030 はじめの決意
「こんな事があったのか」
手紙に書いてあったのは、衝撃的な内容だった。
他の転生者がいるのか探そうとは思っていたが、まさかこういった形で出会うことになるとは。
この佐々木さんと第一の試練で亡くなった40人弱の転生者達は、正義感あふれる人だったんだろうな。何の縁もない異世界の人を助けるために、命をかけて戦うなんて。
俺には無理だ。とてもじゃないが、そこまで正義に徹する事はできないし、死にそうになったら逃げてしまう。
「どんな事が書いてあったの?」
俺がノートを持って固まっているのを不思議に思ったのか、マリーが心配そうに聞いてきた。
「ああ、このノートはな、
俺はマリーにノートの内容を聞かせた。
・・・・・・・・・・
「はじめが住んでた世界の優しい人達が、この世界を救おうとしてくれてたのね・・」
俺はマリーにノートに書いてあったことをありのまま伝えた。
俺が異世界人であることもバレてしまったが、いずれ話そうとしていたことだ。問題ない。
話をしている途中からマリーが号泣してしまったので、なだめながら読むのが大変だった。今も若干鼻声だ。
「佐々木さんって正義感あふれる、すごい人だったのね」
「ああ、俺もそう思う」
本当に。
今頃、天国へ行って幸せにしていると願いたい。
「あと、はじめが異世界からの転生者だったって事も驚きだったわ」
「すまん。狂言に聞こえるかと思って、言ってなかったんだ」
俺がそう言うと、マリーは頬を膨らませてこっちを見てきた。少し怒っているみたいだ。
「私はこれでもはじめを信用しているんだから。狂言だなんて思ったりしないわよ」
・・そうか。
これは俺の考えが浅かったな。俺もマリーを信頼していた。隠しておくべきじゃなかったな。
「しかも、転生者がいるって話は割りとメジャーだしね」
「そうなのか?」
それにしては転生者の話なんて、どこでも聞かなかったが。
「ここ最近は見かけないから、今はあまり話題にならないけどね。前にこの国に現れた転生者は30年前くらいで、ムサシって名前の人だったらしいわ」
そのノートによると、本当はもっといたんみたいけど、とマリー。
「そんなに珍しい存在なのか」
年に一人ペースで転生してて、こんだけ大きい国ならもう少し現れていても良さそうだが・・
やっぱり転生直後に死んじゃうことが多いのかね。
「ちなみにそのムサシって人はどういう人だったんだ?」
「剣術の達人で、どんな魔物でも一刀両断できるほどの腕前だったらしいわ。あと使ってる剣も凄くて、斬魔刀っていう国宝級の武器だったとか」
「なるほど、剣術の達人か」
名前のまんまだな。
「その人は剣術道場を開いていて、300人くらいの弟子をとる、人徳者だったんだって。でも、20年前に襲来したダークドラゴン群れを一人で討伐した時に、相打ちになって負けてしまったらしいわ」
「ダークドラゴンの群れと一人で戦ったのか!」
人間業じゃないな。
「そう。だからこの国では英雄として扱われているわ。絵本にも登場するし、ムサシさんの来てる服とかも博物館に展示してあるわよ。使っていた斬魔刀は、ムサシさんが亡くなったときに消えちゃったから、展示されてないみたいだけど」
「そんなに凄い人だったのか」
まさに雲の上の人だな。
同じ転生者として尊敬する。
「ムサシさん、斬魔刀は異世界から持ってきた物だから強いんだって言っていたらしいし、はじめの靴も異世界の品だからとんでもない効果がついてるのね」
「どうやらそうみたいだな」
ありがたいことに。
「でも、ムサシさんの斬魔刀は、鑑定しても魔物に対するダメージが2倍になる程度の効果だったらしいし、はじめのその靴ほどぶっ飛んでは無いんだけどね」
「ぶっ飛んでるて」
あってるけど。
このへんの謎も、いつか解明したいところだ。
「それにしても、驚きすぎてなんだか疲れたわ」
マリーは大きく息を吐いてそう言った。
「ちなみに、このノートに書いてある魔物の大量発生ってのは、いつごろの話か分かるか?」
「大体3年前くらいの話ね。うちの里も魔物への結界を強化するのに手を焼いたから覚えてるわ」
3年前か・・・
だとすると、手紙に出てたリカって子もまだ小さいはずだな。
「なら、まずはまだ生きているらしい転生者の女の子を探してみたいな。困っていたら助けたいし、不自由なく暮らしていたなら、色んな情報を聞いておきたい」
小学生くらいってことは6-12歳くらいだろ。
・・って結構幅があるな。12歳だと一人で生きていけそうだが6歳だと絶対に無理だ。
もう少し詳しく書いてほしかったぜ。
「それは良いわね、一人取り残されて寂しい思いをしているでしょうし。協力するわ」
俺の提案に、マリーは笑顔で賛成してくれた。
良かった。
小さい女の子を男一人で探すのは厳しいからな。マリーが協力してくれるなら百人力だ。
「残る4つ試練の方はどうするの?」
「試練か・・」
そっちは悩ましい所だな。
だが、
「俺は、佐々木さんの意思を引き継いで、この試練に挑戦しようと思う」
俺には佐々木さんのような正義感なんて持って無い。
だが、元々は俺達の世界の転生者がやった不始末だ。
俺達の世界の人間が解決するのが筋だろう。
「はじめならそう言うと思っていたわ」
マリーは俺の方をじっと見て、少しおもしろそうにそう言った。
「いや。俺なら関係無い、逃げようぜとか言いそうじゃないか?」
「はじめは最後の最後で逃げることはあっても、そこまでは全力で取り組もうとするじゃない。だから、たぶん試練を攻略しようとするんだろうなって思ったのよ」
意外だ。
俺はマリーにそこまで高評価を貰っていたのか。
そうなんだよ、俺って全力で取り組もうとするからなー。最後の最後で逃げるけど!・・・言うほど高評価じゃない気もしてきた。
「まぁ俺達の世界の人間が起こした不始末だからな、尻拭いはしないと。マリーはどうする?かなり危険な戦いになりそうだから・・」
「乗りかかった船だし、手伝うわよ。私が居ないと、はじめすぐ死んじゃいそうだし」
「そんなことは・・無いこともないな。ありがとう、助かるぜ!」
こうして、俺とマリーは佐々木さんの意思をついで、残る4つの試練攻略を目指すことになった。
邪神だかなんだか知らないが、もう一度封印してやるぜ!




