032 魔法学校での講習
「はっ!」
いかん寝てた!
・・・なんかまた覚えがあるぞ、この展開。
周りを見渡すと、床には俺の服が脱ぎ散らかされていた。俺がやったんだろうけど全く思い出せない。
あと、頭痛い。
昨日どうやってここに帰ってきたのか、全然思い出せない。
とりあえず、昨日魔法学校の講師の依頼を受けてギルドを出た時くらいから、順を追って記憶を思い出してみるとしよう。
昨日はあれから、マリーと一緒にEランク昇格のお祝いをしていた。
もはや常連となった宿の居酒屋で乾杯を何度もしながら飲んでいると、メニスが俺の渡した接客マニュアルについて聞きたいことがあるとかで、宿まで尋ねにきた。
そこで俺達がEランク昇格したことを伝えると、メニスも祝いたいと言ってくれたので一緒に飲もうという流れになり、ついでにベロアも呼んで4人で飲んでいた。メニスは酒弱いみたいであんまり飲んでなかったが、ベロアはかなり強いらしく樽ごとワインを飲む勢いだった。樽からワイン飲む時に一々スクワット姿勢で持ち上げて筋トレしてたのには笑ったが。
最終的にはゴリアやガウディ、リリーさんなど、いつものメンバーも加わって、完全に宴会になっていた。面白かったなー。
ゴリアやガウディからは先輩経験者として、ランクが上がったときのアドバイスや心構えなんかを色々聞いた気がするが、いかんせん泥酔していたので全く覚えていない!
また機会があったら聞いてみよう。
それで、なんやかんやあって深夜三時頃にお開きになった。そこで、俺は机に突っ伏して寝ていたマリーを部屋まで送った。
そこで俺の記憶は途絶えている。
うん、大体わかった。
その後、部屋に帰った俺は服を脱いで、ベッドにダイブしたのだろう。
それを証明するように、俺はいま全裸の状態で瞬◯を抱いたまま寝ている状態だ。
・・・まずいな。このパターンは覚えがある。
初心者講習合格祝いの時と同じ状況だ。あのときは全裸の状態をルリちゃんに見られたんだった。
ふっ、だが俺は慌てないぜ。
あの時は、焦って着替えようとしてベッドから出たのがまずかったんだ。
ベッドの中にずっと入っていれば、ルリちゃんが来ても俺の全裸を見られることはない。つまりノーダメージ。完璧ってやつだ。
【コンコン】
お、しかも今回はルリちゃんがノックまでしてくれている
ルリちゃんも前回を踏まえて学習してくれてるな。
「どうぞー」
【ガチャ】
「はじめさーん、もう朝ごはん食べ・・キャッ【ガチャン】」
ん!?ルリちゃん扉閉めて帰っちゃったぞ。
何があったんだ?
しかも今回は扉閉めるまで若干の間があったし。顔を赤くしていた。
確かに今は上半身は裸の状態でベッドから出ているが、こんな事で照れはしないだろう。上裸で歩いている人なんてそこら中にいるし。
・・・分からんな。
とりあえず、毛布を畳んで服を着て下に降りるか。
そこでルリちゃんに聞いてみよう。
「じゃあ、まず毛布を・・・何か毛布重いな」
ふと抵抗を感じた俺は、ベッドの右隣のポジションを見てみた。
するとそこには、毛布を握りしめて全裸で寝ているメニスがいた。
「お前のせいか!!」
謎は全て解けたぜ!
真実はいつも一つ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「って言うことがあったんだよ」
「朝から何やってるのよ」
呆れた目でマリーにツッコミを入れられてしまった。
「それで、それからどうしたの?」
「時間確認したら、マリーとの待ち合わせ時間直前だったから急いで着替えて来たんだよ」
「え。じゃあ何でメニスが隣で裸のまま寝てたのかって謎は、解決しないまま来ちゃったの?」
「ああそうだ。ちなみにマリーは昨日何があったか覚えてないか?」
俺はほとんど記憶ないからな。
マリーが覚えてくれていると助かるが。
「私も昨日は相当酔ってたから覚えてないわね・・はじめに部屋まで送って貰った事はうっすら覚えてるんだけど」
「それじゃ俺と同じくらいだな」
二人とも分からんとは。
「まあ、帰ったらメニスに直接聞いてみよう。あいつも相当酔ってたから覚えているかは分からんが」
「下手すると迷宮入りね」
「たしかに」
まあ解決しなくても良さそうな問題ではあるが。
「それより、今日の魔法講習に意識を切り替えよう。もうどんな事を教えるかって決めたのか?」
たしか魔法の実技と基礎理論だったよな。
実技はまあ分かるが、理論は想像がつかないな。ギルド長が教えてくれた時は使い方重視で理屈は教えてくれなかったし。
「そうね。基本的には私が姉さんから習ったことをそのまま教える予定よ」
ちょっと図書館で調べたことも追加するけど、とマリー。
もう準備ができているみたいだな。これなら安心だ。
っと、そんな話をしていたらもう魔法学校が見えてきた。
魔法学校はファンタジスタの中心部にある学校で、見た目は白い石造りの城で中世の王様とかが住んでいそうな佇まいだ。魔法学校って聞いて、勝手に薄暗いイメージを持ってたから、ギャップがめちゃくちゃあるな。
ここには貴族の子供や魔法の適性が高い平民の子たちが通っているらしい。貴族の子供はコネ入学で、平民はペーパーテストと魔法の適性試験をクリアしたものだけが通えるようだ。
日本で言うとお嬢様学校的な感じなのかね?
「あのデカイ門から入れば良いのかな?」
「たぶんそうじゃないかしら?」
魔法学校の入り口には、白い両開きの巨大な門があって二人のいかつい甲冑を着た門番が立っている。
多分ここで手続きをすればいいはずだ。
門の方へ近づくと、門番の一人がこちらへ向かってきた。
「ファンタジスタ魔法学校へ御用ですか?」
「冒険者ギルドの紹介で、臨時講師としてきました。これが証明書です」
俺はリリーさんに貰ったファンタジスタ魔法学校入校許可書を門番へ見せた。
「臨時講師の方ですね。伺っております。こちらへどうぞ」
そう言って門番の人が学校の中へと案内してくれた。
さすが貴族とつながりが深い学校だけあって、門番の対応もしっかりしているな。
「(なんか思ってたより堅いところね)」
「(そうか?有名な学校の門番ならこんなもんじゃないか?)」
俺達は小声でそんな会話をしながら、門番に着いていった。
校内にはさっき遠目で見た城のような建物と、だだっ広いグランドがあるだけのシンプルな作りをしている。
日本の学校のイメージと近い。
グランドの端の方に椅子と黒板が置いてあるスペースがあるから、魔法の授業はあそこでやるのかな?
そんなことを思っていると、門番がそのスペースに案内してくれた。
どうやら予想は当たっていたようだ。
「こちらのスペースで少しお待ち下さい。火魔法の担当教官を呼んでまいりますので」
「分かりました」
俺達がそう応えると、門番は敬礼した後、城の方へと走っていった。
ほんとしっかりしてる。
「今のうちに授業の準備しちゃうわね。収納袋から魔術書と杖を取り出してくれるかしら?」
「おっけー」
俺は言われた通りに収納袋から杖などを取り出した。
魔法の事は詳しくないし、今日は一日マリーの言うことに従おう。
「ありがとう。今日は最初に黒板で魔法の理論、特に詠唱の部分の解説をして実技に移る流れで行こうと思うわ」
「オッケー・・詠唱に理論なんかあるのか?」
てっきり適当に詠み上げてるだけかと。
「あるわよ。魔法大学とかでも詳しく研究されてて、今一番ホットな分野なんだから」
「そうなのか」
というか魔法を研究してる所があったのか。
この世界、ファンタジーなはずなのに、しれっとリアルな言葉が出てくるよね。
「あなた達が冒険者ギルドから派遣された講師の方かな?」
声がした方を見ると、長い帽子をかぶって白い立派な髭を蓄えた、威厳のあるおじいさんが立っていた。
身長が2m近くあるのと、顔つきが怖いのが相まって風格が凄い。
「そうです。はじめまして。Eランク冒険者のマリアンヌです」
「同じくEランク冒険者のはじめです。よろしくお願いします」
いつも以上にキチンと挨拶をする俺とマリー。
うん、風格ありすぎて絶対タメ口とかきけないよね。
「私はこの学校で火魔法と土魔法を教えている、パリスという。こちらこそよろしくお願いする」
やっぱり学校の先生だったみたいだ。
風格が校長先生だったから、講師ってことには驚いたが。
「マリアンヌというと、エリーの妹さんかな?」
「はい!エリーは私の姉です!ご存知でしたか」
「おお。知っているとも。彼女は少し前までここで火魔法と風魔法を教えてくれておったからな。仲間とともに修行の旅に出ると言ってファンタジスタを発って以来、会ってはおらんかったが」
ここでもマリーのお姉さんは有名らしい。
マリーの方を見ると、真面目な顔をしようとはしているが顔が少しニヤついている。身内を褒められるのって嬉しいよね。
「エリーについてはまだまだ話したい事もあるのじゃが、あと5分程で授業が始まってしまうんでな。まずは今日の流れを説明してよいか?」
「はい。お願いします」
表情をキリッとさせて応えるマリー。
教師モードに切り替えたようだ。
「まず、今日は火魔法の理論を少しやって、実技練習を指導してもらう。今日指導してもらうのは学校に入りたての下級生じゃから、簡単なもので頼む。実技も下級魔法のフレアかポイズンくらいでよかろう」
ポイズンって毒の魔法っぽいけど、火魔法なんだな。
カテゴライズが謎だ。
「わしは後ろから見ておく。基本的には手伝わんからそのつもりでおってくれ」
これはリリーさんに聞いてたとおりだな。
今日の授業の評価が高ければ継続して依頼が来るっていう。
「なにか質問はあるかな?」
「特に無いです」
「俺もだ」
「よしわかった。それじゃ、早速授業に入ってもらおう。ちょうど生徒たちが来たみたいじゃしな」
校舎の方へ目をやって、そう言ったパリス。
その視線の先を追ってみると、20人くらいの子どもたちが校舎からグランドを横切ってこちらへ向かっていた。
今日の生徒たちはあいつらか。
「「「「「「「「「「「「「「おはようございます!」」」」」」」」」」」」」」」
「おはようございます。今日はよろしくね」
「お、おはよう。」
生徒たち声がデカイな!
あと声があまりに揃っいてるもんだから、びびったぜ。挨拶噛んでしまった。
俺がそんな事を思っていると、生徒たちは慣れた様子で席に座り始めた。
年齢は日本で言うと小1くらいだろうか。
まだまだ背も低く、幼い子達だ。
「それじゃ、授業を始めます。私は冒険者ギルドから臨時講師できたマリアンヌです。あと、」
俺に目配せをしてくるマリー。
「俺もギルドから来た冒険者ではじめという。授業では補助をするからよろしくな」
「「「「「「「「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」」」」」」」」」
でけえよ、声が。
「うん、よろしくね。では早速だけど、今から魔法詠唱の理論について教えていこうと思います」
マリーはそう言うと、魔法詠唱について講義を始めた。
マリーは教えるのに慣れていないせいかたまに言葉に詰まったりもしていたが、生徒に質問したりして退屈させない教え方だったので、授業は盛り上がっていた。
習ったことはこんな感じだ。
・4大魔法(火・風・土・水)のうち、火魔法が一番威力が高く、攻撃に適した魔法である。
・よって将来冒険者や騎士を目指すならこの魔法を学ぶべきである。
・魔法の詠唱は基本的には教本に乗っているものを使うのがベスト。(教本には先人の研究の中で効果が最も高く、詠唱が短かったものが載っているからだ)
・しかし、まだ詠唱理論は確立されていないので、教本の詠唱よりも効果が高いものがあるかもしれない
「さて、それでは今日は攻撃対象に毒を与えるポイズンの魔法を例にとって、いろいろな詠唱を試して見たいと思います」
そろそろ実技に入るみたいだ。
「まずは教本にある詠唱からいきます。先生の後に続いて詠んでね。【混沌のかなたから漆黒の毒を引き出し放て・ポイズン!】」
「「「「「「「「「【混沌のかなたから漆黒の毒を引き出し放て・ポイズン!】」」」」」」」」」
なんか日本に居た頃の英語の授業を思い出すな。
何人か照れて詠唱してないところも含めて、すごい見覚えがある。
「良いですね!しっかりと発音することが大事だから、照れずに言おうね!」
そう言って生徒たちを見渡した後、俺の方をチラッと見てくるマリー。
え!?俺も言わないとダメなの?
「じゃあ次は私が考えた詠唱を言うからね。威力は落ちるけど詠唱が少し短くなるから、良かったらこっちも覚えて帰ってね【魔界の地獄谷から漆黒の毒を射出しろ・ポイズン!】」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「【魔界の地獄谷から漆黒の毒を射出しろ・ポイズン!】」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「魔界の、えー、漆黒の、えーっと、ポイズン!」
こんな小難しくて恥ずかしい単語、一瞬で覚えられるか!
生徒たちは凄いな。
こっちの世界では馴染みのある単語なのか?
地獄谷って何さ。
「みんな上手ですねー!それじゃ次は、実際に手に魔力を込めてこの魔法を使ってみたいと思います」
お。ついにデモンステレーションか。
「(はじめ、収納袋から魔法の威力計測水晶出してくれる?)」
「(おっけー)」
俺は事前に言われていた通り、威力計測用の水晶を取り出した。(冒険者ギルドからのレンタル品だ)
見た目はただの黄色の水晶だが、この水晶は当たった魔法の威力が大きいほど強く発光するという特性を持っているらしい。
俺はグランドの中心あたりにこの水晶を設置した。
生徒が多いので、4mおきの等間隔で十個ほどおいた。
「では、実際にこの水晶に魔法をぶつけて検証していきます。まずは私がやるので見ていて下さい」
そう言ってマリーは魔力を手に込めた。
「【混沌のかなたから漆黒の毒を引き出し放て・ポイズン!】」
詠唱に合わせてマリーの手から黒い液体が放射状に飛び出した。
水晶に攻撃が当たると、水晶が光り輝く。
光量としては、少し眩しい自転車のライトくらいだ。
「今の光量を覚えておいてね。では次は私のオリジナルでいきます。【魔界の地獄谷から漆黒の毒を射出しろ・ポイズン!】」
今度も詠唱に合わせてマリーの手から黒い液体が飛び出した。
量だけで言うと、さっきと変わらないように見えるが・・・
今度も水晶に攻撃が当たると、水晶が光り輝いた。
しかし、光量がさっきよりも少ない。なるほど、コレが詠唱の影響ってやつなのか。
「光の量から、私の詠唱の方が少し威力が少ない事がわかったと思います」
「ほんとだー」
「詠唱の内容って重要だったんだな」
「俺もやりたい!」
実際の魔法を見て、生徒たちが盛り上がっていた。
かくいう俺も詠唱による威力の違いを見てテンション上がってる!
まさか言葉の違いだけで威力に差が出るとは。
「それじゃ、皆で詠唱してやってみましょう!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
元気の良い返事をした生徒たちは、一斉に魔法の練習を始めた。
魔法学校に通うだけあって、皆ちゃんと魔法を出せている。ウォーターボールしか出せない俺より全然優秀だな。
20分ほどたつと、教本とマリースペシャルの詠唱に飽きたのか、思い思いの言葉で詠唱し始めた。
しかし、流石に自分でオリジナルの詠唱を編み出すのはハードルが高かったのか、威力の高い詠唱を思い付いた生徒は居ないようだ。
「ふふっ、威力の高い詠唱を見つけるのは難しいでしょ?でも、もし見つけられたら魔法大学総会で発表できる程の成果だから、研究者になりたい人は頑張ってみてね」
マリーがそう言うと、一部の生徒たちがより力を入れて色んな詠唱を試し始めた。その目はキラキラと輝いている。
この世界では研究者の人気が高いようだ。
一生懸命に詠唱する生徒たちを見回っていたマリーだったが、あらかた指導し終わったのか、俺がいるほうへ歩いてきた。
「お疲れ様」
そう言って、俺は水が入った水筒を手渡した。
「ありがとう。まだ完全には終わっていないけどね」
マリーはそう言って水筒を受け取って、口をつけてごくごくと飲み始めた。
魔法の詠唱で相当喉が渇いたみたいだ。
「ふぅ、一息つけたわ。ここの生徒は熱心に話を聞いてくれるから授業しやすいわね」
「そうだな。みんなやる気に満ち溢れた目をしてるもんな。オリジナルの詠唱を生み出そうとしてる子もたくさんいるし」
俺が小学校の時は、学校の勉強とか罰ゲームくらいに思っていたもんだが。
「はじめも何か試してみない?思い付いた詠唱教えてくれたら、私が魔法打つから」
「そうだな・・・じゃあこれで」
俺は思い付いた詠唱を羊皮紙に書いて、マリーに渡した。
「ほい・・・不思議な詠唱ね」
マリーは羊皮紙を見て怪訝そうな顔をした後、水晶がある方へ向かっていった。
どうやら試してくれるらしい。
「それじゃいくわよ・・【言いたいことも言えないこんな世の中じゃ・・ポイ◯ン!】」
マリーがそう詠唱した瞬間、どす黒い液体がマリーの手から洪水のように流れ出した!
放たれた毒はとんでもない量で、置いてあった10個の水晶全てを飲み込むほどだった。そして
「うそっ!?ほんとに?」
10個ある水晶の全てが、今までで一番大きな光量で輝いていた。
「まじかよ・・・」
ほんのギャグのつもりだったんだが。
マリーも生徒たちもポカーンとしている。
「なんじゃと!これは大発見じゃ!」
声がした方を見ると、パリスが飛び出るほど目を見開いて驚いていた。
いや、大発見って。
「マリアンヌ殿、これは一体どんな詠唱をしたんじゃ?」
すごい迫力でマリーの方へ詰め寄るパリス。
焦るマリー。
「いや、私ははじめの言ったとおりに詠唱しただけだから」
マリーがそう言うと、パリスがこっちに猛ダッシュしてきた。
こっちにパスしよった!
「はじめ殿ぉぉ!あれはどういった詠唱なんじゃ?教えてくれ!!」
「いや、どういったって言われても。この世に対する毒を吐いたというか」
詳しい話は反◯に聞いてくれ!
「こうしちゃおれん!これは大発見じゃ!!他の先生や上級生にも知らせねば。しばし待っておれ」
興奮したパリスはそう言い残すと、すごい勢いで校舎の方へと走っていった。
えー。
なんか大事になってないか?
「凄いわねはじめ!まさかあんなに威力があるなんて」
パリスと入れ替わりに、マリーが来て俺に話しかけてきた。
顔を赤くして息も荒い。
相当テンションが上がっているようだ。
「俺も驚いたよ。日本で有名なフレーズだったからそのまま書いてみただけなんだが」
「そうなの!?はじめがいた世界にも、魔法を研究してる人が居たのね」
「いや、そういうのじゃ無いと思うぞ」
多分!
可能性はゼロではないけど!
「はじめ殿ぉぉ、おまたせした!みなを連れてきたぞ!」
パリスの声がしたので校舎の方を見ると、数人の大人と20人ほどの生徒(小学生高学年くらい)がこちらへと走ってきている所だった。
みんな目を輝かせてワクワクした様子だ。
ほんとに好奇心旺盛な人が多いな、この学校は!
「いや、別に待って無いですけど」
というかこんなに注目されても困る。
オリジナルの詠唱って言っても反◯のパクリだし。
「何を言う!詠唱一つで下級魔法が上級魔法に匹敵する威力になるなど、前代未聞なのじゃぞ!」
そう言ってパリスは息を整えて、後ろについてきた生徒+先生(?)に体を向けた。
「皆のもの!この方が先ほど言った詠唱を考案した、冒険者のはじめ殿じゃ。みなもぜひ一度、あの魔法を見て欲しい。はじめ殿、もう一度お願いします」
「はい。と言っても俺は火魔法使えないから・・・マリー頼んだ!」
「オッケー」
俺が慌ててマリーに頼むと、快諾してくれた。
その目は爛々と輝いている。
マリーもあっち側(知的好奇心バリバリ)だったか。
「いきます!【言いたいことも言えないこんな世の中じゃ・・ポイ◯ン!】」
マリーの詠唱に合わせて、さっきと同じように黒い毒液が大量に放たれて、10個ある水晶を飲み込んだ。
そして飲み込まれた水晶が強く光り輝いた!
「なんと!これは上級魔法イリーガルポイズンを超える威力ではないか!」
「凄い!毒とは関係なさそうな詠唱なのに、こんな威力が出るなんて」
「これは詠唱理論の根底を覆す発見ね!」
「なんて威力なの!?」
「反◯やんけ!!」
「俺も使ってみたい!」
「理論通りなら、毒関連のワードの数で威力は決まるはず・・何故!?」
着いてきた人たちも魔法の威力を見て驚いているみたいだ。
どうやら、この詠唱は従来の理論を覆すような大発見らしいな。
みながその威力と詠唱に驚いて・・・・ってあれ?
「反◯やんけ!!」
ほぼ全員が、魔法の威力と詠唱理論との違いに驚いている中、一人的確すぎるツッコミを入れる子がいる。
というかこの子もしかして
「もしかして、リカちゃん?」
俺は的確すぎるツッコミを入れている子に向かってそう問いかけた。
「なんや自分。なんで私の名前しってるん?」
するとマリーの方を向いていた顔がこちらを向いた。
そこには茶色いショートヘアで八重歯が特徴的な女の子がいた。大きな目と八重歯が合わさって凄く可愛い。
身長は130cmくらいだろうか。見たところ小学生くらいに見えるし、特徴はノートと一致するが。
「もしかして、自分同郷者やな!?」
「そうだ。はじめまして、リカちゃん」
俺はこの世界に来てはじめて、同じ世界から来た人と会ったのだった。
年末年始は更新多めにする予定です




