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駿足の冒険者  作者: はるあき
0章 プロローグ
7/123

006配達のお仕事

11/25誤字修正

「本当に来てくださったんですね!ありがとうございます」


 俺は今、手紙の配達の依頼を受けに冒険者ギルドに来ていた。

 冒険者の装備を買うお金をどうやって稼ごうかと考えていたとき、この配達の仕事を思い出したのだ。というか、数時間前に聞いたのにもう忘れてたって・・俺の記憶力の無さが分かるな。


 ちなみに今話しているのは、朝に俺とマリーの冒険者登録をしてくれた受付のお姉さんだ。名前はリリーと言うらしい。(配達の業務を受けてくれる冒険者さんだってことで興味を持たれたらしく、さっきお互いに自己紹介した)

 マリーと一文字違いでややこしいな。


「ぶっちゃけた話、装備を買うお金がなくて。初心者講習会までに配達で稼ごうかと」


 俺は金がないことを正直に言った。


「あー、冒険者の装備って高いですからね。初心者の方はこの配達でお金稼ぐ人多いんですよ。お陰で私達の仕事が減って助かってます!」


 本当に助かっているのだろう、すごく嬉しそうな顔をしている。


「それは良かったです。でも、手紙の配達の仕事なら冒険者じゃなくてもできそうですけど、暇な人とかに頼まないんですか?」


 例えば、この町にも一定数居たスラムに住む人とか、子供とか。

 手紙を運ぶくらい誰でもできると思うけど。


「それが、身元がはっきりしない人に任せると、手紙を捨てちゃったりするんですよね。その点、冒険者の人はステータスカードで身分が保証されてますし、もし手紙捨てたら犯罪歴がステータスカードに出ちゃいますからね!」


 なるほど、そういう理由があったのか。

 というか最後の言葉やけに強調して言ってたけど、俺は手紙捨てたりしないからね?


「ちなみに、手紙の配達の仕事っていくらで依頼してるんですか?」


「それについては、これから詳しくご説明いたしますね!」


 そう言ってリリーさんは配達のルールや金額設定などについて、細かく教えてくれた。簡単にまとめるとこんな感じだ。

・この国に存在する手紙の配達サービスは2種類で、ギルドが運営しているギルド便と国が運営している騎士便がある。(例外で、速く届けてほしい場合に差出人が冒険者に依頼として出す場合もあるらしいが)

・騎士便は、この国の騎士が運ぶので確実に時間通り届くが、値段が非常に高いため貴族しか使わない

・ギルド便は、届く日は2・3週間程度前後してしまうが、料金が安いため庶民の人はみんなこれを使っている。

・各町にあるギルドには、定期的に他の町から手紙が届く

・町から町への手紙の配達も冒険者が行うが、こちらは魔物に襲われるなどの危険があるので、Cランク以上の冒険者しか受けることが出来ない

・町のギルドに届いた手紙は、各ギルドから各家庭に配達される

・これはどの冒険者でも受けることができる。ただし依頼料は安く、10枚届けるごとに銅貨3枚である。(銅貨は10枚で銀貨1枚なので、つまり10枚届けても日本円換算で300円くらいしかもらえないってことみたいだ)

・この町の人口は4万人ほどいるので、毎日来る手紙の量もかなり多い


 うん、だいたいわかった。つまり、片手剣なんかの武器が欲しい場合は銀貨20枚だから・・・6~700枚くらいも配達しなきゃいけないのか。結構手間かかるな。


「ちなみに、今ギルドにはどれくらいの手紙が溜まっているんですか?」


「少しお待ち下さい」


 そう言うとリリーさんは帳簿のようなものを取り出して、手紙の数を数え始めた。


「えーと、全部で8000枚ですね!」


 多すぎじゃね?


「そんなにあるんですか!?」


「う、これは仕方ないんですよ。冒険者の方は中々配達の仕事受けてくれないし、受付の業務が忙しくて私達も届ける暇ないですし・・・去年ギルドが手紙の配達料を銅貨50枚から銅貨10枚に値下げしちゃって、それで届く手紙の量は何倍にもなって仕事増えたのに、新しい人員を追加してくれないし、お給料も上がらないし。今ギルドは人手不足なんです!」


 なにやらリリーさんがうつろな目でギルドへの文句を言い始めた。

 あまり触れてはいけない部分みたいだな。

 夜に酒でも飲んでる時ならいくらでも愚痴を聞きたいところだが、今は昼でしかもここはギルドの中だ。ギルド長とかに聞かれると面倒なことになりそうだ。


「大丈夫ですよ!俺は足の速さには自信がありますからね!8000通くらい3日で配達してみせます」


 明るい声を出して無理やり話を逸らすことにした。


「ふふっ、それは助かります!」


 そう言ってお礼を言ってくるリリーさん。笑ってるし、本気で信じているわけではなさそうだが。


「じゃあ、ひとまず100通ほどお渡ししますので、お願いしていいですか?」


 そう言うと、リリーさんが受付の棚から大小様々な手紙の束を手渡してきた。

 日本の郵便局みたいに手紙の規格が統一されてないみたいで、皮みたいなものに墨のようなもので字が書いてあるものもあれば、白い紙に暗号めいた記号が大量に書いてあるものなど、バリエーション豊かだ。


 俺が手紙の束を観察していると、リリーさんがギルドの棚からB5サイズくらいの金属板と水晶を取り出して、渡してきた。


「手紙にはギルドが印字した魔法印が刻まれていて、それが手紙の届け先の情報を持っています。手紙をこの金属板にかざすと、届け先の場所が表示されます。どうぞ、試しにかざしてみてください」


 俺は金属板と水晶を受け取って、リリーさんの言うとおりに金属板に手紙を一枚かざしてみた。

 すると、この町の地図と町の東の方に赤い点滅する光が表示された。

 これは便利だな。


「なるほど、これは便利ですね。ただ、この縮尺だと大体の場所は分かっても家まで特定するのは厳しそうですが・・・」


 この町はわりと大きく、端から端までで十数kmはある。俺の足なら距離は問題にならないだろうが、これでだけ大きい町の地図に赤い点で表示されても、どの家を指しているか分かりゃしない。


「それは心配ご無用です。地図の南側のギルドのところに青い点がありませんか?」


 言われて地図を見てみると、たしかに青い点がある。


「この青い点は、その水晶がある位置を示しています。赤い点と青い点が近づくと、自動的に地図が拡大されるので詳しい位置がわかるんです!」


 そう言ってドヤ顔をするリリーさん。可愛らしい人だな。

 しかしこの金属板はめちゃくちゃ便利だ。

 Goo◯leMapみたい。

 住所を覚えて配達してとか言われても困るとこだったし、便利な板があってよかったぜ。

 考えたらこの世界には魔法があるんだから、ひょっとしたら日本の最新技術で作ったものより、よっぽど便利なものがあるかもしれないな。


「便利ですね!これなら大丈夫そうです」


「良かったです。では早速配達をお願いしますね。期待してますよ!」


「任せてください!」


 よし、期待されてることだし、がんばりますか!

 俺は意気揚々と冒険者ギルドから飛び出し、手紙を配達に向かった。



・・・・・・・・



 そして30分後、俺はギルドの受付に戻っていた。


「あ、はじめさん。なにか忘れ物したんですか?」


 受付にいた俺を発見したリリーさんが近づきながらそう聞いてきた。

 うん、まあ普通そういう反応になるよね。


「いや、忘れ物じゃなくて・・・実はもう配り終えちゃったんですよね」


「はいっ????」


 俺が配り終えた事を伝えると、頭から大量のはてなマークを出しながら不思議そうにするリリーさん。

 そして、その顔が徐々に厳しい目つきに変わっていく。


「いや、それはすぐには信じられませんよ。お渡しした手紙の届け先がある、東の区画に行くだけで5kmはあるんですよ。普通に歩いたら行くだけで一時間弱はかかります」


 まあ常識で考えるとそうだ。俺も瞬◯が無ければそのくらいかかっていただろう。しかし、今の俺には神の靴である瞬◯があるのだ。

 瞬◯を履いて本気で走れば、時速140kmで走れる。つまり東の区画まで2・3分で行ける!まあ流石に町中でそんな速さで走ると事故起こすし、半分くらいの速さで走っていたがそれでも5分もあれば到着できる。

 つまり、俺にかかれば30分もあれば配達を終えることができるのだ!


 ちなみに、なるべく人通りの少ないところを通るためにスラムを走っていたが、たまに会う通行人はめちゃくちゃ驚いた動作をしていた、表情はわからなかったが。

 なぜ表情が分からなかったのかというと、速度が早すぎて俺の動体視力では表情までは捉えることができなかったのだ!・・・早く修行とかしないと、いつか事故る気がしてきた。


「足には自信がありますからね!」


 細かいことを説明するのも面倒なので、そう言ってゴリ押すことにした。


「いや、いくら足が速いって言っても限度が・・あ、ひょっとしてはじめさんってエドウィンさんが言っていた、ビックマウスウルフから逃げ切った人ですか?」


 狼から逃げた話はこんなところにも伝わっていたのか。

 まあ、ゴリアがエドウィンではビックマウスウルフは倒せないって言っていたし、そのあたりの説明をするのに俺の話もしたんだろうな。


「ああ、それは俺ですね。逃げ切ったって言っても、町の門まで逃げたら後はあの狼が勝手に門にぶつかって自滅したんだが」


 逃げ切ったって言ってしまうと、足で逃げ勝ったみたいなイメージになってしまうので、訂正しておく。


「いや、少しの間でも逃げれるだけ凄いですよ!ビックマウスウルフって森最速の暴走列車って呼ばれているほど足が早くて、逃げきれる冒険者がいるなんて、初めて聞きましたよ!」


 リリーさんは本当に驚いているのか、口をぽかんと開けたまま固まってしまった。


「まあ、逃げ足には自信がありますからね!」


 俺はドヤ顔でそう言った。


「いや、そこは誇ることでも無いような気がします。」


 落ち着きを取り戻したのか、リリーさんが冷静に突っ込んできた。


「まさか、あの噂の冒険者がはじめさんだったなんて・・・あっ、という事は今ギルドにある8000枚弱のお手紙、本当に全部配達できたりしますか?」


 キラキラした目でそう言ってくるリリーさん。

 そんなに自分で運ぶの嫌なのかな?


「はい、問題ないですよ!取りに戻るのが手間なので、できればまとめて渡してほしいですけど」


 俺がそう言うと、リリーさんは受付の奥から手紙の束を山ほど取ってきた。


「ありがとうございます!では、ここに2000枚ほど手紙があるので、これで あっ」


「どうしました?」


「よく考えたら、こんなにお手紙渡しても持ちきれないですよね?どうしましょう」


 手紙の束を前に悩むリリーさん。


「それなら大丈夫ですよ。収納袋を持っているので、これに入れていきます」


 そう言って俺は、2000枚の手紙の束をすべて収納袋に入れた。


「はー、収納袋までお持ちだったんですね。もう驚きすぎて驚けなくなっちゃいました」


 そう言って、また口をぽかんと開けているリリーさん。一々仕草が可愛い人だな。


「まあ、少し訳ありでして」


「冒険者の人には様々な事情がおありですからね、深くは聞きません」


 真面目な顔に戻って気を使ってくれるリリーさん。

 いや、そんな複雑な事情じゃなくて、単に神様っぽい機械音声からもらっただけなんだが・・・十分複雑か?


「あ、忘れないうちに渡しておきますね。これが先程の依頼料の銀貨3枚です」


 銅貨30枚じゃなくて銀貨で渡してくれるみたいだ。ありがたや。

 しかし、たった30分で銀貨3枚を稼ぐことができるとは。やはり配達は俺の天職かもしれんな!


「ありがとうございます。じゃ、この2000枚もすぐ配達してきますね」


「はい、お願いしますね!どれくらいの時間で戻ってこれるのか、楽しみにしていますよ!」


 そんなこと言われるとタイムアタックに挑戦したくなるな!俺はさっき以上に意気揚々と、冒険者ギルドを飛び出した。

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