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駿足の冒険者  作者: はるあき
0章 プロローグ
27/123

026 喫茶店を始めよう(10)

11/24 すいません。改定前の物をあげてしまっていたので、修正します。

 いよいよやってきました!

ドートル喫茶ファンタジスタ支店、オープン初日である!


 といっても、大々的にチラシとかを撒いて宣伝したわけではないので、そんなに客は来ないだろう。ちゃんと店が営業できるかチェックする日みたいなイメージだな。


「今日はいよいよオープン日だ!みんな、研修で教えたとおりに頼むぞ!」


「「「はい!」」」


 うん、良い返事だ。

 フェルもベロアもメニスもやる気に満ち溢れた表情をしている。

 やる気が漲りすぎて、ベロアの服がはちきれそうになっているのが気になるが、やる気が無いよりは良いだろう。

 放っておこう。


「じゃあ、お店の看板出してくるわね」


 フェル達の返事を聞いて準備が整ったことを確認したマリーが、店の表に立て看板を出しに行った。


「出してきたわよ」


「ありがとう。それじゃ、後はお客さんが来るのを待つだけだな」


 俺がそう言うと、フェルとベロアとメニスの三人は厨房前のスペースまで行って、待ちの体勢に入った。

 心なしか、フェルとベロアがそわそわしている気がする。


 さて、俺も厨房に行って調理の準備をするかね。

 俺は厨房に入って、今日使う分のコーヒー豆を砕くことにした。

 客が来てから砕いてたら、提供が遅れるかもしれんからな。


「あ、コーヒー缶をカウンターに出しっぱなしだったな」


 危ない危ない。

 カウンターに荷物が置いてたら、やる気のない店だと思われてしまうところだ。

 俺は厨房から出て、カウンターに缶を取りに行った。

 すると、三人が先ほどと同じ場所に立っており、フェルとベロアはまだそわそわしていた。

 フェルは猫耳をピクピクさせているし、ベロアは胸筋をピクピク動かしている。


「そわそわしている所悪いが、今日はお客さん少ないと思うぞ。特に宣伝とかしていないし」


「にゃ、そうなんですか!」


「まじかよ!この溢れ出るやる気は何処にぶつければ良いんだ!?」


「・・心の奥にしまっておいてくれ」


 俺はそう言ってフェルとベロアのやる気を若干落ち着かせ、厨房に行って準備に戻った。

 さて、コーヒー豆の粉砕も終わったし(露店に売っていた石臼みたいななもので砕いている)、あとは食事の準備かね。


『チリン』


 と、店の玄関の方から鈴を転がしたような音がしてきた。(この店の扉には鈴がついている)

 どうやらお客さんが来たらしい。

 お客さん第一号だし、俺も見に行ってみるか。


 そう思って厨房を出て玄関を見に行くと、そこには今まさに店の中に入ろうとしているリリーさんが居た。


「リリーさん、いらっしゃい!来てくれたんですね!」


俺がそう声をかけると、


「はじめとマリーがやってるお店だし、気になったからね。ちょうど土日は休みだったし」


と、可愛らしい笑顔で嬉しいことを言ってくれた。

 気にかけてもらえているとは。ありがたい。

 リリーさんは土日お仕事休みなのか。なら常連になってくれるかもしれないな。


「それにしても、良いお店ねここ。内装はシックで落ち着くし。はじめ達がお店引き継ぐまで知らなかったけど」


「内装はドートルさんがこだわって作ったみたいですね。やっぱ

「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」


 俺が店の内装について語ろうとしてると、メニスが割って入ってきた。

 そう言えば、お店に入ったお客さんにはまず人数を確認するように教えていたな。

 まずった。


「あら、メニスさん。採用されていたんですね!良かったです」


 さすがリリーさん。

 顔見知りであるとは言え、唐突なメニスの接客に穏やかに対応して、優しい言葉をかけてくれている。


「一名様ですね。それではこちらへどうぞ」


 しかし緊張しているのか、メニスはコミュニケーションを無視して席に案内し始めた。

 戸惑うリリーさん。


「(私、何かまずいこと言ったのかしら?)」


「(いえ。メニスはあれが平常運転なので、気にしないで良いですよ)」


 メニスには、知人が来た場合は決まった対応をしなくて良いと後で言っておく必要があるな。

 まさか、お客さん第一号でミスるとは。

 だが、ちょうど良かったのかもしれない。幸いリリーさんは優しいから、ちょっと変な対応したくらいじゃ文句言ってこないし、接客の練習をさせてもらうのに持って来いだ。


「リリーさん。ちょっと従業員の接客を見たいので、彼らに接客させても良いですか?」


「ええ、良いわよ」


 よし、これで言質は取った。


「じゃあ、フェル・ベロア、接客を頼む」


 メニスにはさっき見せてもらったし、ここは二人に行ってもらおう。


「「はい!」」


 返事を返すと、ベロアが水(普通の井戸水だ)をコップに入れてお盆におき、フェルがそれとメニューを持ってこちらへやってきた。

 うん、しっかり出来ているな。


「こちらおみじゅでごじゃいましゅ!」


「この子可愛い!」


 両手を頬に当てて歓喜するリリーさん。

 ・・うん。フェルは配膳もきちんと出来ているな。

 噛み倒してはいるが、リリーさんが喜んでいることだし問題ないだろう。


「ご注文はお決まりでしゅか?」


「っっ」


 注文も上手く取れているようだ。

 ただ、リリーさんがフェルの可愛さに身悶えしているので、返答が貰えていないようだが。


「・・・・・はっ!ごめん、注文ね。えーっと、ドートルティーのダージリンとタッキーを貰えるかしら」


「はい。ドートルティーのだーづぃんとタッキーでしゅね。少々おまちくだしゃいましぇ」


 我に返ったリリーさんから、ちゃんと注文が取れているな。

 さすがフェル!


「はぁ・・・可愛い・・・」


 リリーさんのココロも鷲掴みにしてくれたようだし、完璧な働きだぜ!

 これでリリーさんは常連になってくれるに違いない。


 厨房に上手く注文を伝えたフェルは、俺とリリーさんの居るところまで戻ってきた。

 そして何かを期待するように、上目遣いで俺の方を見てきた。


「よくやったな。完璧だったぞ」


「えへへへへっ」


 俺が頭をなでて褒めてやると、フェルは頬をほころばせてとびきりの笑顔をみせてくれた。

 何だこの生き物は!

 可愛すぎるだろ!


「可愛すぎるわ!」


 リリーさんも同じことを思っていたみたいだ。

 気が合うな。


「私は冒険者ギルドの受付をしているリリーって言うんだけど、あなたの名前は?」


「私はフェルっていいましゅ。ドートルきっしゃで働いてましゅ」


 早速、リリーと親交を深めてくれているみたいだ。

 いいぞ!その調子でフェルの虜にしてやってくれ!


『チリン』


 お、次のお客さんが来たみたいだ。

 俺が玄関の方に顔を向けると、そこには先輩冒険者のゴリアがいた。


「おお、いらっしゃい!ゴリアも来てくれたんだな!」


「おう!依頼に出かける前に朝食でも食べようと思ってな。今日がオープンだったか?」


 片手を上げながら豪快に答えてくれるゴリア。

 いつみても豪快な男だ。


「そうだ。ちなみに第二号のお客様だぞ」


 そう言って俺は少し横にスライドして、ゴリアの位置からリリーさんが見えるようにした。


「リリーさんじゃねえか。あんたも来てたのか!」


「どうも、ゴリアさん。はじめのお店が気になってね」


 ゴリアが来たことで店の中が賑やかになってきたな。

 今のところお客が知人だけってのは、如何なものかとも思うが。


「なるほど。やっぱりリリーさんも気に

「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」


「なんだこいつは!?」


 ゴリアが追加で何かを言おうとした時、またメニスが割って入ってきていた。


 あ、メニスに注意するの忘れてた。


「気にするな。そういうタイプの店員だ。指示に従ってくれ」


「いやどういうタイプだよ。こんな店員見たこと無いぞ」


「一名様ですね。それではこちらへどうぞ」


 ゴリアのツッコミをスルーして、淡々と案内を始めたメニス。

 ハート強いな!


 そうこうしているうちに、料理の用意が終わったようで、フェルがドートルティーとタッキーを持ってきた。


「こちらがドートルティーのだーづぃんとタッキーになりましゅ」


「ありがとう、フェルちゃん!」


 そう言うと、リリーさんはフェルから受け取ったドートルティーを早速飲み始めた。


「この紅茶おいしい!香りは良いしコクがあるし。あと力が漲ってきている気がするわ!」


 香りについてはマリーの管轄だから分からんが、あと2つはおそらく俺のウォーターボール効果だな。


「ここの飲み物には代々伝わる秘伝の水を使ってるからな」


 嬉しくなったので、少し話を盛ってみた。


「あ、ひょっとしてはじめのウォーターボール使っているのね。ギルド長が凄く美味しいって言ってたから」


「・・・正解です」


 ギルド長め!余計な事を。

 ネタバレしてしまったじゃないか。


 俺がギルド長に怨念を飛ばしていると、後ろではベロアがゴリアにメニューと水を持っていった所だった。


「水とメニューだ!ご注文はお決まりかい?」


「そんなすぐ決まるか!まだメニュー見れてないし」


 ベロアは敬語がおかしいのと、ちゃっちゃと仕事を片付けようとするのが難点だな。

 ああいう対応も、常連になってくれた人なら良いのかもしれないが。メニューは暗記してるぜ、みたいな。


「このカフェオレってやつと、オムライスってやつをくれ」


「カフェオレとオムライスだな。かしこまったぜ!」


 注文を受けて、何故か腕まくりしながら返事をするベロア。


「それかしこまってるのか?」


 ゴリアは中々良い突っ込みをするな。

 毎日店でベロア達にツッコミを入れてほしいくらいだ。


 注文を受けたベロアは、厨房にちゃんとオーダーを大声で叫んで伝えることが出来ていた。

 ただ、マリーの返事がないな。

 ・・・あ、カフェオレとオムライスは俺のメニューか!


 焦った俺は、慌てて厨房に戻ってカフェオレとオムライスを作り始めた。

 オムライスに関しては、チキンライスを作ってストックしているので、それをフライパンで温めて卵をくるむだけだ。

 手抜きではない、時短である。


「ほっと」


 今回も上手く卵で包むことが出来た。


「オムライスあがったぞ!」


 カフェオレはもう少し時間が掛かるし、こいつだけ先に持っていって貰おう。


「りょーかいしたぜ!」


 ベロアの声がしたので、どうやら持っていってくれたみたいだ。

 ちゃんと配膳が出来ているのか気になるところだが、早くカフェオレを作らないといけないしな。


「うまっ!なんだこいつは。ふわっふわだぜ!」


 どうやらゴリアもオムライスを気に入ってくれたみたいだ。

 この調子でカフェオレも気に入ってくれれば良いが。


「はい、カフェオレも出来たぞ!」


「りょーかい!」


 もう注文もないし感想が気になるので、俺はベロアの後についてゴリアの元へと歩いていった。


「カフェオレだぜ!美味いぜ!」


「おう、ありがとよ」


 ベロアの配膳は全く教えたとおりに出来てないが、ゴリアみたいに豪快な人にはむしろあれくらいラフなのが丁度良いのかもしれんな。

 ゴリアも何の不満もなく受け取ってるし。


「ほう、こいつも美味えな」


 良かった。カフェオレも気に入ったみたいだ。


「気に入ったようで良かった」


「おお、はじめか。ここは料理も飲み物も美味いな!全部はじめが考えたのか?」


「カフェオレとオムライスは俺が考えたが、マリーにも幾つか考えてもらったぞ」


「ほう、そうだったか」


 ゴリアはそう言いながら、カフェオレをあおるように飲んで一息ついた。そして、笑いながらこちらを見てきた。


「しかし、Gランクだったお前らが一ヶ月くらいの間でFランクになって更に店まで持つとはな!」


「そう言えばまだ一ヶ月か」


 こっちの世界での生活は密度が濃くて、もう半年くらい経った気になっていた。


「普通、冒険者やりながら店を持つやつなんて居ないぜ。店で儲かるなら、危険な冒険なんてやる必要ねえからな」


「たしかにそうかもな」


 しかし。


「それでも俺は冒険が好きだからな。いつだって胸躍るような冒険がしていたいんだ」


この世界に転移したのも、それが目的だったしな。

ドラゴンと戦ったり、謎の巨大遺跡に挑んだらしてみたいもんだぜ。


「なるほどな・・・じゃあ、店が落ち着いてからで良いから、ギルドにも顔をだすことだな。リリーさんとか寂しがってたぞ」


 なんと。

 リリーさんが寂しがってくれていたのか。

 萌えるな。


「そうだな。元々この店は土日だけやる予定だったし、次の月曜からは普通に依頼を受けに行くわ。リリーさんもゴリアも寂しがるしな」


「ばっ、俺は別に寂しがってねぇよ。ただ飲み仲間が減って少し落ち込んだだけだ!」


 十分寂しがっとるがな。

 ツンデレか?

 全く萌えないぞ?


「まあ、ギルドへ戻るなら良かった。店の事は分からねぇが、冒険のことならいくらでも教えてやるからな!」


「おお!ありがとうゴリア!」


『チリン』


 お、次のお客さんが来たみたいだ。

 見ると、冒険者風の四人組だ。初めての団体客だぜ。

 よし。

 それじゃ、がんばりますか!

 俺は慌てて厨房に戻り、いつでも料理ができる体勢に入った。

・・・



 それからは、嵐のような時間が過ぎた。

 どこから聞きつけたのか、オムライスやナポリタン・カフェオレが美味いという噂が広がったらしく、お客さんが途切れること無く入ってきた。

 閉店の18時までそれは続き、多分全部で数百人は来ていたと思う。

 元手ゼロのドートルウォーターだけで、千杯くらい売れていたな。

 途中で材料がなくならないか心配になったほどだ。



「「「ありがとうございました!」」」


 そして今、全てのお客さんが帰ったところだ。


「凄い沢山のお客さんが来ましたね」


「途中で足がとまりしょうになりました」


「筋トレよりきつかったぜ」


 従業員の三人も、疲労困憊になっていた。


「もう、紅茶いれすぎて腕が上がらないわ」


 厨房から出てきたマリーも、さすがに堪えたらしく右手を押さえている。


「本当にみんなお疲れ様。今日は想定以上にお客さんが来てしまったな・・・だが見てくれ、そのおかげでこんなに稼げたぞ!!」


 俺は今日の売上が入った布袋を、テーブルの上にで逆さにした。

 すると、そこからは数千の銅貨や銀貨がこぼれ落ちてきた。

 お客さんが多かったのに加えて、あまりに忙しかったので、途中で値上げしてしまったのでかなりの額になっていた。(それでも客足が途絶えなかったのが凄いところだ)

 合わせて銀貨1000枚、日本円換算で100万円くらいになった。


「おお!こりゃ凄いな」


「これだけあればお家もかえそうでしゅ!」


「これだけのお金を一度に見たのは初めてです」


 三人共、かなり驚いているようだ。

 よし、従業員の皆のやる気を上げるためにも、ここは還元しておくか!


「よしっ!じゃあ今日だけ特別に、この稼ぎを山分けにするぞ!一人銀貨200枚だ」


「ほんとでしゅか!これだけあればお母しゃんにお薬買ってあげられるでしゅ!ここで働くことにして、本当に良かったでしゅ」


「まじか!やったぜーーーー!!!これで好きなだけプロテイン買ってやる!」


「ありがとうございます!これで親に借りていたお金を返すことが出来ます」


 フェルもベロアもメニスも、凄く喜んでくれたようだ。

 メニスとフェルなんか目に涙を浮かべて歓喜している。

 ここまで喜んでもらえると、やったかいがあるな。


「(ちょっと大丈夫なの?いきなりこんな大盤振る舞いして)」


「(大丈夫。うちのメニュー、原価めっちゃ安いし)」


 流石に今日だけだと多少赤字になるかもしれないが、明日で十分取り返せるだろう。

 というか一般家庭の年収が銀貨1000枚だと言われているこの世界で、これだけ稼げるって凄いな。一年も営業してれば、大金持ちになれそうだ!


「(それなら良いけど。・・・でも、こんなに稼げるとやる気が凄い出てくるわね!毎日営業してれば億万長者になれるわよ!)」


 マリーも同じことを考えていたようだ。


「(そうだな。ただ毎日だと飽きられるかもしれんからな。冒険者としての活動も大事だし。二足のわらじにはなってしまうが、両方やっていこうぜ!)」


「(うーん。そう言われればそうね。頑張りましょ!燃えてきたわ!)」


 こうしてこの日から、俺とマリーによる平日は冒険者、土日は喫茶店経営の二足のわらじ生活が始まった。

 どっちも全力でやってやるぜ!


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