048 スーパーソニック
「着いた!」
ファンタジスタを出て約5分。
キリマウンテンの麓に到達した。
最初は数十分かかっていたキリマウンテンへの道のりも、今や5分。随分と速くなったもんだと実感する。
「しかし、まだ音速には程遠いからな」
まだ新幹線より少し速いくらいだ。
前にギルドで見た地図だとここまで約35kmと書いてあったし、今の俺の速さは時速400kmってとこだろう。
空気中の音速は時速1200km程なので、約3倍のスピードアップが必要になる。
「とりあえず、服を脱いでから測ってみるか」
今は服がバタつくときの抵抗で、かなり遅くなっているはずだからな。
俺は服を脱いでパンツ一枚の状態になった。
ちなみにパンツはぴっちりタイプのボクサーパンツのようなやつだ。この世界ではあまり人気がないらしく、そこそこ値が張った。
誰も取らないとは思うが、念のため脱いだ服なんかを入れた収納袋を木の上に隠す。
これで準備完了だ。
「行くぜ!」
俺はファンタジスタへ向けて全力で走り出した。
・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁ、はぁ、はぁ、大体、はぁ、はぁ、はぁ、大体時速700kmってところか」
3分後(自分の頭の中でカウントしているのでおおよそだが)、俺はファンタジスタの城壁付近に到着していた。
やはり服を着ていないと、走るのがすごい楽だ。
空気抵抗がグンと減った気がする。
しかし、このまま走っても1200kmには届かないだろう。
さてどうするか。
これ以上空気抵抗を少なくするためには・・・体毛を全部剃るとか、最終防衛ラインのバンツを脱ぐとかしか方法がない。それは避けたいな。
「フォームを変えてみるか」
今まで俺は中学校の時に習った、大きく手を振って足の回転数をとにかく上げる走法を取っていた。
しかし、世界陸上で走るベンジョン◯ンのフォームを思い出すと、一歩一歩の歩幅がかなり大きかった気がする。
足の回転数をこれ以上上げるのには俊敏性が足りないことだし、俺ももっと歩幅を大きくしたほうが良いのかもしれない。
「歩幅を大きくして走ってみよう」
10分ほど休憩を取った後、俺はキリマウンテンに向けて歩幅を意識しながら全力で走り出した。
・・・・・・・・・・・・
「はぁ、はぁ、いたっ、はぁ、大体時速1000kmってところか」
およそ2分後、俺はキリマウンテンの麓に到着した。
プロ方式の歩幅を大きくする走法にしてから、走る速度が一気に上がった。(最終的に歩幅が10mを超えた)
しかも、歩幅が小さかった時に比べると疲労も少ない。
やはりこれだけの速さになると、歩幅は大きければ大きいほど良いようだ。
と、こうしてフォーム改良により大幅な速度アップを果たした俺だったが、それによってある問題が発生していた。
走行中、足を前に出す時に足が音速を超えてしまったらしく、衝撃波が発生したのだ。
コレがめちゃくちゃ痛い。
実際、今の俺のステータスを確認すると、HPが半分くらいになっていた。
「それに抵抗も凄い増えたんだよな」
そう。
衝撃波が出る時にエネルギーを持っていかれたらしく、走っているときの抵抗が今までの比じゃないくらい増えたのだ。
あれだけ抵抗があったら、これ以上の加速はできないだろう。
さらに歩幅を大きくして、足の回転数を落とす必要があるな。
そうすれば足を動かす速度が減って、衝撃波も抑制できるだろう。
よしっ、次はそこを意識して走るか。
「パンツを履き替えたら、もう一度走りに行くか」
俺は木の上に隠してあった収納袋から新しいパンツを取り出し、衝撃波でボロボロになったパンツを履き替えた。
ついでにポーションを飲んでHPを回復させ、寝転がって体を休ませる。
数分後、俺は完全復活した姿でキリマウンテンの麓に立っていた。(パンツも新品だ)
「よしっ!行くか」
俺は再びファンタジスタへ向けて走り出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・
あれから、ファンタジスタとキリマウンテンを何回も往復しながら、走行フォームの改良に取り組んだ。昼前から訓練を行っていたのに、気づけばもう夕方だ。
キリマウンテンの右には大きな夕焼けが出ている。
綺麗でいつまでも見ていたい光景ではあるが、同時に気温も下がってきたのでパンツ一丁の俺は風邪をひきそうだ。
「はっくしょい!」
寒い。それに筋肉痛になっているのか、全身が痛い。
しかしそのかいあって、俺は最後のランでついに時速1150kmに到達することが出来た!
「あと50kmちょっとだ」
だが、この50kmちょっとを詰めるのがかなり大変だ。
これ以上早く走ろうとすると、足に衝撃波が出てしまうのだ。
空気抵抗が増える上に、今の俺の物理防御力だと体が耐えられない。
魔物を倒して、物理防御力と俊敏性・筋力値を上げる必要があるな。
しかし、それよりも先にやらねばならない事がある。
「パンツ買いに行かねぇと」
今日の修行で、用意していた10枚のパンツが全てぼろぼろになったのだ。
俺はボロボロのパンツをはいた状態で筋肉痛に耐えながら服を着て、ファンタジスタの門へと歩き出した。
ツッコミ不在のはじめ一人修行です。
チャーリーかマリーを連れてくるべきだったか。




