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駿足の冒険者  作者: はるあき
2章 魔速の冒険者
78/123

075 チャーリーの追憶4


 感じていた腹の痛みが消え、徐々に意識が覚醒していく。

 そして数秒ほど待つと、私は完全に体の感覚を取り戻すことができた。

 周囲を見渡すと、そこはファンタジスタの宿、ウッドブロックの部屋の中やった。

 机の上には、前回と同様リカからの手紙が置いてある。


 良かった。

 今回も無事にタイムリープ出来たみたいや。


「せやけど・・・またこの時間か」


 予想外の事が1つ有った。

 それはまた三年前に戻ってきてしまったこと。

 時間を戻せと叫んだ時、私は一ヶ月前に戻るように祈ったはずや。

 しかし、実際は三年前に戻ってきている。机の上にあるリカからの手紙が、そのことを証明している。


 という事は、私はこの日付にしか戻ってこれへんという事なんやろうな。

 なぜだかは分からへんけど。


「前回は良いとこまでいけた。ルシファーが私を助けに入らへんかったら、ガリウスを討伐でき、戦争は終わっていたはずなんや」


 惜しかった。

 ルシファーの行動が悔やまれる。

 あいつは生まれてからずっと勇者として生きてきた。せやから自分が一番強く、無理にでも仲間を守るというスタンスが染みついとるんや。

 でも、あれじゃあチームプレイは出来へん。

 仲間を守ろうとするということは、言葉だけで言えば立派や。せやけど、それは裏を返すと仲間を信頼していない事と一緒や。


 このループでは、勇者の性格を変えなあかんか?

 ・・・いや、無理やな。

 生まれてから染みついた性格が、そう簡単に変わるはずがあらへん。


「という事は、私が強くなるしかあらへんって事か」


 方法はそれしかないやろうな。

 私がもっと強くなって、バリアスをすぐに倒せるようになれば、勇者がいらん事するタイミングもなくなるはずや。


「このループでは、最強の魔法使いを目指そう」


 目標をそう決めた私は、過去二回のループの記憶を元に、自分の魔法を鍛え続けた。

 もちろん、より深い魔法の勉強が出来るように、魔法学校も受験した。


「【折り重なる風の暴風よ、一振りの刃となり切り刻め ウィンドカッター!】」


「おお、素晴らしい!あの歳で中級魔法を使いこなすとは!」


「エリザベス以来の天才じゃないか?」


 入学試験での一幕も、全く同じことが起こるから、結末を知ってしまった映画見てるようでおもろなかったな。

 でも、無事にまた特待生として、学校に通えることになった。


 そしてそれから2年間、私は魔法の練習と研究にのめり込んだ。

 そのかいあって、私は土と風両方の特級魔法を習得することが出来た。2つの属性の特級魔法を使えるのは、国内で私だけらしく、パリスや先生達にはずいぶんと驚かれたもんや。


「それでは第200回特級魔術講座を終了する」


 そして、ついにルシファーたちと出会う日が来た。

 この日、冒険者ギルド横の武器屋へ行けば、勇者パーティが居るはずや。私は武器屋へと急ぎ、その扉を開いた。


「ルシファーにはこの鎧が似合うわ」


「いや、こっちも捨てがたいんじゃない?」


「僕は見た目は気にしないんだけど」


「鎧もいいけど、貴重なアマダント製のナイフはどうだい?ここだけの話だが、三日後に入荷する目処がたったんだ。金貨200枚!お買い得だよ!」


 良かった、ちゃんと居た。

 会話も前のループの時そのままや。


 私は、前のループを参考に、同じようにしてルシファーのパーティーに入れてもらうことにした。


「あんたらが勇者パーティやな?私を仲間に入れてくれへんか?」


「ん?お嬢さん、僕らのパーティに入りたいのかい?とっても嬉しいけど、あと5・6年勉強してからのほうが良いと思うよ」


「年齢は確かに幼いかもしれへん。でも、強さは十分なはずや」


 ルシファー達に、ステータスカードを見せる。


名前:小林リカ(あだ名:チャーリー)

種族:人間

職業:冒険者 Cランク

LV:65

HP:650/650

MP:650/650

STR:850 [備考:筋力値]

VIT:640 [備考:物理防御力]

AGI:760 [備考:俊敏性]

INT:1460 [備考:魔法攻撃力]

MND:1320 [備考:魔法防御力]

所持スキル:なし

所持魔法 :火魔法(生活) 水魔法(生活) 土魔法(生活・下級・中級・上級・特級) 風魔法(生活・下級・中級・上級・特級)



「な!?君、特級魔法が使えるのかい?それに2つも!それなら・・・うん、戦力としては申し分ない。歓迎するよ!ラミアもシトラスもいいだろう?」


「良いんじゃないかしら」


「私もいいと思うわ。特級魔法が使えるなんて、凄いわね」


 私が同じ言葉喋ってもうたからかもしれんけど、ルシファー達の反応が全く同じで気味が悪い。

 まあしゃあないか。


 こうして、勇者のパーティに加わった私は、魔物を退治する日々を過ごした。

 そして約一ヶ月後。

 前回と同じタイミングで、クルーガー王国との戦争が始まった。


・・・・・・・・・・・


 ここから先の流れも、おおよそ同じ感じやった。

 戦火が拡大し両方の国で数万人が死んだ後、諜報を終えた国軍の精鋭部隊と私達で、クルーガー王国に潜入した。

 そして、王宮に入り、ガリウスとのバトルになった。


「俺は勇者を殺る。バリアスよ、お前らはその他の兵を殺せ」


 ガリウスのその言葉で、戦闘が開始する。

 そして私は、


【ストーンヴォルケーノ!ウィンドディザスター!!】


「な


 無詠唱特級魔法の連続攻撃で、一瞬でバリアスを倒すことに成功した。


「助太刀するで!」


 そして、ルシファーと二人でガリウスに挑んだ。

 ガリウスは相当強く、特級魔法を食らっても少ししかダメージを受けないほどだった。

 私の魔法とルシファーの魔法が狭い王宮内を暴れまわって、王宮が崩壊してしまうほどの激しい戦いとなった。

 しかし最後には、なんとかガリウスを倒すことが出来た。


 その後、クルーガー王国は負けを認め、ラース王国の植民地になることが決まった。そして、勇者パーティはこの戦争一番の功労者として、王様から財宝と領土を賜ることになった。

 それに伴って、ルシファーが貴族になり、シトラスとラミアを妻に取った。そして、側室も5人くらい取っていた。・・あいつ、意外に節操ない奴やったんやな。

 私も妻にと誘われたが、断った。

 仲間を信頼できへんやつが、妻を信頼できるとは思えへん。そんなやつに人生預けるわけにはいかんからな。

 ・・・って、私神さまやから、そもそも結婚とかなかったわ。

 危ない。

 人間として生活するうちに、人としての常識に支配され始めとるようや。


 私は、王様から貰った報奨金を使って高級宿をとり、部屋の中でこれからの作戦を立てることにした。


「ここまではシミュレーション通り来ることが出来た」


 ガリウスを倒すまでは、前のループでの経験からある程度シミュレート出来ていた。

 だが、ここから先は未知の世界や。何が起きるか分からん。

 今までの傾向から考えると、第3の試練ではガリウス以上に強い敵を倒す必要が有る可能性が高い。

 つまり、今まで以上に強くなる必要があるということや。


「修行せなあかんな」


 とは言え、第一の試練と第二の試練の間が三年も空いてたことやし、次の第三の試練も数年後やろ。

 と、私はそんな甘い考えで、しばらく呑気に日々を過ごしていた。



 しかし、その僅か3週間後、事件は起こった。

 魔王が復活したというお告げがあったと、教会が発表したんや。

 そしてアシュラ遺跡上空で、紫の雲が目撃された。

 第三の試練が始まった。


 魔王が復活したという発表に、王都の住人はみな興奮していた。

 ただ、魔王は千年近く現れていなかったので、現実感が薄かったらしい。竜人族等の一部の長寿種族を除いて、それほど大きな騒ぎにはなっていなかったし、怖がっているようにも見えなかった。

 しかしその翌日。


「我は魔王軍一番隊隊長、ラルフ・キリング・ルドルフ。魔王様が人間殲滅の最初の土地としてこの国を選んだ。3日後に攻撃を開始する、せいぜい慌てるがいい」


 魔王軍一番隊隊長を名乗る魔物が王都に襲来し、宣戦布告したことで、流れが変わった。

 王都に住むものは皆、恐慌状態に陥ったんや。

 それもそのはず、鑑定士が調べたラルフ・キリング・ルドルフのレベルは150を超えていた。ステータスも異常で、この国最強の勇者であるルシファーより、全ての能力が高かった。そしてその情報が民衆に漏れてしまった。


 魔王軍に殺される。

 誰もがそう思い、この国を逃げ出そうとした。


 しかし、この騒動はとあるアナウンスで収束を迎えた。


「いま噂されておるラルフ・キリング・ルドルフのステータス情報は嘘だ。本当の奴のレベル50、勝てない相手ではない!」


 ラース王国軍の総司令官から、そう発表されたのだ。

 この発表を聞き、王都はつかの間の平穏を取り戻した。それでもまだ、国を出ようとするものは大勢いたが、恐慌状態ではなくなった。これでようやく国は平穏を取り戻すことができたのだ。

 まぁ、嘘の発表で手に入れた、偽りの平穏やけど。


 発表から少し経った時、ルシファーと私に、本当はラルフ・キリング・ルドルフのレベルが150を超えていること、このままだと王都が攻め落とされてしまうことが王から伝えられた。


「リカ、君ももちろん参戦するだろう?」


 王からの報告を受けて、ルシファーはさも当然といった顔で、私にそう聞いてきた。

 どうやら、ガリウスを倒したことで気が大きくなっているらしく、自分が負けるとは微塵も思っていないらしい。

 私はその能天気ぶりに、思わずめまいがした。

 しかし、


「そやな、今回も力合わせて頑張ろうや」


 そう言って、同意するしかなかった。

 レベルが150もあるような化物相手に勝てるとは思えないけど、これは試練や。リカのためにも逃げる訳にはいかない。

 味方は多いほうが勝率は上るはず。


 そうして迎えた、3日後の朝。

 魔王軍は予告通りやってきた。

 三万もの魔物の大軍を引き連れて。


「俺はラース王国の勇者ルシファー!いざ尋常に勝負!」


 そう言って、ラルフ・キリング・ルドルフに一騎打ちを挑んだ勇者は、一蹴りで内蔵を破壊されて殺された。

 私が止める間もなく。


 そして、ルシファーを殺したラルフ・キリング・ルドルフの後ろから、5mほどの体躯を持った巨大な魔人が現れた。

 そいつを見た瞬間。

 私は総毛立った。


 溢れ出る魔力は見ているだけでも目を痛くし、刺すような視線が放つ威圧感で上手く呼吸が出来なかった。

 格が違う。

 そうとしか言えないほど、魔王のオーラは強大だった。


「お前がこの国のトップだな?」


 魔王はそう言うと、突然姿を消した。

 次の瞬間、私の体に激痛が走り、私は迷わずタイムリープした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・



「はっ、はっ、はっ」


 気がつくと、いつもの宿の一室にいた。

 私の体からは滝のように汗が吹き出し、全力疾走した後のように呼吸が荒くなっていた。

 何や?さっきの攻撃は。

 動きを捉えることすらできなかった。


「あいつは絶対復活させたらあかんやつや」


 ガリウスとはレベルが違った。

 もはや戦える相手やない。復活させてしまった時点で負けや。

 こうなったら、ガリウスを倒してすぐに、各地を調査して魔王の復活を阻止するしかあらへん。

 となると、


「もう一度、ガリウス討伐せなあかんな」


 そこから先は、前のループと同じ行動をした。

 魔法を全力で勉強して、ルシファーのパーティに入れてもらう。

 そして、戦争の合間を縫ってクルーガー王国に潜入して、ガリウスを倒す。

 ここまで約3年。

 長かったけど、一度通った道やから正解は分かっとる。私は前のループとほぼ同じ行動をして、同じ結果にたどり着くことが出来た。

 問題はこっからや。

 魔王の復活を阻止せなあかん。


 私は戦争での武勲を盾に諜報部隊にお願いして、国中の紫の雲にまつわる情報を集めた。

 すると、海の街オーシャナで紫の小さな雲が目撃されたという情報が入った。私はそこに目をつけて、諜報部隊に更に詳しく調べさせた。その結果、紫色の魔石をはめた、ベッババ・バギ・バ・ヌンボボ・バギがいるという情報が入った。

 紫の魔石。これは魔王復活に関係がありそうや。


「ルシファー、オーシャナに魔物を討伐に行かへんか?」


 私はルシファーを誘って、この魔物を討伐に行こうとした。

 しかし、


「えー、遠慮しとくよ。俺は今、ラミアに渡す婚約指輪の石を探すのに忙しいんだ」


 と、腑抜けた事を言って断ってきた。

 思わず殴りそうになったが、よく考えたらこいつは魔王が復活することを知らん。

 危機感がないのも当然か。


「ラミアの肌に映える紫の魔石が良いんだけどね〜。なかなか大きいものがないんだよ」


 そう言って、脳天気に私に相談を持ちかけるルシファー。

 まったく、今そんな事考える余裕なんて・・・ん?

 紫の魔石?


「それやったらいい情報があるで!」


 私はオーシャナに現れた魔物のことを伝え、ルシファーを誘い出すことに成功した。

 そして2日後の夜、私とルシファーはオーシャナへと到着していた。


「今日はもう暗いから、明日の朝に討伐に行こう」


 街につくなりそう言うと、ルシファーは街一番の高級宿へと消えていった。


 ・・まぁ、暗いと戦いづらいし、良しとするか。

 若干イラっと来たけど。


 一人の討伐は危険が伴う。そう考えた私は、ルシファーと同じ宿に泊まることにした。

 そして、夕食と風呂を済ませた後、早めに寝ようとベッドに入った。

 するとその時、宿の受付の方から悲鳴が聞こえた。


「キャー!!」


「ルシファー様!?」


「早く治癒魔術師を呼んでこい!」


 その声に不穏なものを感じた私は、ベッドを降りて受付へと向かった。

 するとそこには、力ない姿で床に倒れているルシファーが居た。


「おい!何があったんや!?」


 まさかもう魔王が?

 いや、お告げではまだ2週間は先のはず。

 一体何が?


「すまない。例の魔物を倒しに行ったんだが、逃してしまった・・瀕死状態に追い込むことは出来たから、もう長くないと思うが」


 そう言って、悔しそうな顔をするルシファー。


「アホか!何で一人で討伐に行ったんや?」


「嫁に渡す婚約指輪だ。男一人で取らないとかっこ悪いだろう?」


 知るかそんなルール。

 こいつ、カッコつけて無理して死んでいくタイプやな。

 前のループでラルフ・キリング・ルドルフに向かって行った時点で、薄々感づいてはいたけど。


「安心してくれ、怪我はないから大丈夫。MP切れで倒れているだけだ」


 続けてそう伝えてくるルシファー。

 まぁそうか。無鉄砲なルシファーとはいえ、大怪我してたら宿に戻らず教会とかに行くもんな。


「ならまあええわ。ほな、私は例の魔物にとどめ刺してくるわ」


「な!?待ってくれ!あれは俺一人で討伐して


 ルシファーのそんな言葉を後ろに、私は宿を飛び出して例の魔物の討伐に向かった。

 森へ入って十分ほど捜索すると、例の魔物を発見することが出来た。

 岩山で、傷づいた体を休めている。


【ウィンドディザスター!】


 私は特級魔法による奇襲を仕掛けた。

 ルシファーの言うとおり、奴はもう虫の息だったようで、難なく討伐することが出来た。

 私は、ベッババ・バギ・バ・ヌンボボ・バギの胸から魔石を剥ぎ取って手に取った。

 見ると確かに、紫色をしている。

 しかし、Sランク級の魔物のはずなのに、なぜかその色は鈍く濁っていた。


「これで魔王の復活を防げるとええんやけど」


 この場所で、小さいとは言え紫の雲が出たってことは、魔王の復活に関係しているとは思う。

 けど、何が直接のトリガーとなって魔王が復活したのか分からない。

 祈るしかないな。


 私は下山して宿へと戻った。

 宿に戻ると、顔色の悪いルシファーが待ち構えていた。私が例の魔物を討伐したことを伝えると、魔石を売ってくれと頼まれた。

 まあ使い道も特にないし、元々ルシファーが弱らせたからあんだけ簡単に討伐できたんや。そう思って、魔石を売ってあげることにした。

 金額は金貨300枚。私が設定したわけではなく、冒険者ギルドが例の魔物の報奨金として設定していた金額らしい。



 それ以降も、私は国軍の諜報部隊を使って紫の雲に関連する情報を集め続けた。しかし、有効な情報は現れなかった。

 そうして2週間ほどたった日。

 私は祈るような気持ちで朝を迎えていた。

 今日は前のループで魔王が復活したとお告げがあった日や。

 もし阻止できているなら、お告げはないはずや。

 頼む。


 ・・・・


 しかし、現実は無情やった。


 その日教会は、魔王復活のお告げがあったと発表した。


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