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駿足の冒険者  作者: はるあき
0章 プロローグ
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007初心者講習会(知識編)

 あれから、初心者講習会があるまで二週間の間、ずっと手紙の配達の仕事をこなしていた。

 初日に30分で100枚の手紙を配ることが出来たので、8000枚くらい一週間もあれば余裕だろうと考えていたのだが、届け先が分かりにくい場所にあったりとか、届け先の家にポストがなくて一度持ち帰る羽目になったりとか色々あって、意外に時間がかかった。しかしそれでも、配達を初めて10日ほどで、ギルドにあった8000枚の手紙を全て配り終えることが出来た!


 8000枚を配り終えたときは、リリーさんにお礼に行きつけのお店でご飯とお酒をごちそうしてもらった。リリーさんのオススメだけあって、そのお店はご飯もお酒もとっても美味しかった。

 ご飯を食べながら、リリーさんに俺の配達の速さを褒めされてギルド専属の配達員にならないか勧誘されたり、リリーさんが仕事量の多さや冒険者のマナーの悪さなどを愚痴ったりと、色々と面白い飲み会だった。(ちなみに、専属の配達員の話は断った。せっかく異世界に来たので、色んな依頼にチャレンジしてみたいからだ)


 というわけで、俺は手紙8000枚分の依頼料である銀貨240枚を手に入れることができ、初心者用の片手剣や皮の防具を買うことが出来た。この話をマリーにすると、すごく驚かれた。どうやら、この世界の騎士の月給が銀貨120枚くらいらしいので、たった10日で倍も稼ぐなんて異常だとのことだった。


 ちなみに、冒険者登録をした日以来、マリーとはよく朝ご飯を一緒に食べていた。(何故か一緒のタイミングで食べる事が多かったのだ。生活習慣が似てるのかな?) マリーは二週間の間、主に火魔法のトレーニングや体力強化に努めており、何回か誘われて一緒トレーニングをしていた。といっても俺は魔法が使えないので、ひたすら走り込みをしているだけだったが。


 というわけで、今日は待ちに待った初心者講習会の日である。

 上手く行けば今日からFランクの冒険者として、憧れの冒険者生活に繰り出すことができる。

 俺とマリーは、ワクワクしながら冒険者ギルドへと向かっていた。


「今日初心者講習会受ける人って、何人くらい居るんだろ?」


 今日、同じタイミングでFランク冒険者になる人がいれば、日本風に言うと同期ということになる。同期は仕事でも私生活でも頼りになるという事を聞いていたので(父から)、たくさんいると嬉しい。


「どうなんだろう?はじめが配達員の仕事をしていたときは、他のGランクの冒険者は居なかったの?」


「うーん、それっぽい人は居なかった気がする」


 マリーに言われて思い返してみたが、ギルドに居たのはゴリアさんなど、熟練の冒険者風の人たちばっかりで、初心者っぽい人は居なかった。


「まあ、初心者講習受けるまでは儲かる依頼受けられないから、ギルドに来ていないだけなのかも」


 言われてみればそうだな。むしろGランク冒険者なのに毎日ギルドへ顔を出してる俺の方が異常だったのか。

 そんなことを話しているうちに、冒険者ギルドの前に到着した。

 ギルドの中に入ると、リリーさんが居たので慣れた足取りで彼女のもとへ向かう。


「おはようございます、リリーさん。今日は初心者講習会を受けに来たんですけど」


「おはようございます、はじめさん!初心者講習会ですね。あと20分ほどで始まるので、テーブルの方で待っていてください」


 この2週間ずっと話していたので、リリーさんとのやり取りも慣れたものである。

 俺はリリーさんに言われたとおりに、居酒屋スペースのテーブルへと移動し、マスターにいつものをくれと頼む。

 すると、静かに頷いたマスターが紅茶を淹れて持ってきてくれた。(俺は紅茶より珈琲派なのだが、この世界に珈琲は無いらしいのだ)


「あんた、すっかりギルドに馴染んでるわね」


 若干呆れた目つきでそう言ってくるマリー。


「まあ、二週間も毎日通っていたからな」


 しかも依頼が終わると、毎日のようにゴリアさんとガウディがテーブルで飲んでいて、一緒に飲もうと誘われ飲み明かしていたのだ。

 もはやマスターとはツーカーの中である。


 マリーも俺と同じく紅茶を頼んだので、二人で一服しながら待っていると、すぐに時間が経った。


「はじめさん、マリーさん、初心者講習会が始まるので、受付までお願いします」


 受付の方を見ると、リリーさんが手を振って呼んでいた。

 俺とマリーは、マスターに紅茶の代金を支払ってから、受付に行った。


「それでは、今から初心者講習会を始めます。ちなみに今月受けるのはお二人だけですので、講習中は仲良くお願いしますね」


 まあお二人は既に仲良さそうなのでいらない警告かもですけど、とリリーさんが小さい声で付け加える。


「講習場所はギルド裏の広場です。案内するので、着いて来てくださいね」


 そう言うと、リリーさんがギルドの扉を出て、俺達を案内してくれた。

 細い路地を通ってギルドの裏手に到着すると、そこには小学校の運動場くらいの広さの広場があった。

 隅の方にホロが張ってあり張ってあり、その下には黒板があり机と椅子が並んでいる。あそこで講習を受けるのだろう。

 俺の思っていた通りだったらしく、リリーさんは俺たちを机や椅子があるところまで案内した。


「講習はここで行います。午前に知識講習、午後に実技講習を実施します」


 そう言いながら、黒板の前に移動するリリーさん。


「ちなみに午前の講習は私が担当するので、よろしくお願いします」


 なるほど、リリーさんが講師だったのか。


「「お願いします」」


 俺が言葉を返すと、マリーと被ってしまった。


「本当にお二人は仲が良いんですね」


 そう言ってリリーさんが笑っている。

 恥ずかしいなこれ。


「リリーさん、早く授業を始めましょう!」


 マリーも恥ずかしいのか、顔を赤くしてリリーさんを急かしていた。

 グッジョブ、マリー。


「分かりました。時間も限られていることですし、早速始めていきますね」


 そう言うと、マリーさんは黒板に今日の講習の目次を書き始めた。

 教科書とかの資料は貰えないのかな?と一瞬思ったけど、この世界では紙が地味に高いので、教本とかは用意して無いのだろう。聞き逃さないようにしないと。

 少し待っていると、黒板には綺麗文字でこう書かれていた。


1.この国について

2.冒険者ギルドの役割

3.冒険者ギルドにおける冒険者制度について

4.冒険者としての生活

5.冒険者として守るべきルール


「まず初めに、この国について近隣国との関係を含めてご説明します。冒険者の依頼では、国境を超える依頼なんかもありますので、各国の関係は非常に重要になります」


 なるほど、たしかにこれは必要な知識だな。下手に仲の悪い国に行って捕縛されたりしたらまずいし。

 俺はこの国の名前すら知らないからな。この機会に吸収しよう。


「そして次に、冒険者ギルドの役割やギルドにおける冒険者制度についてご説明いたします。ギルドで冒険者として生きていくのに必須の知識ばかりとなっていますので、必ず覚えてくださいね」


 うん、これは予想してたとおりの講習内容だな。


「そして次に、とある冒険者の1日を例にとって冒険者の生活をご紹介いたします」


 これは冒険者のリアルなところが分かって面白そうだな。

 就活中にとある企業で社員の一日みたいなPVを見させられたが、あれみたいなもんか。そのPVはやたらと先輩からも高い評価を受けて、後輩からも慕われている完璧超人な人の一日(でも何故か目が死んでる)だったので、逆に不安になったが。


「そして最後に、冒険者として守るべきルールをご説明いたします。ルールを破ると依頼を受けられなくなったり、ひどいときは捕まっちゃいますので、必ず覚えるようにしてくださいね」


 捕まるのは怖いな。

 絶対に覚えるようにしよう。


 それからリリーさんは、この目次に沿って色んなことを教えてくれた。

 リリーさんは大事な所になると溜めを作ったり、たまに小ネタを入れたりとすごく説明が上手だった。

 俺はこの日のために買った羊皮紙に、ガラスペンで教えてもらった内容を書き込んで整理した。こんな感じだ。


1.この国について

・この国の名前は【ラース王国】

・この国のある大陸は、横に引き伸ばしたオーストラリアみたいな形をしており(リリーさんは絵で説明したが、絵心がないので文章で書いている)、南端の方の国である。

・王政をとるかなり大きい国で、首都の広さはこの大陸で一番である。

・周辺国としては、ガラパゴス共和国とルーラ聖国、ルードリッヒ王国があり、ガラパゴス共和国とルードリッヒ王国とは貿易も盛んで仲が良いが、ルーラ聖国とは宗教上の問題で関係が悪い。


2.冒険者ギルドの役割

・冒険者ギルドはこの大陸の全ての国に存在しており、国同士の戦争などには非介入を宣言している。

・しかし、戦争以外の国からの依頼は禁止されていない。なので魔物に襲われた村の救援などの依頼が国から入る。

・他には一般の人や商人などから様々な依頼が入り、人々の生活に不可欠なものとなっている


3.冒険者ギルドにおける冒険者制度について

・ギルドは、依頼を受けてくれる冒険者を求めている

・冒険者はステータスカードを持ち犯罪歴が無いものであれば、誰でも入れる

・ギルドに登録されると、その冒険者の情報は魔法具で各国・各町のギルドに届いて共有される

・よって、登録したギルド以外でも依頼を受けることができる。(出来るだけこのギルドで受けてほしいなーと、リリーさんは呟いていたが)

・冒険者はギルドが発行した依頼を受けて、依頼を達成することで依頼料を受け取ることができる

・依頼は難易度を元にG~Sの8つのランクに分かれており、冒険者もまたG~Sの8つのランクに分かれている。

・依頼を受けるときは、自分のランクと同じかそれ以下のランクの依頼しか受けることが出来ない

・ただし例外として、同じランク冒険者でチームを組めば、一つ上のランクの依頼まで受けることができる。

・チームは2人から組むことができ、上限はない

・ただし、チームを組むとランクの上がるタイミングが一緒になるので、人数が多いとその分ランクが上がりにくくなる

・ランクは依頼をこなすごとに上がっていく。ギルド内で回数などによる規定があるらしいが、公表されていないらしい


4.冒険者としての生活

 サンプルの冒険者として、なぜかゴリアさんが選ばれていた。一日の流れは以下のような感じだった

・朝、依頼表を見て受ける依頼を決める。ここで、依頼表を見てわからないことがあれば受付のリリーさんに詳しく話を聞く。

・昼、依頼をこなす。

・夜、依頼達成の報告をし、依頼料を受け取る

(この時依頼の達成度は受付のリリーさんが判断する。例えば魔物の毛皮の採取なんかで、毛皮が傷ついていたりすると、買取担当の人や依頼者と相談の上で、依頼料が減額となる)

・その後は翌日ベストな状態で依頼を受けるために、早めに就寝をする

(これに関しては、リリーさんかゴリアが話を作ってると思う。俺が見る限りあの人は毎晩、日付が変わるまで飲んでいた)


5.冒険者として守るべきルール

・殺人の禁止(盗賊などの重度犯罪者は除く)

・冒険者同士の争いの禁止(こちらについては、形骸化していてギルドは不干渉を保っているようだ)

・依頼の途中放棄の禁止(途中で辞めると罰金があるらしい)


 と、こんな感じだ。


「それでは、これから筆記テストを行いますね!お二人とも熱心に聞いていたので、大丈夫だとは思いますが、頑張ってくださいね」


 そう言って、リリーさんが手書きのテスト用紙(羊皮紙)を配ってくれた。

 内容的には聞いたことしか出なかったので(当たり前か)、俺はおそらく全問正解できたと思う。マリーが横で結構悩んでいたので、少し不安だったが。


 テストが終わると、リリーさんが手早く採点してくれた。

 結果はふたりとも満点だった。


「やったわね、はじめ!」


「ああ!」


 俺達はハイタッチをして喜びを共有した。


「このテスト、合格率は8割くらいで高いんですが、満点取る人は珍しいんですよ。お二人とも頭が良いですね!」


 リリーさんがそう言って褒めてくれた。やったぜ!

 思わず緩みきった顔をしていると、マリーから肘鉄を食らった。痛い!


「お二人は筆記試験を通過しましたので、次は実技講習ですね。お昼を食べて一時間後にこの場所に戻ってきてください。ちなみに講師はギルド長です!」


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