003はじめてのギルドへ
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「はっ」
いかん寝てた!
・・・いや、寝てても良いんだった。
周りを見渡すと、床の上に昨日着ていた服が脱ぎ散らかされていた。たぶんベッドに入る直前に脱いだんだろうな。全く記憶にないが。そして、何故か全裸の状態で瞬◯を抱いて寝ていた。
意識は無かったが、本能でこれが一番大事だということを判断したらしい。
やるな俺。
「はじめさーん、もう朝ごはん食べられますよ! ガチャ・・ガチャン」
扉の方から声がしたので振り向くと、既に扉は閉められていた。うん?今のはルリちゃんかな?
随分と慌てて扉を締めていたが、急いでたのかね。
ふと、机の横にある姿見を見ると、そこには全裸で靴を抱きしめている変態が居た。
「なるほどね」
完全にルリちゃんに変な奴だと思われたな。朝ごはん食べに行った時に会えたら誤解を解きたい。
そう思って下の食堂にご飯を食べに行ったが、ルリちゃんのお母さんと思われるおばちゃんしかおらず、ルリちゃんには会えなかった。残念!
その後、そのおばちゃんに頼んで昨日の夜入り損ねた風呂に入らせてもらい、ギルドへ向けて出発することにした。
宿を出ると、まだ朝早いのに通りは人で埋め尽くされていた。むしろ日が沈みかけていた昨日よりも人が多く、道を知らない人だと迷ってしまいそうだ。
しかし、俺には昨日エドウィンから貰った宿から冒険者ギルドまでの地図があるので心配ご無用だ。エドウィンさまさまだな。
「安いよ安いよー!今日はエレファントシャークが銀貨4枚だよ!」
「バラフィン肉のセールやってるよー!ブロックで銀貨3枚!」
今日も魚屋と肉屋が威勢よく商品を売り込んでいた。
肉屋が言ってるバラフィンってのは魔物だろうか?名前から姿形が想像できないな。
昨日と同じようにブラブラと通りを見ながら歩いていると、冒険者ギルドの茶色い建物が見えてきた。
そろそろ、ギルドに着いたときの動きをシミュレーションしておかないとな。小説なんかのテンプレだと、怖そうな先輩冒険者が絡んでくるはずだからそれをどう切り抜けるか・・・
「ドロボー!」
俺が先輩冒険者への対処法を考えていると、横の路地から若い女の声が聞こえてきた。見ると、長い耳をした金髪の女が、カバンを持って逃げる背の低い男を追いかけていた。どうやらひったくりに会ってしまったようだ。
「待ちなさい!」
「待てと言われて待つやつがいるか!」
そんなことを言い合いながら、逃げる男と追いかける女。逃げている背の低い男は、レベルが高いのか俊敏性が高いのか、かなり足が速い。おそらくあの女では追いつけないだろう。
ひったくり犯を捕まえてやろうとも思ったが、俺では追いつけることが出来ても、捕まえられるか分からんからな。Lv1のゴミステータスだし。
この町にも警察のような役割をする人がいるだろうし、放っておけばいずれ捕まるだろう。
「ええい、すばしっこい奴め!追いついたら魔法で丸焼きにしてやるわ!」
「ヘッ、追いつけるわけ無いだろ!俺は魔の森の奥にある村で一番足が早かったんだぜ!」
何だと!
それは俺の設定じゃないか!
「待て!そこのどろぼう!」
作戦変更だ。俺は全力でひったくり犯を追いかけることにした。
足に思いっきり力を込めて、足の回転数を上げていく。俺の履いている神の靴のお陰で、それだけで時速140kmまで超加速できる。
数秒後には、男を追いかけている女に追いつくことが出来た。
「助太刀するぜ!」
俺は女を追い抜きながらそう声をかけた。
「ありがと・・ってはやー!!」
何やら随分後ろの方で女の驚く声が聞こえる。ふっ、俺が早すぎるせいで会話が成り立たなかったぜ!
更に数秒すると、ひったくり犯の背中が見えた。もう逃げ切ったと思っているのか、若干スピードを落としている。さて、追いついたのは良いが、ここからどうするか。これだけの俊敏性を持つならLvもそこそこだろうし、俺が戦って勝てるとは思えない。
・・・よし、これしかないな。
覚悟を決めると、俺はひったくり犯を抜き去ると同時に、持っていたカバンをひったくった!
「うおっ、待ちやがれドロボー!」
俺にカバンを盗られた事に気づいたのか、ひったくり犯がそんなことを言いながら追いかけてきた。
「誰が言ってんだ!」
ひったくり犯にひったくり呼ばわりされるとは。人生初の経験である。
「俺に追いつけると思うなよ!」
そう言って俺は更にスピードを上げて町中を全力で駆け巡った。
十秒ほど走るとギルドの近くまで来ていた。
振り返ってみると、追いかけてきていた男は見えなくなっている。
「ふう、なんとか逃げ切ったな」
やはり神の靴は凄いな。たとえゴミステータスの俺でも、どんなやつからも逃げることができる。順調にレベルを上げていけば、それこそ本当に魔王からでも逃げられるんじゃないか?
「魔王など恐るるに足らんな!」
「あんた何いってんの?」
声がした方を振り返ると、さっきカバンをひったくられていた耳の長い金髪女が居た。よく見ると、上品で高そうなワンピースを着ている。
スレンダーでモデルのような体系をしており、顔が小さいのも相まって10等身だ。髪は金髪で肩まで伸ばしてあり、毛先をくるくる巻きにしている。まつげが長く、顔がめちゃめちゃ整っている。これだけ美人で耳が長いということは、エルフだろうか?
「カバンを取り返してやった恩人に、その態度は無いんじゃないのか?」
独り言を聞かれた恥ずかしさをごまかすために、俺はそう言いながら取り戻したカバンを掲げた。
「うわっ!本当に取り返してくれたんだ!」
そう言って、俺の手からカバンを受け取るエルフ(仮)。カバンを抱きしめてとても嬉しそうにしている。よっぽど重要なものが入っていたんだろうか。
「ありがとう!この中には村で貯めた私の全財産が入っていたの!」
どうやら大金が入っていたようだ。もうちょっとこう・・大事な思い出の品とかかと思ってたぜ。
「気にするな。気まぐれで追いかけてきただけだ」
「そんな、謙遜しなくても良いわよ。あの男に追いつけるくらいだから、相当レベルの高い冒険者なんでしょ?あれ、そういえばあの男はどうしたの?」
そう言って、あたりをキョロキョロ見る金髪エルフ(仮)。この様子だと、俺がカバンを取り返したシーンは見ていないようだな。
「あの男がどうなったかは知らん。俺はあの男からカバンをひったくってきただけだからな」
俺はドヤ顔でそう言った。
「いや、そこでドヤ顔をされても・・・なんで捕まえなかったの?」
「俺の強さだと普通に負けそうだったからな!逃げ足には自信があるが、戦闘力はまったくない!」
俺がそう言うと、エルフが驚いたようで目を見開いた後に
「アハハハハハハ!じゃあ、あの男からカバンを取り返した後、逃げてきたの?」
大爆笑しながら金髪エルフがそう聞いてきた。
笑いすぎじゃね?
「ああ、そうだ!俺に逃げられない相手など居ない!」
「あんた面白いわね!今まで会ってきた人間の中で一番面白いわ!」
どうやら高評価をいただけたようだ。おもしろ人間としてだが。
金髪エルフはひとしきり笑った後、俺に手を差し出してきた。
「私の名前はマリアンヌ。気軽にマリーって呼んでちょうだい!」
「俺の名前ははじめだ。はじめでもファーストとでも、なんでも呼んでくれ。」
そう言って、俺達は握手を交わした。
これが今後長い付き合いになる、俺とマリーとの出会いだった。