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駿足の冒険者  作者: はるあき
2章 魔速の冒険者
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068 王都到着と魔王の影


 あれから、数十分ほど歩いた俺達は無事に王都へと到着した。

 中に入る時に簡単な検問があったが、無事に通過することが出来た。どうやら手配中の犯罪者がいるかどうか、チェックしているだけらしい。

 思ったよりガードがゆるいなと思ったが、王都へは一日に何千人も来るらしいからな。いちいち詳細にチェックしてられないのかもしれない。


「ここが王都か。流石に人が多いな」


 今は大通りを通ってドートル爺さんの店へと向かっているところだ(手紙に地図が同封されていたので、それを頼りに歩いている)。

 通りは亜人やエルフ、ドワーフなど様々な人種でごった返していて、はぐれると再開できそうにないほどの混雑ぶりだ。

 また、ファンタジスタとは違って、通りにある店は銀行や商会所が多く、鮮魚店や肉屋なんかは一つもない。屋台なんて以ての外である。

 ウォールストリート的な場所なのかね?


「そうね。しかもお祭り前にしては、みんな殺気立って無いかしら?」


 急いで歩く人の群れを見ながら、そんな疑問を投げかけるマリー。

 そう、何故か王都にいる人は皆、急ぎ足で何処かに向かっているのだ。仕事が忙しいビジネスマンだってもう少し落ち着きがありそうなものだが。

 なにか事件でもあったのか?


「そうだな。だが原因を知ろうにも、人が多すぎて話し声は聞き取れないし・・ドートル爺さんに聞いてみるか」


 王都に住んでいるドートル爺さんなら、何か知っているはずである。

 たぶん。


「お、あれじゃねえか」


 そう言ってベロアが指を指した方向を見ると、喫茶ドートルと書かれた黄色い看板があった。

 良かった、無事たどり着けたみたいだ。

 俺達は少し小走りになって、喫茶ドートル本店の前まで移動した。

 しかし、


「今日は休みか」


 扉には閉店中の看板がかかっており、店の中の明かりも付いていなかった。

 どうやら運悪く定休日に当たったようだ。


「さて、どうする?」


 ここで待っていても仕方ない。

 とりあえず、王都の人が殺気立っている原因を突き止めてから、宿を探したいところだが。


「冒険者ギルドへ行くのはどうかしら?あそこなら情報もたくさん集まってるでしょうし」


 マリーがナイスな提案をしてくれた。

 冒険者ギルドに行けば、情報もあるし良い宿屋も斡旋してくれる。良いことづくめだ。


「よし、じゃあギルドへ行くか」


 そうと決まれば、行動開始だ。

 ん?でも王都のギルドってどこにあるんだ、と頭を悩ませたその時


「ひょっとして、ファンタジスタで合った青年じゃないか?」


 短い金髪のイケメン青年が、俺に話しかけてきた。

 どっかでみたことあるな・・・あ!


「そういうお前は・・・ラッセルか?」


 そうだ、間違いない。ラッセルだ。

 俺が興奮するヤギの話を聞こうとメグさんを訪ねた時に、メグさんと駆け落ちしようとしていた男だ。そこでどうすべきかと相談を持ちかけられて、アドバイスしたんだったな。(やたら情報量が多いが真実だ)

 そうか、王都に行くって言ってたもんな。


「はじめ、こいつは誰や?」


 チャーリーが親指でラッセルを指しながら聞いてきた。

 ワイルドな聞き方だな。


「ラッセルって言う、ファンタジスタの服屋で勤めてたメグさんと駆け落ちして、王都に来た青年だ」


 もっと上手いこと紹介できたら良いが、俺の持ってる情報それくらいしか無いからな。


「そういえば、メグさんとは仲良くやってるか?」


 俺が駆け落ちを後押しした感じになってたから、気になってたんだよな。

 俺のその質問に、ラッセルは頭をポリポリとかいて、答えにくそうにしている。

 おいまさか。


「いやー、はっは・・・メグとは別れた」


「「え!?」」


 やっぱり別れちゃったのかよ!

 あれ程、深く愛し合っていたように見えたのに。

 メグさんなんて、貴族の第二夫人っていう身分の高い立場を捨ててまで着いていくほどの想いがあったはず。なんで別れる事に。


「なんで別れちゃったの?」


 俺と一緒に驚いていたマリーが、ラッセルを問い詰めていた。

 マリーもメグさんと知り合いだったみたいだし、気になって当然か。


「なんというか、あの・・まぁ平たく言うと、俺の浮気が原因だな」


「うわ・・」


 ラッセルの浮気発言に、マリーの目つきが汚いものを見るようなものに変わった。

 チャーリーは・・・可哀想なものを見る様な、同情の目でラッセルを見ている。

 うん、まあ浮気したんだから糾弾されて当然か。

 やっぱり駆け落ちなんてするもんじゃないな。今度また同じ相談されたら、全力で止めるようにしよう。


「ラッセル、なんで二股なんてしちまったんだ?」


 マリーとチャーリーは、ラッセルと話をする気がなくなったようなので、俺が次いで質問をした。

 ベロアは恋愛事に興味が無いのかスクワットを始めたので、ラッセルと会話するのは俺しかいない。なんだこの状況。


「二股ではないぞ」


「ん?じゃあ、なんだって言うんだ?ただの友達だったとでも言うつもりか?」


「二股ではなく五股だ」


「ぶっ」


 五股かよ!

 予想外過ぎて変な笑い出たわ!


「五股ってなんだよ!ファンタジスタで語っていたメグへの愛は嘘だったのか?」


 俺が思わず吹いたことで、マリーから冷たい目線を向けられてしまったので、真面目にラッセルを問い詰めることにした。


「いいや、あの愛は真実だった。だが、俺は知らなかったのだ。ファンタジスタでは金持ちがモテたが、王都では収入はそこそこでも顔が良いやつがモテた」


「ほう・・つまり?」


「俺はモテた」


 やかましいわ!


「そこから先は早かったな。色んな女の子と恋をしている間に、恋人が4人増えた。そしてそれがメグに見つかり、一ヶ月前に離婚を迫られた訳だ」


「結局ラッセルが節操無かっただけじゃねぇか」


 こいつ、こんなにダメ人間だったのか。

 メグさんに申し訳ない。二人の駆け落ちを後押ししてしまった末路が、こんなことになるとは。


「メグさんはどうしてるんだ?」


 俺はめぐさんの行末が気になり、ラッセルに聞いてみた。

 願わくば、平穏にそして幸せに過ごしていて欲しい。


「メグなら王都のイケメンシェフと結婚したよ。離婚の時に慰謝料として、家や財産がメグのものになったし、裕福な暮らしをしていると思う」


「それは良かった」


 メグさんが幸せなら何よりだ。

 若干立ち直りが速すぎるような気もするが・・


「メグさんって結構立ち直り早いな。まだ離婚して一ヶ月だろ?」


「ああ。立ち直りが早いんじゃない。メグも浮気してたからな」


「「は!?」」


 どゆこと?

 マリーも衝撃だったようで、目を見開いて驚いている。


「メグも可愛いからな、王都に来てそれはもうモテた。そして、イケメンシェフと商人と俺とで三股をしてたってわけさ」


「えー」


 なんだそれ。

 メグさんを不憫に思ってた感情が一気に吹き飛んだわ。

 お似合いカップルじゃねぇか。


「メグは三股、俺は五股。どちらが悪いかは一目瞭然ってことで、俺は多額の慰謝料を取られたわけだ」


「いや、数の問題ではないようなきがするけど」


 市場のセリじゃねぇんだから。


「家を取られたって言ってたよな。ラッセルは今、どこで暮らしてるんだ?」


 もうメグさんに対する罪悪感も消えてきたのもあって、俺はラッセルの近況が気になってきた。


「あー、今は4人の女の子の家を泊まり歩いている感じだな」


「ヒモかよ」


 王都に来てから凄まじい堕落っぷりだな。


「違う、ヒモじゃない。ちゃんとご飯代とか渡してるし、家事もしてる。そう、いうなれば・・・借りぐらし。王都のアリエッティってとこだな」


「フッ、そんなアリエッティがいてたまるか!」


 ラッセルの生き方が本能に忠実すぎて、もはや面白くなってきてしまった。

 マリーの冷たい目が痛いが、吹き出すのを止められない。


「でも、4股しながらヒモなんてしてると恋人達も嫌がるだろ?流石に」


「たしかに4股のヒモと捉えてしまうと、俺はだめなやつかもしれん。しかし、


 ここで、ラッセルは謎のタメを作って目をカッと見開いた。


「俺はアリエッティとしてはかなり優秀だぞ!」


「アリエッティとしてはってなんだ」


 人間を辞めたのか?


「考えてみろ、俺はキチンと皆にご飯代を払ったり家事をしたりと、借りぐらしなりに役に立ってるわけだ」


「ほう」


「しかし、本家本元のアリエッティなんか借りぐらすだけで1個も手伝いなんてしないだろ?つまり、俺はアリエッティの中ではかなり優秀な方になるというわけだ!」


「ブハハ、こいつ馬鹿だ!」


 ラッセル、こんな面白いやつだったのか?

 芸人になったほうがいいのでは。破天荒だし、向いてるぞ。


 と、ここでマリーが絶対零度の視線で、俺とラッセルのやり取りを見ている事に気がつく。

 まずいな、流石にここらで終わらせておこう。


「まあラッセルの近況はいつかまた聞くとして。ちょっと王都について聞きたいことがあるんだが」


「お、なんだ?大概のことは分かるから、何でも聞いてくれよ」


 そう言って、胸をとんと叩くラッセル。


「ありがとう。王都の人の様子についてなんだが、何だか妙に殺気立ってないか?急いで門の外に出る人とか、大通りを早足でかけていく人を沢山見たんだが」


「え?君たち、知らないのかい?」


 俺の言葉に、ラッセルが驚く。


「おととい、魔王が復活したってお告げが教会からあってね。そして昨日、魔王軍の一番隊隊長を名乗るやつが、王都に宣戦布告に来たんだよ」


「「「え!?魔王」」」


 復活したのか!

 ここ千年は現れていなかったんだろ?なんでこのタイミングで・・・ひょっとして試練か?


「いま王都は、他の都市に逃げる人や、魔王と戦おうと一念発起する人なんかで騒がしくなってるのさ」


「なるほど・・少し変なことを聞くんだが、最近どこかで紫色の雲を見たっていう噂を聞かなかったか?」


「紫色の雲か、どこかで・・・」


 ラッセルは口に手を当てて少し考えた後、思い出したように教えてくれた。


「たしか、魔王軍がいると言われているアシュラ遺跡上空で、そんなのを見たっていう冒険者が居たな」


 ビンゴだ。

 どうやら次の試練は魔王の討伐らしい。

 前はクルーガー王家の危機だったが、今回は人類の危機ってところか?一気にスケールの大きい話になったな。


「おっと、僕もこうしちゃいられない。魔王が現れた影響で、僕が営んでる武器屋にも王国軍から大量の受注が入ってね、明日までに対応しないと処罰されてしまう。これで失礼するよ」


 サッと手を上げて、別れの挨拶をするラッセル。


「分かった。ありがとな、生きてまた会おう」


「ああ、そっちも気をつけて!」


 そうして、ラッセルは大通りの人混みの中へと消えていった。


 しかし魔王軍か。

 ひょっとして、さっき倒した麒麟みたいな魔物も魔王軍関係者だったのかもな。そんな事を口走っていたような気もするし。


「さて、どうしよう?」


 迷った時は相談だ。

 俺は三人に向かって、問いかけた。


「紫色の雲が出たってことは、次の試練で間違いなさそうね。まさか魔王が復活するとは思わなかったけど」


 マリーも俺と同じ意見のようだ。

 やっぱり試練だよな、これ。


「試練が何だかは分からんが、魔王が復活したなら冒険者ギルドで情報貰えるんじゃねえか?」


 スクワットを止めて、そんな助言をくれたベロア。

 そう言えば、ベロアにはまだ試練のことは伝えてなかったな。・・・だが、伝えると危険なことに巻き込んでしまうかもしれないし、今は伝えないでおこう。仲間はずれにしたみたいで少し後ろめたいが。


「冒険者ギルドもええけど、それよりもっと情報が集まる場所知ってるで」


 次いでチャーリーがそんな情報をくれる。

 ギルドより情報が集まる場所か。


「そんなところがあるのか?」


「そや。けど、行くのには予約がいるから、また明日行く事にしよか。はじめ達は宿を取っておいてくれへんか?私は訪問の予約してくるわ」


 予約がいる場所か。

 気になるけど、まぁチャーリーが言うなら任せてしまうか。


「分かった。じゃあ、俺達は宿を探してくるから・・3時間後くらいにまたここで会おう」


「了解や、ほな行ってくる」


 そう言って、チャーリーは大通りの人の海へと消えていった。

 さて、


「俺達も行くか」


「そうね」


「そうだな」


 という事で、俺とマリーとベロアは王都での宿を探すため、殺気立った人混みの中へと戻ったのだった。


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