043 クルーガーの王族
「さて、情報を整理しようか」
俺の前には、赤ちゃんを抱きかかえて立つチャーリーと、ベッドに腰掛けたベロアがいる。
カオスな状況になったので、一旦二人を落ち着かせて話を聞くことにしたのだ。
「まず、この嬢ちゃんは誰なんだ?いきなり家に入ってきたけど」
ベロアがそんな当然の疑問を投げかけてきた。
うん、いきなり知らん奴が家に入ってきたら怖いよな。
「こいつは、新しく俺達の冒険者チームに入ったチャーリーだ」
「はじめまして!新メンバーのチャーリーや。よろしく!」
チャーリーは、赤ちゃんを抱きかかえたまま人懐っこい笑顔でそう言った。
「・・そうか。よろしくな」
しかし、勝手に家に入られたこともあって、ベロアは若干の不信感を持っているようだ。
珍しく険しい顔つきになっている。
いや、険しい顔つきしてるとこ悪いんだが、
「で、この赤ちゃんはベロアの子供なのか?」
俺は本題の赤ちゃん問題について切り出した。
「ぴゅ~♪ぴゅ~♪♪」
するとベロアは口笛を吹いて視線を逸らしてきた。
めっちゃテンプレートな誤魔化し方だな!
「いや、それで誤魔化せると思うなよ?」
変顔の件といい、ひょっとしてベロアは俺のこと馬鹿だと思っているんじゃなかろうか?
「まぁまぁ、落ち着けやはじめ。ベロアの兄さんはアパートを持つ資産家で、かつイケメンマッチョや。隠し子の一人や二人・・」
「隠し子じゃないからな!」
チャーリーの助け舟(?)を、強い口調で否定するベロア。
隠し子じゃなければ何だって言うんだ?
「じゃあ誰の子供なんや?」
俺が思っていることを、チャーリーが聞いてくれた。
「・・・それは分からん。実は二週間ほど前、家の扉の前にカゴの籠と一緒に置かれていたんだ」
これが籠に入っていた手紙だ、とベロアは一枚の手紙を俺達に見せてくれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ベロアへ
あなたと血の繋がった子供です。
大切に育てて下さい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「隠し子じゃねえか」
「隠し子やんけ」
思わず声を揃えて突っ込む俺とチャーリー。
「違うんだ!ほんとに身に覚えがないんだ!」
即座に否定してくるベロア。
だが、
「なら何で育ててるんだ?」
そもそも心当たりが無かったら、警察か何かに届けるだろう。
この世界に警察的な機関が存在するかは知らんけど。
「いや、心当たりは本当に無い!そもそも引きこもりだしな。最初は衛兵のところに行って、引き渡そうかと思ったさ。でも、こいつの面倒を見ているうちに段々可愛くなってきてな・・・衛兵に引き渡したら、孤児院行きになって貧しい生活を送ることになっちまう。どうしたもんかと悩んでいたんだ」
ベロアは俺達の目を見て、そう訴えてきた。
いつになく真剣な顔をしているし、本当に隠し子じゃないのかもしれない。
ってことは、只の捨て子なのか?
「可愛くなったゆうんは、気持わかるわ。赤ちゃんがこんなに可愛いとは思わんかったわ」
そう言ってチャーリーは、赤ちゃんのほっぺたを指でツンツンし始めた。
幼女が赤ちゃんをあやしている姿というのは、中々癒やされる光景だな。
俺はチャーリーの腕の中にいる赤ちゃんの顔を覗き込んで、じっと見てみた。
ふむ、改めて見てみると確かに可愛い赤ちゃんだ。
ほっぺたは肌色でつるつるぷにぷにしている。
頭ともみあげには茶色い毛がついていて、熊耳のようなものを携えていて凄く可愛い。どうやらベロアと同じく熊の獣人らしい。
目鼻立ちはくっきりしていて、将来イケメンになりそうだ。目の形とか顔の作りはベロアに似ているな。
そして、体長で判断するとまだ1歳くらいの赤ちゃんのはずなのに、肩とか腕に結構筋肉がついていて角ばっている。特に上腕二頭筋とか異常に発達しているな。
・・いや
「本当にベロアの子じゃないのか?」
「だから違うって言ってるだろ!」
俺が再び疑問を投げかけると、ベロアもまた強く否定してきた。
真剣な様子だし信じてやりたいが、手紙といい赤ちゃんの見た目(筋肉)といい、状況証拠が揃いすぎていてイマイチ信頼しきれないな。
「俺は隠し子が居てもベロアの事は嫌いにならないぞ?」
「そうやで。なんやったらモテる証拠やし、堂々としたらええやん」
「だから違うって!!」
完全に疑ってかかっている俺達と、否定するベロア。
このままじゃ議論は平行線だな。
と、そんな事を話していると、ふいに左の頬がピリつくような感覚がした。
なんだ?
気になって左を向くと、窓の外からこちらを見ている黒のローブを着た怪しい奴がいた!
「誰だ!?」
俺がそう声をかけると、ベロアとチャーリーも窓を見た。
そして一寸遅れて、窓の外から見ていた黒ローブは下へと消えていった。逃げたな!
「俺から逃げられると思うなよ!!」
俺はそう言って、部屋の隅にあったベロアバンドと書かれた謎のロープを持って窓を開けて外へと飛び出した。
飛び出した瞬間にベロアの方を見ると、ロープの端を握ってくれていた。
どうやら、意図は通じたようだ。
「よっと!」
俺はロープにぶら下がる形で二回ほど壁を蹴って、地面へと降り立った。
周りを見渡すと、50m程先に黒ローブの姿が見えた。
この距離なら余裕で追いつけるな。
「待て!」
俺は全力で黒ローブを追いかけた。
「な!?」
俺の余りの足の速さに驚いたのか、一瞬固まった黒ローブだったが、すぐに逃走を開始した。
だが、
「まったく速さが足りてないぜ!」
俺はもう黒ローブの真後ろまで迫っていた、そして。
「確保!!」
そのままの勢いで、黒ローブの腰にタックルをかました!
「ぐほぁ!」
悲鳴を上げる黒ローブ。
そして、
「おおおおおおお」
タックルのスピードが乗りすぎていたせいで、スピードを殺しきれずに黒ローブと一緒に地面を転がってしまう。
目が回るーー!!!
数十回は回転しただろうか。
ようやくタックルの威力も収まって、俺と黒ローブは停止した。
「ふぅ、ようやく止まったか」
少し勢いをつけすぎたな、反省。
俺は立ち上がって、黒ローブの動きを伺う。
だが微動だにしない。
どうやら気絶しているようだ。
「一体こいつは誰なんだ?」
タイミングから言って、あの赤ちゃんと関係がありそうだが。
ベロアの家に連れて帰って尋問してみるか。
尋問ってどうやればいいんだ?刑事ドラマでしか見たことがないが。
「はじめ、捕まえたのか?」
「さすがの足の速さやな」
と、俺がどうやって尋問するかを考えているとベロアと赤ちゃんを抱いたチャーリーがやってきた。
「ああ。気絶しちまったみたいだけどな」
そう言って、俺はうつ伏せで横たわっていた黒ローブをひっくり返した。
すると、フードがはだけて顔があらわになった。
髪の長い女の獣人で、熊耳がついている。
顔が小さくて、幼さの残る可愛らしい感じだ。
随分若く見えるが、ひょっとして赤ちゃんの母親なのか?
「ん?そのローブに付いてるマーク、クルーガー王家の印章やないか?」
チャーリーが珍しく真剣な顔つきで、そう指摘してきた。
クルーガー王家?
そんなに偉い人だったのか。
全力でタックルしてしまったが大丈夫だろうか?
いや、怪我をさせたわけじゃないし、まだ弁明すれば何とかなるか?
この人が王家の血族か、王家の使用人なのかで変わってきそうだな。
「ベロアは何か知っているか?」
そう言いながらベロアの顔を見ると、呆然とした表情で一言呟いた。
「メロアが何故ここに?」
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