057 エレファント・カニスター討伐(前半)
今日は少し短めです
「いやっふぅ~~!風が気持ちいいわね!」
ファンタジスタを出た俺達は、フィヨルデ海岸に向けて出発していた。
とりあえずはキリマウンテンの前を通って海に抜けようということで、今はいつもの砂漠道を移動している最中だ。俺は走って移動し、マリーとチャーリーはビックイーグルの剥製に乗り、空を飛んで移動している。
ちなみに、出発前は二日酔いでダウン寸前だったマリーだが、風を浴びることでだいぶましになったようだ。今は気持ちよさそうな声を上げながら、空を飛んでいる。
「頼むからスピードは出しすぎんようにしてや!」
チャーリーは、俺とマリーが競争した時の事を根に持っているらしく、そんなことを言っている。
「それはフリじゃないわよね?」
「ちゃうわ!これ以上速くしたら、どついて止めたるからな」
上空から、そんな楽しそうな声が聞こえてくる。
空を飛ぶのも気持ちよさそうだから俺も同乗して移動したいが、マリーの魔力だとチャーリーと自分を飛ばすので精一杯らしい。チャーリーを走らせるわけにも行かないし(絶対付いてこれない)、俺が走るしか無いというわけだ。
・・・しかしあれだな。
今の程度の速度(多分時速80kmくらい)なら、俺はほとんど疲れずに移動できる。だから楽ではあるんだが・・いかんせん暇だ。
上の二人と会話するには、声を張り上げる必要があるし、このスピードで移動していると、ページがめくれるので本を読むことも出来ない。ひたすら走っているだけである。
「魔物か盗賊でも出ないかな」
「そこ!なに物騒なこと言ってんねん!」
俺の独り言に、チャーリーのツッコミが返ってきた。
意外と聞こえているようだ。
しょうがない、他の時間つぶしの方法を考えるか。
・・・あっ、そう言えば最近ステータスチェックしていなかったな。
この速度なら上半身を固定したまま走れるし、ステータスカードくらい見れそうだ。
ってことで、俺は走りながらステータスカードを収納袋から取り出し、チェックした。
こんな感じだ。
名前:西東はじめ
種族:人間
職業:冒険者 Eランク
LV:36
HP:360/360
MP:360/360
STR:160 [備考:筋力値]
VIT:181 [備考:物理防御力]
AGI:201(×100) [備考:俊敏性]
INT: 32 [備考:魔法攻撃力]
MND: 101 [備考:魔法防御力]
所持スキル:なし
所持魔法:なし
装備品
神の靴:速さのみを追求した神の作りし靴。俊敏性×100。レア度☆10
収納袋:空間魔法が施された袋 ☆3
ガリウスを倒す前と比べると、Levelが12も上がっている。
そりゃアレだけ酷いLevelUpハイになるはずである。
あと気になる点としては、瞬◯の補正を入れると俊敏性が二万の大台に乗っている。どこかで今の最高速がどれくらいなのか、試しておきたいところだ。
「うおお!」
と、ステータスカードを見て楽しんでいた俺だったが、風の当たりどころが悪かったのか、カードが風圧で飛ばされてしまった。
まずいな、回収しないと。
「すぐに追いつくから、先に行っててくれ!!」
俺が上空の二人にそう叫ぶと、チャーリーがサムズ・アップして応えてくれた。
「次からは走行中は何もしないようにしよう」
暇だけどしょうがない。
俺の筋力では、俺の走行速度の風圧を支えきれないからな。
という事で、俺は小走り(時速200km)でステータスカードを回収しに戻るのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「到着したぜ!」
俺はあれから心を無にして淡々と走った。そして一時間後、ついにフィヨルデ海岸に到着した。
あたりを見渡すと、一面青い大海原が広がっている。また、今いる砂浜はかなり大きいらしく、どこまで続いているのかわからないほどだ。こんなにも大きい海岸は初めてきたな。スケールの大きさに圧倒される。
この世界に来て初の海に感動していると、海風が磯臭い香りを届けてくれる。この香り、懐かしいな。どうやら海の匂いや色は、元の世界と同じみたいだ。
・・・まぁ元の世界でも、海なんて数年前に一回行ったきりなんだが。
せっかく異世界とはいえ海に来れたんだ。泳いだりバーベキューしたりして遊びたい所だな。
ちなみに、海が見えてきた時に思わず走る速度を上げてしまったので、マリー達はまだいない。
もう少ししたら到着するはずだが・・
「はじめ~!」
「先走んなや!マリーがスピード上げそうになったやろ!」
噂をするとってやつだ。マリーとチャーリーが上空からやってきた。
「悪い!海が見えてテンションが上がっちまった」
俺が二人に手を振りながらそう応えた。するとその間に、マリーはハイドロの威力と方向を上手く操って、無事に砂浜に着陸した。
いつ見ても、立派な操縦技術である。
「まあ気持ちはわかるけどな。この海岸は中々壮観やな」
ビックイーグルの剥製から降りたチャーリーは、海を見て一言そう言った。海の彼方の地平線を見つめるチャーリーは、感動しているような、何かを確認しているような、そんな複雑な表情をしている。
「海って初めて来たけど、とってもきれいな色してるのね!」
続けてマリーも剥製から降りて、海の感想を伝えてくれた。
マリーは純粋に感動しているらしく、目がキラキラと輝いている。初めての海に心が浮ついているのか、手を目の上にかざしてみたり、砂浜の砂を蹴ってみたりと落ち着きがない。
エルフは山の民って言うし、海がよっぽど珍しいんだろう。
「キレイだよなー。エレファント・カニスターの討伐が終わったら、ちょっと泳いでみたいな」
これだけきれいな海だし、水中の魚とかも見れそうだ。
「いや、海には結構な数の魔物おるから、泳ぐのは自殺行為や」
「魚人族とか、水中でも呼吸できる種族じゃないと厳しいと思うわよ」
なんと、こっちの世界では海で泳ぐことも出来ないのか。
残念。
「じゃ、バーベキューなんかはどうだ?海で魚とか肉とか焼くイベントなんだが」
海での遊びを諦めきれない俺は、バーベキューに最後の望みをかける。
「それなら良いんじゃないかしら。新鮮な海の幸も取れそうだし」
「せやな。今から討伐するエレファント・カニスターも、どうやら中々美味いらしいで」
やったぜ!
バーベキューは出来るみたいだ!
「よし!そうと決まればやる気が出てきたな。さっさとエレファント・カニスターを討伐しちまおう」
早いとこ任務を終わらせて、バーベキューをやりたい。それに、美味しい食材と聞いたことで、余計に討伐意欲が湧いてきたぜ!
「そうしよか!エレファント・カニスターはどこにおるんやろか?」
チャーリーも俺につられてテンションがあがったのか、いつになくやる気を見せている。
「そうねぇ。この海岸、何も無いから魔物が隠れる場所もなさそうなのよね。あるのはあの大きな岩くらいかしら」
そう言ってマリーが指差した先には、家一軒分くらいのサイズの黒い岩っぽいものがあった。
しかし普通のカニだと隠れることが出来そうではあるが、あのサイズの岩に象みたいな巨大カニが身を隠せるとは思えないな。どっか他の所にいるのかね?
そう思って、あたりを見渡して魔物が隠れてそうなところを探してみるが、それらしい場所は見当たらない。
「うーん、やっぱりあの岩くらいか・・ってあれ?」
気のせいだろうか?
さっきまで遠くにあった岩が、少し近くに移動してる気がする。
疑問に思った俺は、じっくりと岩を観察してみた。
すると、普通に見れば気がつかない程度ではあるが、徐々にこちらに近づいてきていることが分かった。AHA体験かよ。
「二人共!あの岩こっちに近づいてきてるぞ」
俺は二人に声をかけて、岩の接近を知らせた。
「岩が近づく?はじめ何言ってるんや、そんなわけ・・・・ホンマやな」
「にじり寄ってきてるみたいで、気味が悪いわね」
二人がそんな感想を述べていると、俺達まで50mほどに迫った瞬間、岩が複数に分裂した!
いや、よく見るとアレは岩じゃなくて
「メチャクチャでかいカニじゃねえか!!」
そう。
俺達が岩だと思っていたものは、子象くらいのサイズがある、デカイカニだったのだ。
初見ではあるが、あれがエレファント・カニスターだろう。
あんなにデカいカニが他にいるとは思えない。
「エレファントカニスターがお出ましのようね!」
「せやな。それにしても数が多いな!二十匹くらいおるやん」
チャーリーが言った通り、分裂したカニはかなりの数だ。
そしてその全てが、散開しつつ俺達を襲おうと向かってきている。
「それじゃ、いつも通りの作戦で行こう!俺が前衛でカニスターを撹乱するから、マリーとチャーリーは魔法で援護してくれ!」
「オッケー!」
「了解や!」
だが、数が多いとは言え、所詮はDランクだ。
一瞬で殲滅してやるぜ!




