でラッセルを見ていた。当たり前や、女やったら誰しも嫌悪感を抱くはず。

 でも、私はそんなラッセルの事が、そこまで嫌いになれんかった。

 何でやろ?

 マリーが好きなはじめに恋をしてしまった後ろめたい感情があったせいで、共感してしまったんやろうか?

 はじめも嫌ってはいないようで、面白おかしく話をしていた。そんなはじめの姿に、マリーとはじめ、私の三人で結婚するという未来が一瞬見えてしまった。けれど、恋心を忘れる決意をしたことを思い出して、慌てて気持ちに蓋をした。

 あかんな。

 全然、忘れられてへんわ。


 ラッセルは一通り自分の話をした後、魔王の情報を教えてくれた。詳しい情報はやはり知らなかったみたいやけど。

 それを聞いたはじめ達は、より詳しい情報を知るために、冒険者ギルドへと行こうとした。

 私も詳しい情報を知ること自体は賛成や。魔王が前のループと違う行動をしてるかもしれへんし。

 でも、冒険者ギルドには大した情報は無いはずや。しかも、今のギルドにはルシファー達がおるかもしれん。何故か分からんけど、はじめ達にルシファーをあわせたくない。


 今の魔王の情報が一番集まっているとすれば、国立中央研究所やな。

 あそこの所長のシュタインとは、ずっと前のループで話したことがある。色んな情報を持っとるし、頭も良いから、役に立つ話を聞けるはずや。

 それに、魔法の研究に目がないから、はじめが新しいポイズンの詠唱の提唱者やってことを伝えれば、直ぐに面会に応じてくれるはずやしな


「冒険者ギルドもええけど、それよりもっと情報が集まる場所知ってるで」


 私ははじめ達にそう声をかけて、冒険者ギルドへ行くのを阻止した。

 さて、国立中央研究所に行って、予約を取り付けるとしようか。


・・・・・・・・・・・・・・・



「ダメだ。手紙を渡すことはできん」


「なんでや!?」


 私は、シュタインに手紙を渡すために、国立中央研究所を訪れていた。

 手紙には、はじめが新しいポイズンの詠唱を考えた事、パリスと知り合いだという事、そして面会をお願いしたいという事が書いてある。これをシュタインが読んでくれれば、間違いなく面会に応じてくれるはずなんや。

 しかし、厳しい顔をした門番の男は、私の願いをバッサリと断ってきた。


「この手紙を所長に渡してくれるだけでいいんや!そしたら、所長が会ってくれるはずやから」


「所長が?冗談だろう。所長がお前のような子供に会う用事があるとは思えん。それとも、所長の親戚だったりするのか?」


「それは・・・」


 私は再び門番に懇願したが、願いを聞き入れてくれることはなかった。

 それどころか、私の事を怪しんでいることが伝わってきた。

 当然か。

 今の私は、貴族の服を着てるわけでもない、冒険者風の幼女やからな。くそっ。

 こんなことなら、魔法の勉強とか冒険者の活動を真面目にやっとくべきやった。高ランク冒険者や特級魔法の使い手なら、門番も信用してくれただろうに。

 私はまた、このループで何もせずダラダラと過ごしてしまった事を後悔した。


「たまにいるんだよな。お前みたいに所長に取り入ろうとしてくるやつが。所長は多忙なお方だ。お前みたいなやつの相手をしている暇はない!」


 そう言って、私を睨みつけてくる門番。

 その視線には侮蔑の色が混じっている。

 駄目や。

 私の願いを聞いてくれそうにない。


「ふんっ、分かったら帰るんだな。もしくは土下座でもしてみるか?俺の気持ちも変わるかもしれんぞ」


 まぁできんだろうがな、と言って、私のことをあざ笑ってくる門番。

 でも、


「お願いします。この手紙を所長に届けて下さい」


 私はそう言って、足を折り曲げ、腰を屈め、土下座をした。

 そんな私を、門番の男が後ずさりながら見下ろしてくる。


「本当にやるやつがいるか!まだ小さいとは言え、お前にはプライドはないのか?」


「プライドはある。だから、これで聞き入れてくれなかったら、お前のことを絶対に許さへん」


 土下座をした体勢のまま、私は力を込めてそう告げた。

 頭の上で、門番の男が息を呑む声が聞こえる。


「お願いします」


 私は再び、土下座の体勢でお願いをした。

 世界を、はじめを救うためや。

 私は何としてでも、所長に会わなあかんねん!


 そのまま数十秒もの時間が経過した。腕と膝に砂利が食い込んで、鋭い痛みを私に伝えてくる。でも、こんな痛み、あの決意のときに感じた痛みに比べれば、全然痛くない。


 そして、空気が固まったまま、更に数秒の時が経った。


「分かったよ!手紙を渡してやるから顔を上げろ。でも、手紙を渡すだけだからな!その後のことは責任持たないからな!」


「ああ、それでええわ。ありがとう」


 私がそう言うと、門番は無言で私から手紙を受け取って、研究所の中へと歩いていった。



 そのまま数粉待つと、門番の男が帰ってきた。

 そして何も言わずに、所長の印が押された通行許可証を渡してきた。


「ありがとうな」


 私はそう言って、研究所を後にした。


・・・・・・・・・・・・・・・



 翌日、はじめ達と一緒に再び国立中央研究所を訪れた。

 あの門番の男はいなかったが、別の門番に通行許可証を見せると、少し驚かれはしたけど、すんなりと通してくれた。


 そして、無事にシュタインと会うことができた。

 予定通り、シュタインからは様々な情報を聞き出すことが出来た。魔王のステータス、勇者が共同戦線を張ろうとしていること、勇者たちでは魔王には勝てないであろうということなど。

 それを聞いて、私は不安になった。勇者が4人いても勝てないという事実に、はじめの心が折れてしまうんやないかと。


 しかしはじめは私の予想を裏切って、思いもよらない策を編み出した。なんと、魔法の伝わる速度を超えて、魔王に奇襲をかけるという。

 私はそれを聞いて、はじめがいつものようにふざけ出したのかと思った。

 この緊迫した場面で、何を言っとるんやと。

 でも、それは違った。

 あいつは真剣に魔法の速さを超えれると思って、具体的な作戦として提案していた。事実、シュタインによると、魔法が伝わるのは一瞬ではなく、ある速さを持つらしい。そして、はじめはその速度を既に超えていた。


 私は、はじめの独創的な作戦に、ひたすらに感心していた。

 何かを極めた人間ってのは、こんなにも創造的な考えに至るのかと。嫉妬すら覚えるほどだった。

 でもこの作戦は、シュタインの頭脳と研究所が持つ情報がないと、立案も実現も不可能やったはず。そう考えると、私のサポートも捨てたもんやないよな。

 考えがそこまでいたって、ようやく私の昨日の努力が報われた気がした。



 そして、私たちはシュタインから貰った地図に従って、魔王の居るアシュラ遺跡の近くの丘まで来た。

 今日はこの丘で一泊する。

 そんで明日の朝、魔王討伐に向けて作戦を開始や。


 そんな緊迫した状況やけど、まだまだ作戦までには時間が有る。

 いまから緊張してしまっては、本番に疲れが残って上手く動けへんよな。


「とりあえず、テント建てへん?その方が休めるし」


 私はそう言って、テントを張って休むことを提案した。

 これで少しはリラックスしてくれると良いんやけど。


 その後、はじめを寝かせて、私とマリーで夜ご飯を作った。

 ご飯を作っている間にマリーとは沢山語り合った。まぁマリーがする話は、はじめについてばっかりやったけど。気が利かないとか、察しが悪いとか、暴走がすぎるとか、マリーはそんな愚癡のような事ばかり言っていた。

 でも、はじめのことを語る時のマリーの目はキラキラと輝いていて、口元は緩んでいて、誰から見ても、はじめに恋をしていることが分かる様子やった。


 それから、起きてきたはじめと一緒に、夜ご飯を食べた。

 夜空の下で食べるご飯は、最高に美味しくて、体と心に染み渡った。ずっとこのまま、三人で過ごしたいと、そう思えるくらい素晴らしい夜だった。


 そして、明日に備えて早めに寝ることになった。

 私も床に入ったけど、中々寝付けなかった。

 だから、テントから出て、丘の先の方に座り込んで、ずっとアシュラ遺跡の方を見ていた。

 そうしていると、今までのループの記憶や、今回のループで死にたいと思っていたこと、はじめ達と出会った時の事、はじめへの恋心などが溢れ出してきて、そのまま、長い時を過ごしてしまった。

 すると、


「チャーリー?大丈夫か?」


 テントから出てきたらしい。

 心配そうな顔したはじめが、そう問いかけてきた。


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