060 ブルジロード食堂
「いらっしゃい!何名様?」
イタタコ組合のお姉さんと別れた俺達は、ブルジロード食堂へと来ていた。
ちょうど今、店の中に入って店員に話しかけられたところだ。店員さんは浅く焼けた肌をした黒髪のイケメンだ。このイケメン度合い、エルフかな?
「3人なんだけど、席は空いてますか?」
そう聞きながら店内を見渡すと、結構席が空いていた。
キャパ20人くらいの小さい店といった感じだが、10人くらいのお客さんが料理を食べている。
組合のお姉さんオススメってくらいだから、人気店で順番待ちがあるのかもと覚悟していたんだが・・
「空いてるよ!今ちょうどお昼のお客さんがはけた所だったんだ」
どうやら、タイミングが良かっただけのようだ。
それにしても、この店員はかなりフランクだな。俺も敬語使うのやめようかな?
「お客さんは食材の持ち込みはあるかい?それとも、メニューに有るものを選ぶかい?」
店員さんは白い歯をキラリと見せながら微笑んで、そう問いかけてきた。
肌が黒めだから歯の白さが際立っていて、余計イケメンに見える。イケメンすぎて腹立つレベル。
「食材の持ち込み有りや!カニスターの身とカニスターオイルあるから、フリット作ってくれへんか?」
チャーリーは待ちきれないのか、店員さんの質問に食い気味に答えている。
「オッケー!持ち込みね。それならカウンターの席へどうぞ!目の前で作るから」
そう言って、店員さんは俺達をカウンターの席へと案内してくれた。そして店員さんはそのまま、対面のカウンターキッチンへと入っていった。
ウエイターかと思ったけど、店員さんがシェフも兼ねてるのか?
「はじめまして!私は店長のブルジロードだ
なんと、店長だったようだ。
「今日はカニスターのフリットをご所望だね?オーケー。早速作っていくよ」
「頼むわ!」
チャーリーはよほど楽しみなのか、またしても食い気味に返事をしている。
横のマリーは静かにはしているが、テーブルの上のナプキンを触ったり、おいてある調味料を手にとって見たりと落ち着きがない。
二人とも楽しみにしすぎじゃね?
「おいはじめ、ヨダレたれとるで」
「おっと失敬」
俺は慌ててナプキンで口元を拭った。
・・・まぁ、異世界の美味い料理と聞くと、多少は楽しみになるよね?
「それじゃ、まずはカニスターの身を下処理していきます。カニスターの身はカニスターオイルと塩コショウを揉み込んであげると、旨味が出るんだ」
店長はそう言いながら、俺達が渡したカニスターの身とカニスターオイル・塩コショウを袋に入れてもみ始めた。
ライブクッキングに慣れているからか、店長の喋りが流暢でおもしろいな。ずっと聞いていられそうだ。
「そして、その間にフライパンで炒め物の準備をしていきます。まず、フライパンにカニスターオイルを引いて加熱、そこにニンニクとネギを加えて炒めていきます」
そう言って調味料を炒め始める店長。辺りにはニンニクの食欲を誘う香りと、カニスターオイルのあっさりした植物系の香りが漂った。
メチャクチャ美味そうな匂いだ。
食欲が爆発してきたぜ。
「ネギが茶色くなってきた所で、先ほど下処理したカニスターの身を加えて炒めていきます」
店長はさっき用意したカニスターの身をフライパンで炒め始めた。
辺りにはジュワジュワという音とともに、カニスターの香ばしい匂いが立ち込める。
ヤバい!これは絶対に美味しい!もうこのまま食べたいくらいだ。
「ちょっとオイル足りないかな?」
首を傾げながら、フライパンにカニスターオイルを足す店長。
いや、オイルは足りてると思うぞ。ただでさえカニスターの身はオイル揉み込んであるんだから。
「それじゃ、この炒めたカニスターの身をお皿に取り出して
皿に盛られるカニスター炒め。
美味そう!
「これに小麦粉と卵を付けて、カニスターオイルで揚げていきます」
店長はそう言うと、カニスターの身を一口サイズに成形し、小麦粉と卵をつけた。そしてカニスターオイルで揚げ始めた。
・・・しかしあれだな。ちょっとオイル使いすぎじゃない?ただでさえオイル揉み込んで、オイルで炒めてるんだし、ベチョベチョにならない?
「2分ほど揚げた所で、カニスターのフリットを取り出します」
カニスターオイルからカニスターのフリットを取り出す店長。
フリットはからっと揚がっており、とても美味しそうだ。
「で、これをお皿に盛り付けて、
皿に盛られるカニスターのフリット。
うまそうだ!これで完成だな?
「そこにカニスターオイルを加えちゃいます」
加えちゃうのかよ!
心のなかでそうツッコんだ俺の祈り虚しく、フリットにカニスターオイルをかけていく店長。
更にその上に香草を乗せて、粉チーズをふりかける。
そしてフリットを一つパクっと食べる店長。
・・え、食べちゃった!
店長!それ俺達のフリット!
「うーん・・オイル足しちゃおう」
食べたフリットの味が気に入らなかったのか、更にオイルを足す店長。
「え!?まだ足すん?既にベチョベチョやで?」
思わず突っ込みをいれるチャーリー。チャーリーも俺と同じ疑問を持っていたみたいだ。仲間がいてホッとしたぜ。この世界ではオイリーな料理がスタンダードなのかと邪推しちゃうとこだった。
「はい、これで完成!【カニスターのカニスターオイル仕込みカニスターオイル炒めのカニスターオイル揚げフリット】」
店長はそう言うと、出来上がった料理を載せた皿を俺達の方へと差し出してきた。
カニスターオイルがゲシュタルト崩壊してきたぜ。
ほんとにこれ美味いのか?オイルでベチョベチョになってるが。
「ついにきた~!頂きます!!」
俺とチャーリーが手を出すのをためらっていると、マリーが躊躇せずにフリットを一つ口に入れた。
おお、勇者かよ。
「美味しーー!!!なにこれ!?今まで食べた料理の中で一番美味しいかも!!」
そう言うと、目をぎゅっとつむりながら、足をバタバタさせるマリー。
マリーが食べ物のことで、ここまで感情を前面に出すとは。
相当感動しているようだ。
「じゃ、じゃあ俺も」
「私もや」
マリーのリアクションに勇気をもらった俺達も、カニスターのフリットを口に入れた。
・・・・うおお!何だこれは!?メチャクチャ美味いぞ!
オイルでベチョベチョになってしまったかと思えたフリットは、サクサク感を失っていなかった。さらにもたつく程に油ギッシュになってしまったかと思いきや、カニスターオイルがサラサラしているおかげで、全然油っぽくない。むしろあっさりしているくらいだ!そして、カニスターオイルのサラサラ感にカニスターの身の芳醇な旨味が加わって、メチャクチャ美味い!噛めば噛むほどカニスターの身の旨味とカニスターオイルが出てきて、舌の上を刺激してくれる。
最高の料理だ!
「本当に美味しいな!」
「ありえへん美味さや!なんやこれは!?」
俺とチャーリーは想像を超えた美味さに、思わず叫んでしまった。
「ハハッ、喜んで貰えたようで何よりだよ」
そう言ってキラリと白い歯を見せてくる店長。本当にこの人すごいな。こんなに美味しい料理を作れるなんて。もはや神々しく見えてきた。
カニスターの身をカニスターオイルで揉んでカニスターオイルで炒めてカニスターオイルで揚げた後カニスターオイルをかけてカニスターオイルを追いがけした時はどうなることかと思ったが、いやはや大満足である。
「まだまだたくさんあるから、いっぱい食べていきな」
「「「はいっ!!」」」
こんなに美味い料理ならいくらでも食べれそうだ。
俺達は店長の申し出に、元気いっぱいの返事を返したのだった。




